スイ
「ねえアビィ、今日さ——」
「放課後どっか行かない?」
アムネが身を乗り出してくる。
「いきなり誘うのやめなって」
前からスイが振り返る。
「え、ダメ?」
「ダメじゃないけど、順番あるでしょ」
やわらかい声。
でも、言ってることはしっかりしてる。
「まず仲良くなってから」
「もう仲良くない?」
「なってない」
即答。
「ひどくない!?」
「事実」
軽く言い切る。
でもそのあと——
「……まあでも」
少しだけ間を置く。
「嫌じゃなさそうだけどね」
ちらっと、アビィを見る。
(……見られてる)
「別に」
いつも通り、短く返す。
「ほら」
スイが小さく笑う。
「完全拒否ではない」
「じゃあいけるじゃん!」
アムネが一気に乗る。
「……だから、段階」
軽くため息。
でも止めきらない。
「今日は軽めにしときなよ」
「軽めって?」
「一緒に帰るとか、そのくらい」
「なるほど」
納得した顔。
(調整してる)
そう思った。
「どう?」
スイがこっちを見る。
押しつけじゃない聞き方。
「……それくらいなら」
自然に答えていた。
「よし決まり!」
「決まってないって」
言いながらも、スイは少しだけ笑っている。
(……流されてるのはどっち)
ガラッ、とドアが開く。
「おはようございます」
静かな声。
教室の空気が少しだけ整う。
入ってきたのは、白衣姿の教師。
「生物を担当しています、さわらです」
軽く会釈。
「今日は転校生もいますし、少しゆっくり進めますね」
黒板に名前を書く。
丁寧な字。
(落ち着いてる)
「……じゃあ、教科書開いてください」
無理に声を張らない。
でも、不思議と全員が従う。
「細胞の構造からいきます」
淡々と進む。
そのとき——
「アムネさん」
やわらかく名前を呼ぶ。
「はい?」
「ペン、動いてませんよ」
「え」
びくっとする。
「大丈夫です、まだ間に合いますので」
怒らない。
ただ、ちゃんと見てる。
「今から書けば追いつきますよ」
「……はい」
素直に書き始める。
(優しいのに、逃がさないタイプ)
前を見ると。
スイが少しだけ笑っていた。
「言われてるじゃん」
小声。
「うるさいって」
同じく小声で返すアムネ。
そのやり取りを——
「聞こえてますよ」
さわらがさらっと拾う。
「小声でも、意外と響くものです」
でも口調は変わらない。
怒ってる感じもない。
「授業中なので、少しだけ静かにお願いしますね」
「……はーい」
気まずそうに返事するアムネ。
スイは軽く肩をすくめる。
(ちゃんと締めるんだ)
優しいだけじゃない。
そんな印象。
授業はそのまま、静かに進んでいった。




