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あの月面要塞化事件から更に一年が経過し、俺は八歳になった。


太陽系絶対神帝である俺の生活は、相変わらずタイタンの王宮の玉座で完結している。


かつて俺が適当に放ったアドバイスから、月面自治州が生み出したウサギの跳躍(ワープ技術)は、この一年間で地球と火星によって完全に解析され、瞬く間に太陽系の標準インフラとして普及してしまった。


ただし、ワープというのは空間そのものを物理的に捻じ曲げて距離をすっ飛ばす危なっかしい技術だ。


同じ経路で同時に空間を捻じ曲げると、次元が衝突して大事故になってしまう。


そのため、太陽系全体でワープ用の経路が何万通りにも極細に分割され、信号機のようにタイミングをずらして厳密な交通整理が行われていた。


その細かく分けられた道を順番に使い、地球人が火星のラーメン屋に昼飯を食いに行き、月面人がタイタンにピザを出前するような、信じられないほど便利な超・物流時代を謳歌しているのだ。


俺としても、出前がアツアツのまま届くので、この状況にはわりと満足していた。


……つい最近までは。


「あああああっ!! また! また攻撃がすり抜けた!! なんでだよ!!」


俺は玉座の上で、最新のホログラムゴーグルを強引に消して絶叫した。


「レオ様。冷たいメロンソーダでもお持ちしましょうか」


専属メイドのエルナが、涼しい顔でグラスを差し出してくる。


「負けたんじゃない! ラグのせいで理不尽にやられただけだ!」


俺はメロンソーダを一気飲みしながら、怒りに震えていた。


今、俺が寝食を忘れてドハマりしているのは、地球連邦で大流行しているバーチャル空間のオンライン対戦ゲームだ。


このゲームのメインサーバーは地球にあるため、俺はここタイタンの王宮から、地球のネットワークに常時接続してプレイしなければならない。


俺は無限の国家予算をフル活用し、このゲームに信じられないほどの重課金をしていた。


出現確率0・001パーセントの伝説の神帝シリーズを完凸させ、絶対無敵の王族アーマーで全身を固めている。


プレイヤースキル? なにそれ。対人ゲームは札束で殴って無双するもんでしょ、という最悪なプレイスタイルである。


その甲斐あって、俺はサーバー内で絶対に倒せない課金王として君臨し、理不尽なパワーで地球の一般プレイヤーたちを蹂躙し続けていたのだ。


だが、ここ数日。


俺の無敗伝説は脆くも崩れ去っていた。


原因は、俺のプレイスキルでも、無課金勢の努力でもない。


ただひたすらに、通信環境に深刻なタイムラグが発生するようになったからだ。


太陽系中で一般人たちがラーメン食べに行ったりピザを宅配するとか、細かく分けられた経路でワープを乱用しまくっているせいで、宇宙空間のあちこちが常に捻じ曲げられている。


空間が捻じ曲がれば、そこを通っている通信の電波やデータも当然のように一緒に捻じ曲げられ、遠回りを強いられてしまうのだ。


結果として、タイタンから地球サーバーへと繋がっている俺のネトゲの通信が不安定になり、致命的なタイムラグを引き起こす。


俺の画面では敵に完璧に剣を当てているのに、サーバー上では通信遅延のせいで空振りと判定される。


逆に、突然自分のアバターが画面の端にワープし、気づいた時には初期装備の初心者プレイヤーに木の棒でボコボコにされてゲームオーバーになっているのだ。


「ふざけるなあああ!! 僕の何億円もかけた最強アーマーが、初心者に負けるなんてあり得ない!! ラグい! ラグすぎる!!」


俺はクッションに顔を埋めてジタバタと暴れた。


俺が何のために地球と火星の大統領たちに仕事を丸投げして、この平和な太陽系を構築したと思っているのだ。


俺がストレスフリーで、快適にオンラインゲームで無双するためである。


一般庶民の交通の便のせいで、俺のネトゲの回線が悪化するなど、断じて許されることではない。


「エルナ!! 今すぐ地球の大統領と、火星の議長と、月の代表を通信で繋いで!!」


「かしこまりました。ただちに首脳陣を招集いたします」


数分後、玉座の間の空中に三人のホログラムが展開された。


『偉大なる神帝陛下。自ら通信をお繋ぎいただき、光栄の至りに存じます。この度はいかなるご用件でしょうか。太陽系全土のシステムは現在、極めて順調に稼働しておりますが』


トップ三人が、微塵の隙もない冷静で知的な態度を保ちながら、最高権力者である俺に深い敬意を示して一礼する。


俺はホログラムゴーグルを首にかけ、腕を組みながらふんぞり返って言い放った。


「お前らさぁ、通信ラグをなんとかして! できないなら、今日から太陽系でのワープは全面禁止だからね!」


俺の理不尽極まりない宣告に対し、三人の顔に一瞬だけ微かな緊張が走ったが、彼らは決して取り乱すことはなかった。


地球の大統領が、代表して極めて厳格かつ理路整然と反論する。


『神帝陛下。恐れながら進言いたします。パラダイムシフトを起こしたワープ技術は、すでに太陽系の社会システムや日常に完全に溶け込んでおります。今更ワープを禁止するような決定が下されれば、物流も経済も大混乱となり、致命的な社会機能の麻痺を引き起こすことは必定。どうか、その御言葉だけは再考していただきたく存じます』


「知らないよ! お前らの移動の仕方がどんくさいから、宇宙全体が重くなって僕のゲームがカクカクするんでしょ!」


月面代表が、眉をひそめて極めて論理的に返す。


『どんくさい……と仰いますと? しかし陛下、目的地へ向かうためには、どうしても巨大な質量を物理的に移動させなければなりません。ワープ時の空間干渉は、現在の物理法則上避けられない現象です』


「だから、その移動方法が古いって言ってんの。お前ら、太陽系を回すエリートなんだろ? だったらゲームのファストトラベルくらい真似して作ってみせろよ」


『……ふぁすと……とらべる……?』


三人は顔を見合わせ、その未知の単語が示す概念を瞬時に推し量ろうと沈黙した。


当然だ。現実の物理法則でゲームのシステムなど再現できるわけがない。


俺だってそんなことは分かっている。だが、ネトゲで負け続けて腹が立っていたので、あえて実現不可能な無茶振りをして嫌味を言ってやったのだ。


「ゲームで遠くの町に行く時、いちいち道を歩かないでしょ? ボタン押したら画面からパッとキャラが消えて、真っ暗なロード画面の後、目的地にポンって出るじゃん」


『真っ暗なロード画面……。キャラクターが消える……』


「そうだよ。現実でも同じように、移動の時だけこの世界から一回消えちゃえば、途中の空間を捻じ曲げて宇宙を重くすることもないでしょ?」


『一回消える、ですか。しかし陛下、それでは質量保存の法則が根底から……』


火星議長が即座に物理的な矛盾を指摘しようとするが、俺はわざとらしく鼻で笑ってやった。


「はーあ。お前ら、わざわざ重いマップを引っ張りながら進む縛りプレイが好きだね。まぁ、頭の固いお前らにはゲームの仕様を現実に作るなんて無理か。とにかくラグ直せないならワープ全面禁止ね! じゃあね!」


俺は無理だと分かっていながらも、憂さ晴らしで言いたいことだけ言うと、一方的に通信を切断した。


「ふんっ。太陽系のトップに回線弱者を強いるなんて、いい度胸だよ」


俺は鼻息を荒くしながら、エルナの持ってきてくれた冷たいジュースをストローで一気に飲み干した。


「太陽系のインフラを人質に取るとは……さすがはレオ様でございます」


エルナが優雅に微笑む。


俺はホログラムゴーグルを被り直し、今日はログインボーナスだけ貰って寝よ……、とふてくされていた。


俺としては、本当にただの嫌味のつもりだった。物理的に無理なのは分かっているから、せいぜい中継アンテナでも増やして通信環境を良くしてくれればそれでいい。


だが、モニターの向こう側で取り残されたトップ三人は、やがて宇宙の真理へと至る、極めて高度で恐るべき議論へ突入していたのである。



---



『……地球大統領。ワープが禁止になれば、火星の経済的損失は計り知れません。早急な対応が必要です』


火星議長が、電子端末を高速で操作しながら焦った声で告げる。


『わかっておる。地球も同じだ。だが陛下は、ただ感情的に無茶を仰っているわけではない。我々を導くための真理が、あの比喩の中に隠されているはずだ』


地球の大統領は厳格な顔つきのまま腕を組み、深く沈思黙考した。


『途中の空間をなぞるから重い……画面から消える……真っ暗な画面……ポンと出る……そして、縛りプレイ。陛下は一体、何を喩えておられるのだ?』


火星議長が、モニターに無数の数式を展開しながら推論を述べる。


『途中の空間をなぞる、とは明確です。我々が今、ワープによって無理やり引き寄せている空間のことでしょう』


月面代表も頷き、冷静に考察を重ねる。


『月の我々が開発したワープは3次元空間を強引に折りたたんでいる。その結果、重力波の歪みが生じて宇宙全体が処理落ちし、通信ラグを生んでいる。これは観測データとも完全に一致します』


『そうだ。だが陛下は途中の空間をなぞるな。真っ暗な画面を挟めと仰った』


大統領が鋭い視線を空中に向ける。


『真っ暗な画面……。我々のいる空間から外れた真っ暗な場所。太陽の後ろ側に回り込めということか? いや、あるいはブラックホールの中か?』


火星議長が科学的な推測を口にする。


『ブラックホールの特異点に飛び込めば、空間そのものが存在しない真っ暗な領域に行ける可能性もあるにはありますが』


しかし、月面代表が静かに首を振った。


『計算上、不可能です。そのような極限環境に入れば、我々の体は潮汐力によって原子レベルで分解されてしまう。通信のラグを根本から解決する理論には結びつきません』


トップ三人の間で、極めて高度な物理学の議論が静かに、だが熱を帯びて交わされる。


『では一体、どこへ行けというのだ。この空間から外れて、かつ安全に移動できる真っ暗な場所など……』


その時、地球の大統領の目が、微かに見開かれた。


『……待て。我々は根本的な前提を見落としていないか?』


『前提、ですか?』


『我々は今まで、どこへ行くかという物理的な場所ばかりを議論していた。だが神帝陛下は、画面からパッと消えると仰ったのだ』


大統領の声に、静かな確信が宿る。


『画面とはなんだ。……それは我々が観測できる3次元空間のことだ。3次元空間から完全に消えて、どこにもいなくなる真っ暗な場所……3次元空間に存在しない場所……!』


地球の大統領の目に、恐ろしいほどの理知の光が閃いた。


『我々の3次元空間を包み込む上位次元……4次元空間そのもののことか!?』


大統領の言葉に、火星議長と月面代表の動きがピタリと止まった。


『我々は今まで、3次元の世界にいながら、4次元を空間を曲げるための道具としてだけ利用していた。例えるなら片足を4次元へ突っ込んだだけの状態だ。だから3次元の空間に致命的な負荷が掛かっていたのだ』


月面代表が、息を呑むような声で続く。


『そうか、陛下は3次元空間にいたまま進むなと仰せでした。3次元の座標軸を捨てて、上位次元である4次元空間である真っ暗な画面へ直接移行しろと』


『しかし大統領』


火星議長が、理性を総動員して反論を試みる。


『3次元の座標を捨てて上位次元へ行けば、我々の肉体は情報の塵となって次元の狭間に散逸するのでは?質量を持ったまま高次元空間に滞在することは、現在の物理法則に完全に反します』


火星議長の極めて理にかなった懸念に対し、大統領はゆっくりと首を横に振り、口元に自嘲気味な笑みを浮かべた。


『だからこその、画面から一回パッと消える、なのだ、議長』


『……どういう意味です?』


『質量を持った物理的な肉体のままだから、空間に干渉し、歪みを生み、次元の狭間で砕け散るのだ。つまり、我々自身を純粋な量子的情報データへと変換し、物質としての存在を一時的に完全に消去して、画面からパッと消えるのだ』


『そして質量ゼロの情報体として、4次元空間である真っ暗な中を抵抗ゼロで瞬時に送信し、目的の3次元座標で再び物質としてポンっと出るために再構築をするのだ』


月面代表がごくりと唾を呑み込みつつも、枯れた声で言う。


『こ、これこそが、陛下の仰ったファストトラベルの真意!?』


その瞬間、会議室に深い沈黙が落ちた。


火星議長は、そのあまりにも無駄のない理論の美しさに言葉を失い、ただ深く息を吐き出した。


『……3次元の空間を曲げるのではなく、一度情報となって高次元へ離脱し、別の場所で実体化する。これなら確かに空間は一切歪まない。通信ラグなど起きようがない』


『しかも、情報体となれば量子もつれによって移動速度の物理的限界すら超えられる。まさに途中の道なぞない距離の完全な無視だ』


月面代表もまた、己の知の限界を超えたその境地に戦慄し、極限の知的興奮にただ静かに天を仰いだ。


『そして陛下は、我々が必死に空間を折りたたんで移動していた苦労を、縛りプレイと仰った……。自ら進んで不便な制約を背負い込んでいると、看破しておられたのだ』


地球の大統領は、畏怖と知的な敗北感がないまぜになった瞳で、虚空を見つめた。


『我々が全人類の叡智を結集し、奇跡のパラダイムシフトだと驕り高ぶっていたワープ技術すら……神帝陛下の次元から見れば、自ら進んで苦労を背負う縛りプレイに過ぎなかったというわけか』


『我々が必死に数式で解き明かそうとしていた宇宙の真理を、陛下はファストトラベルや、画面から消えるといった、平易な言葉にわざわざ翻訳して我々を導いてくださった』


『我々が3次元の箱庭でもがいている様を、陛下ははるか高みから俯瞰しておられたのだろう。……完全に我々の敗北だ』


三人は俺の単なるゲームへの嫌味から、太陽系の次元パラダイムシフトの真の理論を完全に構築してしまった。


『直ちに太陽系全域の国家予算と頭脳を再配置する。陛下の通信ラグを解消するため、急ピッチで完全なる4次元技術を実用化させるのだ』





二か月後。


完全な4次元空間へのアクセスを手に入れた太陽系の人々は、前世のラノベによく出てきたアイテムボックスのような魔法の空間収納を、科学技術で完全に再現してしまった。


この時代において、それはパーソナル・バルク(個人用高次元位相庫)と名付けられ、太陽系全域の市民に無償の基本インフラとして配布された。


ここタイタンの居住区でも、一般市民たちの生活は文字通り根底からひっくり返っていた。


朝、タイタンの中央居住区に住むあるサラリーマンが目を覚ます。


彼は出勤時間のわずか一分前に、のんびりとベッドから起き上がった。


かつてなら、地球にあるオフィスへ向かうため、満員のワープゲート行きシャトルに乗り込み、数十分の通勤ラッシュに揉まれる必要があった。


だが今は違う。


彼は空中に向かって軽く指を弾く。


すると何もない空間に光の波紋が広がり、自分専用の4次元空間収納――パーソナル・バルクの入り口が開く。


彼はそこから、クリーニング済みのシワひとつないスーツと、火星のカフェで昨日買った淹れられたばかりの熱々のコーヒーを取り出した。


「いやぁ、バルクの中に保存しておけば、熱も時間も完全に停止するから最高だ」


コーヒーを飲み終えた彼は、カバンすら持たない。必要な資料もパソコンも、すべてバルクの中に放り込んであるからだ。


彼は手元の端末を操作し、ファストトラベルのアプリを起動して地球のオフィスの座標をタップする。


その瞬間。彼の肉体は純粋な情報データへと変換され、3次元空間からフワッと消失した。


そしてタイムラグは完全にゼロ。次の瞬間には、数億キロ離れた地球のオフィスの自席に、空間の歪み一つ残さずにポンッと実体化リスポーンしているのだ。


移動時間ゼロ。通勤ラッシュ消滅。


さらにパーソナル・バルクとファストトラベルの普及は、太陽系の物流システムにも究極の革命を起こした。


タイタンの主婦たちは、もはや物理的なスーパーへ買い出しに行くことさえない。


「今日の夕食は……地球の北海道産のカニと、火星の新鮮な野菜にしようかしら」


自宅のホログラム端末で市場のデータベースにアクセスし、購入ボタンを押したわずか0・1秒後。


空間の波紋と共に、彼女のパーソナル・バルクの中に、数億キロ離れた産地から直接、新鮮な食材がタイムラグなしで転送されてくる。


3Dプリントフードもあるにはあるが、やっぱりホンモノが食べたくなる。


巨大な貨物宇宙船も、長距離輸送トラックも、広大な物流倉庫も、すべてが過去の遺物となった。


欲しいものは思考した瞬間に手元に出現する、完全無欠のオンデマンド社会が完成したのである。


引越しだって、家財道具一式をバルクに放り込んで、自分は新居へファストトラベルするだけで五分で終わる。


距離。重量。容積。


そういった三次元の物理的な縛りプレイから、人類は完全に解放されたのだ。


かつて宇宙を飛び交っていた輸送船は姿を消し、不要になった広大な道路や宇宙港は、緑豊かな公園や娯楽施設へと一気に造り替えられ、タイタンの街並みは美しいユートピアへと変貌を遂げた。


タイタンの広場では、今日も市民たちが俺のいる王宮の方角へ向かって深く祈りを捧げている。


『レオ様は、空間の歪みや事故の危険を完全に排除し、我々にあまねく神の奇跡を与えてくださった!』


『距離や重さという物理的な呪縛から全人類を解放された、神帝陛下こそ真の救世主であられる!!』


太陽系全土が俺の適当な発言から爆発的な進化を遂げ、市民たちは幸福の絶頂にいた。


だが。


この夢のような社会インフラの大革命は、太陽系で最も偉い八歳児のゲームライフだけには、最悪の結末をもたらしていた。


問題は、その4次元技術がもたらした、とんでもない副産物だった。


太陽系の絶対的な基本システムとなったその4次元技術は……当然のように、地球のバーチャルゲームの中にも最新アップデートとして即座に採用されてしまったのである。



――


俺の玉座のバーチャルゲーム機には、空間の歪みを一切受けない最高値のPingをたたき出した宇宙最速の神回線が直結された。


俺の適当な嫌味のせいで、急ピッチで太陽系の技術レベルは次元を飛び越えてしまったようだが、そんなことはどうでもいい。


「よっしゃぁぁぁ! 全然ラグくない! これでまた無双できるぞ!!」


俺は大喜びでバーチャル空間の戦場にログインした。


「え……? なんだこれ……」


俺はバーチャル空間の戦場で、絶望の声を漏らした。


大型アップデート! 4次元移動システム実装! 空間を自由に跳躍して戦おう!というポップアップが出ている。


対戦相手の無課金の初心者プレイヤーたちが、4次元空間を経由して俺の目の前からふっと消え、背後や上空からノーモーションで次々と斬りかかってくるのだ。


「い、痛い!! なんで! 僕、最強の課金アーマーなのに!!」


俺は慌てて伝説の神帝剣を振り回すが、敵のキャラは空間そのものを自由に行き来するため、ただ札束で物理攻撃力を上げただけの俺の鈍重な攻撃など一切当たらない。


ゲームの環境は、もはや課金アイテムで無双できる時代に完全に終わりを告げていた。


4次元軌道を予測し、空間跳躍を駆使して戦うという、純粋で高度なプレイヤースキルが絶対に必要なゲームへと変貌してしまったのだ。


「あああああっ!! やられた!! また負けたぁぁぁっ!!」


俺はボロボロにされたアバターを見つめながら、ホログラムゴーグルをかなぐり捨てた。


「こんなはずじゃない!!ただ単に札束で気持ちよく、俺TUEEEしたかっただけなのに!!」


通信ラグは完璧に解決したというのに、俺はプレイヤースキルの無さのせいで、前よりもさらにボロ負けするようになってしまった。


「レオ様。紅茶をお持ちいたしました」


エルナが、どこからともなくパーソナル・バルクの4次元空間を経由して熱い紅茶をサッと取り出し、俺に差し出してきた。


「うるさい! こんなクソゲーもうやらない! 次はもっと課金だけで勝てるゲーム探してやる!!」


かくして、太陽系は俺の適当な嫌味のせいで4次元という神の領域へと到達し、全人類が究極の平和と利便性を手に入れた。


しかし、俺のゲームライフだけは、プレイヤースキルという絶対的な壁の前に、悲惨な敗北を繰り返すことになるのであった。

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