保健室(ゆうき)
「——あっ」
誰かの声。
次の瞬間。
ドンッ、と鈍い音。
視界が一瞬揺れる。
(……え)
床が近い。
遅れて、痛み。
「ごめん!!」
猫ちゃんの声が響く。
「大丈夫!?当たった!?え、当たったよね!?」
一気に距離を詰めてくる。
「……当たった」
「だよね!?ごめんほんとごめん!!」
「ちょっと落ち着いて」
スイが間に入る。
「頭打ってる?」
「……いや、大丈夫」
「大丈夫じゃないでしょ」
アムネが顔を覗き込む。
「一応、保健室行こ」
その声はさっきより少しだけ真面目だった。
「でも——」
「念のため」
スイが続ける。
「行っといた方がいい」
(……そこまで言うなら)
「わかった」
⸻
廊下。
少しだけ静か。
昼休みの終わりが近い。
「ほんとごめんね!」
猫ちゃんが横でまだ言ってる。
「あとでなんか奢るから!」
「いいって」
「よくない!」
「……元気だね」
「それが取り柄!」
即答。
少しだけ、笑いそうになる。
保健室の前。
アムネがノックもそこそこにドアを開ける。
「失礼しまーす」
中は、落ち着いた空気。
白いベッドと、カーテン。
そして——
「アムネさん、今日も来たんですか?」
柔らかい声。
白衣の男性がこちらを見る。
穏やかな笑顔。
「先生には内緒にしておきますね」
(……今日も?)
「ちょっと!語弊あるって!」
アムネがすぐに反応する。
「今回はちゃんとしたやつだから!」
「そうなんですか?」
くすっと笑う。
どこか余裕のある反応。
「で、どうしました?」
自然に話を戻す。
「この子、ボール当たって」
スイが説明する。
「頭を少し」
「なるほど」
ゆうき先生が近づく。
「座れますか?」
やわらかい声。
言われるまま座る。
「どのあたりですか?」
「……ここ」
軽く触れる。
「強く打ちました?」
「そこまでじゃないと思う」
「そうですか」
頷きながら。
視線はしっかり観察している。
「気分悪くないですか?」
「大丈夫」
「吐き気は?」
「ない」
「わかりました」
小さく息をつく。
そのまま——
「アムネさん」
ちらっと横を見る。
「今回は本当に付き添いですか?」
少しだけ意味のある言い方。
「だから違うって!」
「ふふ」
軽く笑う。
(……なんだこの人)
優しいのに。
少しだけ、見透かされてる感じがする。
「少し安静にしておきましょうか」
ゆうき先生がカーテンの方を見る。
「昼休みも終わりそうですし」
「……はい」
自然に返事が出る。
その横で。
「ほんとごめんね……」
猫ちゃんが小さく言う。
さっきよりトーンが落ちてる。
「いいって」
「あとでなんかするから」
「それ重いって」
アムネがツッコむ。
「うるさい!」
すぐに戻るテンション。
スイが小さく笑う。
そのやり取りを——
ゆうき先生が静かに見ている。
少しだけ目を細めて。
「……にぎやかですね」
ぽつりと。
「いいクラスだと思いますよ」
その言い方が。
なぜか、少しだけ引っかかった。
(……なんだろう)
ただの感想のはずなのに。
少しだけ。
意味があるように聞こえた。




