放課後 契約とグレイ
放課後。
チャイムが鳴って、教室が一気にゆるむ。
「終わったー」
アムネが大きく伸びる。
「帰る?」
スイが振り返る。
「帰る帰る」
「アビィも一緒行こ」
軽い誘い。
「うん」
短く返す。
3人で教室を出る。
廊下。
夕方の光。
(……少し落ち着く)
そんな空気の中。
外へ出る。
校門へ向かう途中——
ふと。
声が聞こえる。
低くて、通る声。
「——貴様は、私と契約する運命だ」
(……え?)
足が止まる。
少し先。
植え込みの近く。
一人の女子生徒。
長めの髪。
姿勢がやけにいい。
その前に——
野良猫。
じっと見つめている。
「逃げても無駄だ」
真剣な声。
「既に縁は結ばれている」
(なにこれ)
アムネが吹き出しそうになるのをこらえる。
スイは無言で見てる。
猫は——
普通に興味なさそう。
「……くっ」
少し間。
「この世界の理は、まだ私を試すか……」
完全に入り込んでる。
そのとき。
「グレイ」
アムネが声をかける。
ピタッ。
動きが止まる。
ゆっくり振り向く。
「……アムネ殿」
一瞬で姿勢が整う。
さっきまでの空気が消える。
「何をしている」
真面目な声。
「いやそれこっちのセリフなんだけど」
「見ての通りだ」
堂々。
「契約の交渉中だ」
「猫と?」
「うむ」
迷いがない。
スイが小さく笑う。
「今日も絶好調だね」
「スイ殿」
軽く頷く。
「貴殿も息災そうで何よりだ」
「うん元気」
普通に返す。
(……慣れてる)
アビィが思う。
グレイの視線が移る。
「……そちらは」
一瞬、止まる。
「……転校生殿か」
「アビィ」
「アビィ殿」
名前に殿をつける。
「私はグレイ」
少しだけ胸を張る。
「この地にて、暫定的に身を置く者だ」
(暫定的)
「よろしく」
アビィが返す。
「うむ」
満足そうに頷く。
その直後——
「……あ、えっと」
一瞬だけ目線が泳ぐ。
「よ、よろしくでぇ……」
語尾が伸びる。
すぐに咳払い。
「……失礼」
何事もなかったかのように戻る。
アムネがニヤニヤしてる。
「崩れてんじゃん」
「崩れていない」
即答。
「少し調律が乱れただけだ」
「それ崩れてるって」
スイが笑う。
グレイは軽く目を逸らす。
「……アムネ殿」
少しだけトーンを落とす。
「今日も、問題はなかったか」
「ん?あー、まあ普通」
「そうか」
小さく頷く。
その顔は——
さっきより少しだけ柔らかい。
(……信頼してる)
アビィが感じる。
グレイの視線がまた猫へ戻る。
「……契約はまた次の機会だ」
猫はもういない。
「逃げられてるからね」
アムネが言う。
「違う」
即否定。
「今回は見逃しただけだ」
「はいはい」
スイが流す。
少しの沈黙。
夕方の風。
「帰るか」
アムネが言う。
「うむ」
グレイが頷く。
自然に、4人になる。
(……増えた)
アビィは少しだけ思う。
でも。
悪くない。
そんな空気だった。




