表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/23

音楽室② (ぽぽ)

扉が開く。


さっきまで外に漏れていた空気が、そのまま広がる。


中は思ったより広くて、音が少しだけ響く。


楽器の音がぽつぽつと鳴っている。


まだ揃っていない、ばらばらの音。


でも、不思議と嫌じゃない。


スイが小さく言う。


「うわ、広」


「意外とちゃんとしてる」とアムネ。


「ちゃんとしてるでしょ」と前の方から返る声。


くすっと笑いが起きる。


奥に立っていたぽぽが、ゆっくり振り返る。


「来たな」


落ち着いた声。


強くないのに、自然と耳に入る。


「全員いる?」


「たぶんー」「まだじゃない?」と適当な返事。


ぽぽは軽く周りを見て、頷く。


「まあいいか」


「来たやつからでいい」


スイが小声で笑う。


「ゆる」


アムネも少しだけ口元を緩める。


「いいじゃん」



楽器が配られていく。


ケースを開ける音、椅子を引く音。


少しずつ準備が進む。


ぽぽが前で軽く手を叩く。


「今日はな」


「いきなり合わせない」


「え、じゃあ何すんの」と誰か。


ぽぽは少し間を置く。


「出す」


「音を」


「……それだけ?」と別の声。


「それだけ」


「いや雑すぎでしょ」


小さな笑いが広がる。


ぽぽも少しだけ笑う。


「雑でいいんだよ最初は」


「揃えようとするな」


その言葉に、少しだけざわつきが止まる。



「適当でいいってこと?」とスイ。


ぽぽは首を横に振る。


「適当じゃない」


「ちゃんと出す」


「違いむず」と誰かが言う。


「むずいよ」とぽぽはあっさり返す。


「でもな」


少しだけ視線が教室を回る。


「出さないやつより、ズレてるやつの方がいい」


一瞬、静かになる。


アビィはその言葉をそのまま受け取る。


(ズレてても……いい)



「じゃ、やってみ」


ぽぽが軽く手を下げる。


それだけで、音がぽつぽつと鳴り始める。


誰かが様子見で鳴らす。


別の誰かが少し遅れて続く。


リズムは揃っていない。


止まりそうで、また続く。


スイが小さく言う。


「どうすんのこれ」


アムネが肩をすくめる。


「出せばいいんでしょ」


「雑すぎん?」


「今はそれでいいんじゃない」



アビィは手元の楽器を見る。


少しだけ迷う。


(出す……)


一瞬遅れて、音を鳴らす。


周りと重なる。


少しだけズレる。


でも、そのまま続ける。


ぽぽの声が静かに入る。


「いいね」


「止まらなくていい」


「続けて」


音が重なる。


揃っていないまま、広がっていく。


誰かが笑う。


誰かがミスる。


でも止まらない。



「今の、いい」


ぽぽが軽く言う。


「揃ってないけど、ちゃんと出てる」


「それでいい」


スイが小さく吹き出す。


「褒められてんのこれ」


アムネが少し笑う。


「たぶんね」



ぽぽが少しだけ間を置く。


「揃えるのは後でいい」


「先に“出る音”に慣れろ」


「出さないと、何も分からない」


静かに、言葉が残る。



アビィは少しだけ考える。


(うまくやろうとして)


(何も出さないより――)


まだ答えは出ていない。


でも、さっきより少しだけ分かる気がする。



「もう一回いくぞ」


ぽぽが軽く言う。


「今度は、さっきよりちょっとだけ周り見ろ」


「無理ゲー」と誰か。


「無理でいい」とぽぽ。


「ちょっとでいい」



もう一度、音が鳴る。


さっきより、少しだけ意識が変わる。


完全じゃない。


でも、少しだけ近づく。



授業の終わり。


ぽぽが手を叩く。


「今日はここまで」


「ちゃんと出てたな」


スイが伸びをする。


「意外と楽しかったかも」


アムネが頷く。


「でしょ」


アビィも小さく言う。


「……うん」



音楽室を出る。


さっきより、少しだけ足取りが軽い。


(うまくやるより)


(出す、か)


その言葉だけが、静かに残る。


(……少しだけなら)


(やってみてもいいかも)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ