軽音部②(ゆるり、Rizz、紅、グレイ、すまきゃ)
廊下の奥。
音が、さっきよりはっきり聞こえる。
ドン、ドン、と低く響く。
少し遅れて、弦の音が重なる。
(ここ)
扉の前で止まる。
音の振動が、すぐ向こうにある。
コン、コン。
ノックの音。
一拍。もう一度、軽く。
ドラムが止まる。
音が切れて、空気が静かになる。
(止まった)
「はーい、誰かいるー?」
中から声。明るい。
少しだけ間があって、ガチャ、と音がする。
扉が開く。
音が一気に外へ流れ出す。
さっきまで壁越しだった音が、そのまま広がる。
「え、ちょっと待って誰!?見学!?初見!?やば、めっちゃ嬉しいんだけど!」
目の前に立つ女子。
距離が近い。一気に空気が変わる。
その後ろ、スティックを持ったまま勢いよく振り向く。
「え、アムネ先輩!?なんでここいるんですか、来てくれるって聞いてないんですけど!」
ドラムの前。目が明るい。
「いや今来たんだけど」
アムネが笑う。
「え、ほんとに!?やば、今日めっちゃいい日じゃないですか、それだけで叩くテンション上がるんですけど!」
そのまま少し跳ねる。
「ちょっと落ち着きなよ、扉開けた瞬間それは圧強いって」
スイが一歩前に出る。でも口調はやわらかい。
そのとき、奥で低い音が一つ鳴る。
ベース。
さっきまで弾いていた手が止まる。
「……そのままでもいいけど、もう少しだけ落ち着いた方が話はしやすいと思う」
椅子に座ったまま、視線だけ向ける。声は低い。
(この人)
音と同じ印象。無駄がない。
さらに奥。ギターの弦を軽く鳴らす音。
視線を向けると——
「……外界の来訪者か」
一言。姿勢は変わらない。
「また変なこと言ってる」
スイが小さく言う。
「変ではない、これは事実だ」
短く返す。でもそれ以上は続けない。
(グレイ)
昨日の帰りの姿が一瞬重なる。
その空気を切るように、落ち着いた声。
「ごめんね、ちょっと騒がしくて」
少し後ろから。
キーボードの前。手を止めて、こちらを見る。
「見学なら全然大丈夫だから、無理に入らなくても、その辺で見てていいよ」
ゆっくりした口調。押しつけない。
空気が整う。
「ほら、ちゃんと順番に話さないと困らせるでしょ」
続けて言う。強くない。でも止まる。
「はーい……」
さっきまでの勢いが、少しだけ落ちる。でも顔はまだ明るい。
「改めて!ボーカルのゆるりです!来てくれてありがとー!」
一歩引いて、ちゃんと向き直る。
「ドラムの紅です!えっと、あの、さっきはすみません、でも来てくれてめっちゃ嬉しいです!」
少しだけ慌てて言い直す。
「ベースのRizz、よろしく」
短い。でも視線はちゃんと向いている。
「グレイだ」
それだけ。軽く頷く。
最後に。
「部長のすまきゃです、ゆっくりしてってください」
静かに締める。
部屋の中。
アンプの匂い。少しだけ熱のこもった空気。
(……)
さっきまで外で聞いていた音の中に、今は立っている。
「で、どうする?ちょっとだけでも聴いてく?」
ゆるりが身を乗り出す。さっきより少し抑えてる。
「いいと思うよ、せっかく来たんだし、今の合わせも途中だったし」
Rizzが軽く付け足す。
「再開してもいいか?」
グレイが弦に手をかける。
「もちろん、じゃあさっきの続きからいこうか」
すまきゃがゆるく言う。
紅がスティックを持ち直す。
「いきますね!」
一拍。
ドン。
音が鳴る。
(……近い)
さっきよりも、はっきり聞こえる。




