教師陣 飲み会②
グラスが当たって、軽い音が弾ける。
「とりあえず今年もよろしくってことでいい?」
あすかが笑いながらジョッキを持ち上げる。
ゆうきが頷き、ビールの泡が縁で揺れて少しこぼれる。
「かたいって、もっと適当でいいだろ」
ぽぽが枝豆をつまみながら言う。
「適当って言い方やめなよ」
さわらがグラスを持ち上げる。
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「お待たせしましたー!」
店員の声と同時に皿が置かれ、揚げ物の湯気がふわっと広がる。
あすかがすぐに手を伸ばす。
「ねえ、こういう場だしさ、たまには恋バナとかしない?」
「急だな、それ」
ぽぽが一口飲む。
「いいじゃん、教師だって人間なんだからさ」
あすかが笑う。
ゆうきが少し迷って、グラスを指でなぞる。
「そういう話、あんまりしたことないかもです」
「じゃあ今しよ、はい順番どうする?」
食い気味に来る。
さわらが唐揚げを割る。
「別に話すことないけど」
「その言い方はある人のやつなんだよ」
あすかが即返す。
ぽぽが短く言う。
「ないやつはそもそも反応しない」
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氷がカランと鳴る。
ゆうきが少し笑って、グラスを持ち上げる。
「いやでもさ、距離感って結構むずいよね普通に」
「急に真面目だな」
あすかが笑う。
「近づきすぎると重いし、引きすぎると何も始まらないしさ」
少しだけ言葉が崩れる。
「そのちょうどいい位置探してる間に終わるやつ、あれ嫌いなんだよね」
(もう入ってるな)
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串が追加で置かれて、皿が少し鳴る。
ぽぽが箸を持つ。
「踏み込む時に踏み込めないと、そのまま終わる」
「うわ出た、ぽぽの正論」
あすかが笑う。
さわらがグラスを回す。
「でもリズムはあるよね、ずっと同じ距離じゃ動かない」
ゆうきが頷いて、そのまま言う。
「それな、様子見しすぎて何も起きないまま終わるの一番もったいない」
「経験者?」
あすかがニヤつく。
「いやそういうのじゃないって、なんとなくだよ」
完全にタメ口になる。
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皿の油が光る。
ぽぽが枝豆を口に放り込む。
「で、その流れで転校生だな」
(来た)
あすかがすぐに乗る。
「アビィさ、あの子ちょっと気になるタイプじゃない?」
さわらが焼き鳥に手を伸ばす。
「静かだけど、ちゃんと周りの動き拾ってる感じはあるね」
ゆうきがグラスを傾けながら言う。
「てかさ、ああいう子って最初から距離の取り方うまくない?」
「自分から行かないけど、外さない位置にずっといる感じ」
ぽぽが短く言う。
「外さないやつは、外した経験がある」
(それだな)
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唐揚げに箸が刺さる。
あすかが笑う。
「でもさ、あれって普通にやろうとして出来るもんじゃないよね」
さわらが軽く頷く。
「慣れてる動きだね、踏み込まれると止まるのも含めて」
ゆうきが少しだけ視線を落とす。
「近づき方より、引き方を先に覚えてる感じする」
ぽぽがグラスを置く。
「防御が先に出るやつだ」
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氷が揺れて、カランと鳴る。
あすかが笑う。
「まあでもアムネいるし、あそこ勝手に動くでしょ」
ゆうきが頷く。
「いやあの子ほんと速いよね、距離詰めるの」
さわらが串を持つ。
「速いというか勢いで行くタイプだから、たまに行き過ぎるけどね」
あすかがポテトをつまむ。
「でもスイがちゃんと見てるから、崩れきらないのがいいんだよ」
ぽぽが短く言う。
「押すやつと引くやつが揃ってるなら崩れない」
(いい配置)
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グラスがまた当たる。
さわらがゆっくり持ち上げる。
「今年の3年、思ったよりちゃんと動きそうだね」
あすかがすぐ笑う。
「でしょ?もうこれ絶対なんか起きる流れじゃん」
ゆうきが頷く。
「ここまで揃ってたら、何も起きない方が変だって」
ぽぽが言う。
「もう動いてる、表に出てないだけだ」
(……そうだね)
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ぽぽがふと箸を止める。
「押すやつがいるなら、逃げ場も用意しとけ」
一瞬、音が遠のく。
「前に出され続けるやつは、そのうち折れる」
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さわらがグラスに目を落とす。
氷が静かに揺れる。
「それならもう、うちのクラスにはちゃんとあるよ」
少しだけ間。
「無理に前に出なくても、そのままでいられる場所がある」
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あすかが笑って空気を戻す。
「でさ、結局誰が恋する流れなのそれ」
ゆうきが笑う。
「いやもう全員ありそうじゃない?あの感じ」
ぽぽが少しだけ間を置く。
「時にはリズムも大事だぞ」
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笑い声が重なる。
グラスがまた当たる。
ざわめきの中で。




