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Avvy新聞その1 (120、文系)

朝。


昇降口の横。


いつもより人が多い。


登校してきた生徒が、そのまま流れるように掲示板の前へ集まっている。

立ち止まる人。

スマホを向ける人。

友達を呼ぶ声。


「出てる!」

「今週もう来たんだ」

「え、軽音じゃん今回」


ざわざわと声が重なる。


掲示板の中央。


白い紙が何枚も並んで貼られている。


上には、大きく。


『Avvy新聞』


その下、小さく。


発行元:120


「うわ、今週めっちゃ人多くない?」


アムネが少し背伸びしながら言う。


「軽音特集あるからじゃない?あそこ人気あるし」


スイが人混みを見る。


「あとカルタ部優勝もあるね、普通に大ニュースだし」


確かに。


普段は静かな廊下なのに、今日は朝から空気が違う。


この新聞が出る金曜日だけ。


学校全体が、少しだけ浮つく。


「見えないー!」


アムネがそのまま人の間に入っていく。


「ちょ、押さないでよ」


スイも後ろから続く。


少し遅れて前へ出る。


掲示板。


今週の見出しが並んでいる。


『軽音部ボーカル・茶間ゆるり 特集』

『カルタ部、地区大会優勝』

『今週の急上昇:懐かしボカロ再ブーム』


「うわ、絶対ゆるりちゃんのやつ騒がしいじゃんこれ」


アムネが笑う。


「でも取材受けてるなら納得かも、あの人ずっと喋れそうだし」


スイが紙を目で追う。


記事の横には写真。


マイクを片手に笑っているゆるり。

少しぶれているのに、妙に楽しそうだった。


その下。


『“楽しいって思った瞬間が一番音いいんだよね!”』


コメント付き。


「うわ、めちゃくちゃ本人っぽい」


アムネが吹き出す。


さらに下。


『最近のマイブームは懐かしボカロ巡回!放課後テンションでそのまま歌うことも多いとか——?』


「完全に昨日じゃん」


スイが小さく笑う。


(……)


昨日の音が少し浮かぶ。


ドラム。

ベース。

ギター。


その中心の声。


「てか120ってどうやって取材してるんだろうね」


アムネが紙を見上げる。


「文系って呼ばれてる人いるじゃん」


スイが答える。


「あー、いるね」


「昼休みとか掲示板の前いる人?」


「そう、その人。120の情報集め手伝ってるって噂」


「え、じゃあ実質記者じゃん」


アムネがちょっと楽しそうに言う。


「でも本人、何聞いても全然喋らないよね」


「聞かれても笑って流すタイプ」


「逆に怪しいんだけど」


「まあ怪しいのは最初からでしょ」


スイがさらっと返す。


カルタ部優勝の記事も目に入る。


『優勝コメント:ももね部長 “みんな頑張ったの〜”』


その横には、おむたろとちゃまの写真。


「おむたろめっちゃ写ってる」


アムネが笑う。


「ピース慣れしてる顔してるね」


「ちゃま普通にカメラ目線だし」


周りでも声が飛び交う。


「今週の曲懐かし!」

「これ中学のとき聴いてた!」

「え、ゆるりちゃん載ってるの強」

「カルタ部ほんとに優勝したんだ」


紙一枚で、学校中が同じ話をしている。


(不思議だ)


誰が作ってるのか、ほとんど知らない。


120。


通称。


本名も学年もわからない。


わかっているのは、女らしいということだけ。


それなのに。


毎週金曜日になると、こうして学校の空気を変える。


そのとき。


ブブッ。


携帯が震える。


(……?)


画面を見る。


知らないアカウント。


アイコンもない。


表示名。


『120』


一瞬、止まる。


隣で。


「あ」


スイもスマホを見ている。


「来た?」


アムネがすぐ覗き込む。


「え、うそ!?ほんとに!?」


画面には短く。


『昨日、軽音部にいましたよね?』


その下。


『少し、お話聞かせてもらえませんか?』

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