表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/37

33

【ヴァルデン視点、つづき】


「……間違いない。あの野郎……最初から俺たちの作戦に完全に気づいてやがったんだ!」


俺の絶望に満ちた叫び声が、コントロールルームに響き渡った。


「あいつは洗脳プログラムの存在を知っていて、わざとログインしてきたんだ!システムの脆弱性を利用して座標を乗っ取り、真っ向から物理的にサーバーを崩壊させにきたんだ!!」


五年間の準備も、三億人のユーザーも、あの悪魔のような小僧の手の平の上で、完全に踊らされている。


そして、レオはトドメを刺すように、インベントリから一つの丸い石ころを取り出し、それを全力で、世界の親オブジェクトとなって旋回し続ける舟めがけて投げつけた。


「な、なにしやがる!?」


石ころが舟に激突した瞬間。


ピーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


火星の地下サーバー室に、鼓膜を破るような最上位の警告アラートが鳴り響いた。すべてのモニターが真っ赤に染まり、エラーの文字列が滝のように流れ落ちていく。


「ボス!! レオの奴、やりました!! 空間全体を振り回している回転軸の核である舟に、石ころを激突させました!!」


「い、石がぶつかったくらいで何だというんだ!」


「ただの衝突じゃありません! 今の舟は世界の親座標そのものです! そこへ、レオが投げた石ころが衝突したことで、システム上で空間が、自分自身の内部にある物体と衝突したという自己衝突の矛盾判定が発生したんです!」


「自分自身への衝突だと……!?」


「はい!! 石が舟に衝突すると、物理エンジンは舟を弾き飛ばそうとします! しかし舟は世界の親座標! 舟が動けば、それに追従して世界全体……つまり投げた石自身の座標も全く同じ方向へ全く同じだけ動いてしまうんです!!」


「……ば、馬鹿な!?」


「石が船を弾く際、普通なら反発係数に従って石は船とは反対方向へ動きます!しかし…しかし船は絶対座標です!ベクトルを持たないので石は反発できません!これにより、親と子が完全に同期して同方向へ動くことになり、その差は常にゼロです!これにより自己参照の無限ループが発生しました!!」


「システムは反発係数を割り出すために二つの物体の相対速度を計算しています!しかし反発力がゼロなので物理エンジンの根幹でゼロ除算が発生したんです!!」


「ゼロ除算……!?」


「行き場のない無限大のエネルギーが非数のエラーとなって、空間を定義するトランスフォーム行列に伝染! 3D空間の座標が完全に消失しました!!」


「さらに、消失した次元のエネルギーがノイズを放ちながら……世界が平面の折り紙のように圧縮されていきます!!」


モニターの中の映像では、凄まじい電子ノイズの轟音が響き渡る中、世界が折り紙のようにパタパタと不自然に平面に折り畳まれ、圧縮されていく。


自己衝突によるゼロ除算で完全に破壊されたゲーム内の三次元空間は、奥行きの概念を失い、内部から完全に押し潰されて崩壊していく。俺たちは為す術もなくその惨状を見つめることしかできなかった。


バツンッ!!


ついにサーバーのメインフレームが火花を吹いてショートし、地下制御室のすべての電源が落ちた。


「お、終わった……のか?俺たちの5年間の計画が……3億人を洗脳してレオを失脚させるはずだった復讐が……」


俺は完全な暗闇の中で膝から崩れ落ち、冷たい床に両手をついた。


「また……。また俺は、あの化け物の手の平の上で踊らされていただけだったのか……!! 俺が五年間、準備した復讐すらも、あいつにとってはただの暇つぶしの遊びだったのか!!」


俺は床を狂ったように叩き、獣のようなうめき声を上げるしかなかった。


だが、神帝レオの容赦ない断罪は、ただのゲームの破壊だけでは終わらなかったのだ。


ピーーーッ! ピーーーッ!


突然、暗闇の制御室で赤い非常灯が稼働し、部下が悲鳴を上げた。


「ヴァ、ヴァルデン様!! 大変です! サーバーが物理的に崩壊した衝撃で、システムを守っていた大元のファイアウォールが完全に焼き切れました!」


「……な、なんだと?」


「隠蔽していた洗脳プログラムのソースコードだけじゃありません! 我々のメインシステムに保存されていた、この五年間の中央へのハッキング記録、裏金の洗浄ルート、さらには……」


部下の声が、極限の恐怖でひっくり返った。


「サ……サーバーが死に際に全データを緊急ダンプで吐き出し、タイタンを含む太陽系全域のグローバルネットワークに向けて一斉に自動流出しています!!」


「あ……あ……」


俺の脳が、完全に恐怖でショートした。


我々のログは、何重にも暗号化して物理的に隔離されたドライブに隠していた。


だが、あいつは単にゲームを破壊しただけではない。サーバーをバグで爆破することで過電流を引き起こし、物理ドライブごとセキュリティの壁をすべて吹き飛ばした。


そして、システムの最後のあがきである緊急ダンプすらも利用し、俺たちの企みを、全太陽系の市民の前に白日の下に晒したのだ。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!! レオォォォォォォォォッ!!」


俺は血を吐くような叫び声を上げ、自分の髪を力任せに掻きむしった。


悔しい。悔しい。悔しい!!!


かつて、俺はタイタンで最高特権を享受し、太陽系の運命すらも裏から指先一つで操っていたはずなのだ。誰からも傅かれ、絶対の権力と富を享受していたはずなのだ。


その俺の人生のすべてを、俺の誇りを、俺の積み上げたすべての悪意を、あいつはただの一瞥で、ただの遊びのような手つきで、完全に粉砕しやがった!


あいつは俺のすべてを知り尽くした上で、俺が最も絶望するタイミングを測り、そしてすべてを奪い去っていったのだ!


「絶対に許さねえ……! 殺してやる! 俺のこの手で、必ずあの悪魔の喉笛を掻き切ってやる……!」


ズガァァァァァンッ!!!


俺が呪詛を吐き捨てたその瞬間、火星の地下要塞全体を揺るがすような、凄まじい爆発音が連続して轟いた。


「な、なんだッ!?」


「ヴァ、ヴァルデン様! 地上の迷彩防衛システムが、たった今飛来したタイタンの超光速降下艇によって完全に沈黙させられました! は、早すぎる! まるで最初から我々の基地の座標を正確に知っていたかのような速度です!」


コントロールルームのコンソールから、太陽系各地に散らばっていた俺の裏組織の幹部たちからの悲鳴のような通信が次々と飛び込んできた。


『ボス! 助けてくれ! 治安維持局が踏み込んできた!』


『いやだ、離せ! 俺は元ランク4だぞ! ぎゃあぁぁぁっ!』


俺の五年間の結晶である裏のネットワークが、たった数分の間に、太陽系のあちこちでドミノ倒しのように完全に制圧されていく。


「やめろ……俺の組織が……俺の王国が……っ!」


ズガァァァァァンッ!!!


ついに、コントロールルームの分厚いチタン合金の防爆扉が、指向性爆薬によって木端微塵に吹き飛ばされた。


「そこまでだ!! 全員、動くな!!」


もうもうと立ち込める硝煙と粉塵を突き破って雪崩れ込んできたのは、タイタンから直通の超光速船で極秘裏に派遣されていた、第一近衛師団の完全武装の特殊部隊だった。


漆黒の強化装甲服に身を包んだ数十名の屈強な兵士たちが、無数の高出力レーザーライフルの赤い照準を、俺の眉間や胸にピタリと突きつける。


「ひぃぃっ! 撃たないでくれ!」


プログラマーたちは、圧倒的な帝国の武力を前に一瞬で戦意を喪失し、悲鳴を上げて床に伏せた。


さらにその後ろからは、別の部屋に居た、かつて俺と同じようにランクを落とされ、この復讐計画に共同で資金を出していた旧ランク4や旧ランク5の元高官たちが、兵士に引きずり込まれ、無様に床に投げ出された。


「ひぃぃっ! ヴァ、ヴァルデン! お前のせいだ! お前がこんな計画に誘うから!」


「お、俺は知らないんだ! こいつに脅されて、無理やり資金を出させられただけなんだ! 助けてくれ!」


かつてタイタンの中枢でふんぞり返り、市民を見下していた特権階級の男たちが、無様に泣き叫びながら責任をなすりつけ合っている。その醜悪な光景が、俺の敗北をより一層惨めなものにしていた。


「ふざけるな……! おわっ、終わってたまるか!」


俺は懐に隠し持っていた高出力ブラスターを引き抜き、悪あがきで部隊長に向けて発砲しようとした。


ビィンッ!!


「がぁぁぁぁっ!?」


俺の指が引き金を引くよりも早く、不可視のレーザーが俺が持っていたブラスターを撃ち抜き、炭化させて吹き飛ばした。


「ヴァルデン! 無駄な抵抗はやめろ!」


部隊長らしき大柄な男が、冷酷な足取りで俺の前に歩み寄った。


「貴様らの五年前からの違法兵器密売、政敵暗殺、裏金工作……そして今回の、三億人の市民を人質に取った大虐殺テロ計画! すべての動かぬ証拠ログは、たった今、太陽系全域に公開された! もうどこにも逃げ道はない!」


部隊長は、俺の髪を乱暴に掴んで顔を上げさせ、氷のような声で死刑宣告を突きつけた。


「神帝陛下で在らせられるレオ様は、貴様らが火星の地下でコソコソと鼠のように立ち回っていたことも、その卑劣な洗脳計画も、五年前からすべてを完全に把握しておられたのだ!」


「ご、五年も前からだと……!?」


「そうだ! 泳がせて、すべての証拠と関係者が一箇所に集まるこの日を待っておられたのだ! 陛下への大逆罪により、貴様らに生きて陽の光を拝む資格はないと思え!」


「……ハッ、ハハハハハッ……!」


俺はブーツで背中を踏み躙られ、右腕の激痛に苛まれながらも、顔を冷たい床に押し付けられたまま、壊れたように笑うしかなかった。


「立て! 貴様らを裁くため、タイタンへ連行する!」


兵士たちに乱暴に両腕を掴まれ、俺は火星の暗い地下施設から、大型のエレベーターで地上へと引きずり出された。


ハッチが開き、むき出しになった火星の赤い大地と、薄暗い空が俺の視界に広がる。


俺がゆっくりと空を見上げた時、俺の心はついに根元から完全にへし折られた。


「……あ……ああ……」


火星の上空、太陽の光すらも完全に遮るほどの巨大な影。


そこには、タイタン帝国の誇る全長十キロメートルに及ぶ『超弩級戦艦・タイタサン』を筆頭とする、帝国宇宙艦隊の威圧的な大船団が、空を埋め尽くすように浮かんで俺を見下ろしていたのだ。


あいつはゲームの中からサーバーを破壊するのと同時に、とっくに俺たちの隠れ家を特定し、この圧倒的な軍事力を火星の空に配置して、ただ俺が弾き出されてくるのを待っていたのだ。


五年の歳月。三億人の洗脳。太陽系全土を巻き込む復讐劇。


それが……ただのスライムと木の枝と石ころの前に、完全に粉砕されたのだ。


俺の積み上げた悪意も、執念も、あの小僧にとってはただのお遊びでしかなかった。俺は最初から最後まで、絶対的な上位存在であるレオのオモチャ箱の中で踊らされていた、ただのピエロに過ぎなかったのだ。


「化け物め……! あの男は、人間の理解を超えた悪魔だ……!!」


ガチャンッ!


冷たい拘束具が、俺の腕に深く、無慈悲に食い込む。


俺は、絶対神帝レオという存在の底知れぬ深淵に完全に心をへし折られ、もはや抵抗する気力すら失い、ただ無様に絶望の底へと引きずり出されていくのだった。

もし、少しでもおもしろいと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ