Avvy 新聞 その2
昼休みのざわめきは、まだ続いていた。
購買から戻ってくる生徒。
窓際で話しているグループ。
スマホを見ながら笑っている人たち。
その中でも、今朝の新聞はまだ話題になっているらしい。
「そういえばさ」
猫ちゃんがストローを咥えながら言う。
「120って見たことある?」
「ない」
アムネが即答する。
「私はあるかも」
スイが言った。
「え」
三人の視線が集まる。
「たぶんだけどね」
スイは肩を竦める。
「去年の文化祭のとき、取材みたいなのしてた人見たことある」
「マジで!?」
猫ちゃんが食いつく。
「顔見たの!?」
「いや」
首を横に振る。
「帽子被ってたし、途中でどっか行ったから」
「じゃあわかんないじゃん」
アムネが言う。
「だから、たぶん」
スイも笑う。
「でも女子だったと思う」
その言葉に。
猫ちゃんが大きく頷く。
「やっぱそうだよね!」
「何が?」
「なんとなく!」
「根拠ゼロじゃん」
アムネが呆れる。
「勘って大事なんだよ!」
「はいはい」
笑いが起きる。
そのとき。
教室の後ろが少し騒がしくなった。
「あ、文系だ」
誰かの声。
自然と視線が向く。
教室の入り口。
一人の生徒が通り過ぎる。
特別目立つわけじゃない。
でも。
なぜか知っている人は多い。
「ほんとだ」
猫ちゃんが小さく言う。
「相変わらずだね」
文系は教室を覗くこともなく、そのまま廊下を歩いていく。
誰かに呼び止められても、軽く手を振るだけ。
そのまま消えていった。
「不思議な人だよね」
アムネが言う。
「悪い噂聞かないんだけど、なんか謎」
「120のことも何も話さないしね」
スイが頷く。
「逆に気になるんだよなぁ」
猫ちゃんが机に突っ伏した。
「絶対知ってるでしょあれ」
「知ってそう」
アムネも頷く。
「でも喋らないんだろうね」
「喋ったら面白くないじゃん」
スイが言う。
「たしかに」
妙に納得してしまう。
少し間。
話題が途切れる。
教室の窓から風が入る。
カーテンが揺れる。
その向こう。
グラウンドでは体育の授業をしているらしい。
笛の音が聞こえた。
「そういえば」
猫ちゃんが顔を上げる。
「アビィちゃんって前の学校では何してたの?」
唐突だった。
アムネが一瞬だけ猫ちゃんを見る。
でも。
言い方に悪気はない。
ただの興味。
「部活してた」
短く答える。
「へぇ」
「でも辞めた」
「そうなんだ」
猫ちゃんが頷く。
それ以上は聞かない。
「じゃあ今は帰宅部?」
「うん」
「なるほどねー」
猫ちゃんは納得したようだった。
「だから軽音とかカルタ部とか、色々見に行けるんだ」
「かも」
答える。
すると。
「いいじゃん」
アムネが言った。
「何が」
「色々見れるの」
弁当の最後の一口を食べながら続ける。
「最初から決めなくていいじゃん」
スイも頷く。
「三年だからって急ぐ必要ないと思うよ」
「むしろ今しかないかもね」
猫ちゃんも続く。
「見たい部活見て、気になる人と話してさ」
「そうそう!」
アムネが乗る。
「軽音もまた行こうよ!」
「結局それ」
スイが笑う。
「だって気になるじゃん!」
本当にそう思っている顔だった。
その様子を見て。
少しだけ。
口元が緩む。
昼休み終了五分前。
少しずつ弁当を片付ける人が増えていく。
ざわめきが落ち着いていく。
その中で。
スマホの画面を開く。
120からのメッセージ。
そこにはまだ、自分が送った内容だけが残っていた。
返事は来ていない。
でも。
なぜか気になった。
軽音部のこと。
カルタ部のこと。
転校のこと。
120は何を記事にしようとしているのか。
そして。
なぜ自分に声をかけたのか。
チャイムが鳴る。
昼休みが終わる。
みんなが席へ戻っていく。
その流れの中で。
ふと。
画面が光った。
新しい通知が一件。
差出人は――
『120』だった。




