Avvy 新聞 軽音部
最後のチャイムが鳴る。
教室の空気が一気にほどける。
椅子が動く音。
鞄を開く音。
部活へ向かう声。
いつもの放課後。
「終わったー」
アムネが机に突っ伏す。
「毎回それ言ってるね」
スイが笑う。
「だって終わったんだもん」
「小学生みたい」
「ひどい」
即返ってくる。
そんなやり取りを聞きながら、スマホを見る。
ゆるりからのメッセージ。
『昨日来てたよねー!』
『紅がまた来るかなってずっと言ってるよ!』
『暇だったら遊び来なー!』
短い文章なのに。
なんとなく本人の声が聞こえてくる気がする。
「軽音?」
スイが聞く。
「ああ」
スマホを少し見せる。
「なるほど」
一通り読んで。
「ゆるりちゃんらしいね」
少し笑った。
「紅ちゃんも」
「うん」
納得したように頷く。
少し間。
アムネが机に突っ伏したまま言う。
「行く?」
単刀直入。
「まだ決めてない」
「ふーん」
意外とそれ以上は言わない。
代わりに。
スイが窓の外を見る。
夕方の光。
グラウンドには部活へ向かう生徒たち。
「でも」
静かに続ける。
「昨日の感じなら、また行ってもいいんじゃない?」
押しつけじゃない。
勧誘でもない。
ただの感想みたいに。
「楽しそうだったし」
その言葉で。
昨日の光景が浮かぶ。
ドラム。
ベース。
ギター。
キーボード。
そして声。
「世界で一番おひめさま——」
自然と頭に残っている。
「気になるなら行けばいいし」
スイが続ける。
「違うなら違うで、それも分かるから」
アムネが顔を上げる。
「それスイっぽい」
「何が」
「ちゃんと逃げ道作るとこ」
「逃げ道じゃなくて選択肢」
「似たようなもんじゃん」
「違うよ」
少しだけ笑う。
そのやり取りを見ていると。
なんとなく。
前の学校ではなかった空気だと思った。
誰かが決めるんじゃなくて。
急かされるわけでもなくて。
選べる。
そんな感じ。
「アビィ」
スイが呼ぶ。
「ん?」
「120の方は?」
話題が変わる。
スマホを見る。
まだ返事はしていない。
『転校してきてから、何か変わったことはありますか?』
その一文。
ずっと残っている。
「返してない」
正直に答える。
「そっか」
スイは頷く。
少し考えてから。
「無理に答えなくてもいいと思う」
そう言った。
「聞かれたから答えなきゃ、って話でもないし」
アムネも珍しく頷く。
「それはそう」
「答えたいことだけ答えればいいよ」
スイの声は変わらない。
穏やか。
でも。
ちゃんと芯がある。
「たぶん120も、その辺は分かってると思う」
「なんで?」
アムネが聞く。
「今まで炎上したことないじゃん」
「確かに」
「変な記事も見たことないし」
それはそうだった。
新聞を読んでいても。
誰かを傷付けるための記事は見たことがない。
だから。
みんな読む。
だから。
毎週人が集まる。
「まあ」
スイが鞄を閉じる。
「気になるなら少しずつ話せばいいんじゃない?」
立ち上がる。
「軽音も同じ」
その言葉で。
少しだけ繋がった気がした。
120も。
軽音部も。
急に全部知る必要はない。
少しずつでいい。
「帰る?」
アムネが聞く。
「……その前に」
立ち上がる。
スマホを開く。
ゆるりのメッセージ。
少しだけ考えて。
文字を打つ。
『今日もやってる?』
送信。
数秒。
既読。
そして。
即返信。
『やってる!!!!』
『紅が横で飛び跳ねてる!!!!』
『来る!?』
思わず少しだけ笑う。
「行くんだ」
スイが気付く。
「たぶん」
答える。
アムネが立ち上がる。
「よし、じゃあ私も行こ」
「なんで」
「面白そうだから」
即答。
スイが小さくため息をつく。
でも。
その顔は少し笑っていた。
窓の外。
夕方の光が少しずつ赤くなっていく。
昨日は見学。
今日は。
少しだけ違う。
そんな気がした。




