古典の授業(カロン)
チャイムが鳴る少し前。
「じゃあね!ほんとごめんね!」
猫ちゃんが手をぶんぶん振る。
「いいって」
アムネが軽く返す。
「またあとでなー!」
「うん!」
そのまま、猫ちゃんは廊下を走っていく。
別の校舎へ。
少しだけ静かになる。
「……行くか」
アムネが言う。
「次、古典だし」
「遅れてるしね」
スイが続く。
「やば」
アムネが苦笑する。
「ちょっとだけ走る?」
「いや、普通でいい」
スイはいつも通り。
アビィもその後ろをついていく。
(……にぎやか)
そんなことを思いながら。
教室の前に着く。
中から——
笑い声。
そして。
低くて、よく通る声。
「“あはれ”——なんて言葉じゃ、足りないな」
少し間。
「……だから」
わざと間を引っ張る。
「オレ以外と笑い合うのは禁止だぞ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間——
ドッと笑いが起きる。
「なーんてな!」
さらに笑いが重なる。
(……なにこれ)
アビィが小さく目を細める。
アムネがニヤッとする。
「平常運転」
スイもくすっと笑う。
「入るよ」
ガラッ。
ドアを開ける。
視線が一斉にこっちに来る。
「お、遅刻組」
教壇の前。
黒板にもたれている男。
ラフな立ち方。
「昼休み満喫してた感じ?」
声は低いのに、軽い。
「いやー、色々ありまして」
アムネが返す。
「ほーん?」
カロンが少し笑う。
「まあいいや」
怒る気はゼロ。
「席つきな」
「はーい」
いつもの調子でアムネ。
スイも軽く手を上げて戻る。
アビィも静かに席へ。
(……この人が)
古典教師。
カロン。
「で」
チョークを軽く回す。
「さっきの続きな」
黒板を軽く叩く。
「あはれ、って何だと思う?」
誰かが手を挙げる前に——
「“エモい”で片付けるやつ、減点な」
即ツッコミ。
クラスが笑う。
「でもまあ間違ってはない」
少しだけ真面目なトーン。
「言葉にできない感情、みたいなもんだな」
視線が教室を流れる。
その中で——
一瞬だけ。
アビィに止まる。
「転校生」
名前を呼ばずに言う。
「どう?」
急に振られる。
(……来た)
一拍。
「……言葉にできないからこそ、言葉にする価値がある、みたいな?」
静かに返す。
少しだけ間。
「……いいじゃん」
カロンが笑う。
「それ」
軽く指を向ける。
「今の、メモっとけよー」
周りがざわっとする。
アムネが小声で。
「やるじゃん」
スイも横から。
「ね」
少しだけ嬉しそう。
カロンがチョークを戻す。
「じゃ、続きな」
そのまま授業が進む。
さっきまでの騒がしさが、自然に学びに変わっていく。
(……このクラス)
少しだけ。
心地いいと思った。




