さわらとゆうき
昼休み終わり際。
保健室は静かだった。
カーテン越しに、やわらかい光。
「……にぎやかですね」
ゆうきが小さく呟く。
そのとき——
バンッ!!
勢いよくドアが開く。
「ゆうき、ゆうき、ゆうきぃー!!」
声が飛び込んでくる。
「……」
一瞬の静寂。
「……どうしました、さわら先生」
ゆうきが振り向く。
そこには——
さっきまでとは別人みたいに、少しだけテンションの高いさわら。
「ちょっと」
息を整えながら。
「少し喋りたくて」
「授業は?」
「今空き」
即答。
迷いがない。
ゆうきが少しだけ笑う。
「だから来たんですね」
「うん」
素直。
そのまま、ふらっと近づいてくる。
「……あれ」
視線が横に流れる。
アムネたち。
「何してるの」
「見ての通りです」
ゆうきが答える。
「ボールが当たったそうで」
「へえ」
興味は薄い。
でも——
「大丈夫?」
一応、声をかける。
「……大丈夫です」
「ならよかった」
それだけ。
すぐに意識が戻る。
ゆうきへ。
「ねえ」
少しだけ距離を詰める。
「さっきさ」
声のトーンが落ちる。
「3A、やっぱ面白そう」
「そうですか?」
「うん」
小さく頷く。
その顔は——
さっき職員室で見せていたものより、少し柔らかい。
「アムネいるし」
「ええ」
「スイもいるし」
「バランスは良さそうですね」
「でしょ」
ちょっと嬉しそう。
ゆうきが軽く目を細める。
「……楽しそうですね」
「楽しいよ」
即答。
間を置かない。
そのまま——
「ゆうきは?」
さらっと聞く。
「このクラスどう思う」
「私は」
少し考える。
「まだ判断材料が少ないですね」
いつもの落ち着いた答え。
「でも」
一拍。
「変化はありそうです」
「だよね」
さわらが笑う。
自然な笑顔。
「そういうの、好きでしょ」
「さわら先生ほどでは」
「そう?」
「ええ」
ゆうきも、ほんの少しだけ笑う。
その空気は。
どこか、落ち着いていて。
でも——
「……あの」
小さく、アムネが割って入る。
「距離近くない?」
「え?」
さわらが振り向く。
「普通だけど」
「普通じゃないって」
「そう?」
本気でわかってない顔。
スイが小さく笑う。
「まあいいじゃん」
「よくない!」
猫ちゃんも混ざる。
「なにこれ尊いんだけど」
「黙ってて」
即座に返すスイ。
ゆうきがくすっと笑う。
その様子を見て——
さわらが少しだけ満足そうに息をつく。
「……じゃあ戻る」
あっさり。
「もういいの?」
「うん」
十分、という顔。
「また来る」
「いつでもどうぞ」
その返しに。
「ん」
軽く手を振って。
そのまま出ていく。
ドアが閉まる。
少しの静けさ。
「……なにあれ」
アムネがぽつり。
「珍しいもの見た」
スイも同意する。
猫ちゃんが小声で。
「さわら先生、あんな感じになるんだ……」
(……確かに)
さっきとは、別人みたいだった。
ゆうきが静かに笑う。
「仲はいいんですよ」
それだけ言って。
何事もなかったように、視線を戻した。




