Avvy新聞 午後
チャイムが鳴る。
昼休みが終わる。
みんなが席へ戻っていく。
その流れの中で。
ふと。
画面が光った。
新しい通知が一件。
差出人は――
『120』だった。
(来た)
指が止まる。
アムネはまだ弁当箱を片付けている。
スイは教科書を出し始めている。
誰も見ていない。
画面を開く。
『ありがとうございます』
短い。
その下。
『新しいことに興味が向く、というのは素敵ですね』
さらに続く。
『無理に答えなくて大丈夫なのですが』
『転校してきてから、何か変わったことはありますか?』
(変わったこと)
視線が止まる。
教室の音が少し遠くなる。
変わったこと。
思い返す。
転校してきた日。
知らない教室。
知らない席。
知らない人たち。
それが。
今は。
アムネがいて。
スイがいて。
カルタ部があって。
軽音部があって。
少し前より名前を知っている人が増えた。
それだけなのに。
それだけじゃない気もする。
「アビィ?」
声。
顔を上げる。
スイだった。
「授業始まるよ」
「あ」
いつの間にか先生が来ていた。
慌ててスマホをしまう。
そのまま午後の授業が始まった。
教科書を開く音。
椅子を引く音。
黒板にチョークが当たる音。
いつも通り。
なのに。
頭の片隅に120の言葉が残っている。
『何か変わったことはありますか?』
(……)
答えは浮かばない。
でも。
完全に何も変わっていないとも言えなかった。
時間が流れる。
午後の授業。
気付けば最後のチャイムが鳴っていた。
教室の空気がまた緩む。
「終わったー!」
アムネが伸びをする。
「今日はどこ行くの?」
猫ちゃんが後ろから顔を出した。
いつの間にいたのか分からない。
「びっくりした」
スイが笑う。
「えへへ」
猫ちゃんは気にしていない。
「軽音?」
アムネが聞く。
「行くなら行く!」
即答。
「聞いてないんだけど」
「今聞いた!」
元気だった。
教室の後ろで笑いが起きる。
そんな中。
スマホがまた震えた。
(……?)
開く。
120ではない。
知らないアカウント。
でも。
名前だけは知っている。
『ゆるり』
一瞬止まる。
『昨日来てたよねー!』
その一文。
続いて。
『紅がまた来るかなってずっと言ってるよ!』
『暇だったら遊び来なー!』
思わず画面を見る。
軽音部。
昨日の音。
ワールドイズマイン。
ベース。
ドラム。
声。
頭の中に浮かぶ。
「どうした?」
アムネが聞く。
「軽音?」
スイが言う。
短い沈黙。
「……来た」
そう答えると。
「ほらー!」
アムネが机を叩いた。
「言ったじゃん!」
「絶対また誘われると思った」
猫ちゃんも笑う。
スイは少しだけ肩をすくめる。
「人気だね」
人気。
そういうものではない気がした。
でも。
悪い気もしなかった。
教室の窓から夕方の光が差し込む。
オレンジ色。
少し長くなった影。
その中で。
スマホの画面には。
120。
ゆるり。
二つの名前が並んでいた。
どちらも昨日までは知らなかった名前。
なのに。
少しずつ日常の中へ入ってきている。
そして――。
校門の向こうでは。
今日も誰かが見ている。
記事を書くために。
人を見るために。
あるいは。
まだ名前になっていない物語を探すために。




