カルタ部 ①
放課後。
チャイムが鳴っても、教室には少しだけ人が残っている。
「今日どうする?」とスイが机に肘をつきながら言う。
アムネは少し考えるように視線を上げる。
「特に決めてない」
「帰る?寄る?」とスイ。
「どっちでも」とアムネが肩をすくめる。
アビィは少し遅れてカバンに手をかける。
(帰る、か)
まだ放課後の過ごし方には慣れていない。
そのまま帰るのも、変ではない。
でも――
昼に聞いた声が、少しだけ引っかかる。
「いやそれはずるいって!」
「勝ちは勝ち〜!」
「次は負けないし!」
自然と顔が上がる。
「ねえ」とスイが思い出したように言う。
「さっきの人たち、見に行く?」
アムネが少しだけ笑う。
「急だね」
「なんか気にならない?」
スイはそう言いながら、アビィの方をちらっと見る。
一瞬だけ目が合う。
アビィは少し迷ってから、小さく頷く。
「……ちょっとだけ」
その返事に、スイがにやっと笑う。
「じゃ決まり」
アムネも軽く立ち上がる。
「カルタ部でしょ、たぶん」
「有名らしいよ」とスイ。
⸻
廊下を歩く。
さっきより人は少ない。
部活に向かう人、帰る人、ばらばらに分かれていく。
「全国とか行ってるんだっけ」とスイ。
「らしいね」とアムネ。
「すごくない?」
「すごいね」
アビィはその会話を聞きながら歩く。
(全国……)
少し遠い言葉。
でも、少しだけ気になる。
⸻
目的の教室に近づくにつれて、空気が少し変わる。
静か。
でも、張り詰めているわけじゃない。
扉の前で足が止まる。
中から声が聞こえる。
「はいっ」
短く、はっきりした声。
そのあと、札を払う音。
パシッ、と軽く響く。
アビィは思わず息を止める。
(……これ)
スイが小声で言う。
「それっぽい」
アムネが軽く頷く。
「入る?」
少しだけ間。
アビィは扉を見たまま、小さく言う。
「……うん」
⸻
扉が開く。
中は思っていたより広い。
畳が敷かれていて、数人が向かい合って座っている。
静かだけど、動いている空気。
札が払われる音。
息を読むような間。
その中に、昼に聞いた声が混ざる。
「今の取るん早すぎません?」
「いや遅いだけやって〜」
少し柔らかい関西弁。
アビィの視線が自然とそちらに向く。
その子――くまちゃんがこちらに気づく。
一瞬、目が合う。
ぱっと表情が明るくなる。
「来てくれたんかー!」
すぐに姿勢を整えて、ぺこっと軽く頭を下げる。
「アムネ先輩、お疲れさまです」
「スイ先輩も」
少しだけ照れたように笑う。
「今日ちょっとだけお邪魔してるだけなんですけど」
アムネが軽く手を上げる。
「おつかれ」
スイも気軽に返す。
「やってるね〜」
くまちゃんは少しだけ肩をすくめる。
「助っ人みたいなもんですわ」
「人足りへんときだけ、たまに」
そう言いながらも、どこか楽しそうに視線を戻す。
⸻
「はいっ!」
パシッ、と札が払われる。
速い。
思っていたより、ずっと。
アビィは思わず一歩前に出る。
(……すごい)
ただの遊びじゃない。
でも、ぴりぴりしているわけでもない。
その中で、ちゃんと楽しそうにやっている。
⸻
くまちゃんがちらっと振り返る。
「びっくりしました?」
少し声を抑えた関西弁。
アビィは少し遅れて答える。
「……うん」
スイが横で言う。
「速すぎん?」
アムネも頷く。
「集中すごいね」
くまちゃんが少しだけ笑う。
「これでもまだまだなんですよ」
少しだけ誇らしそうに。
⸻
アビィはその光景を見たまま、息を吐く。
(なんか)
(ちょっとだけ)
さっきの音楽の言葉が浮かぶ。
(出す、か)
まだ何もしていない。
でも――
(やってみるのも)
悪くないかもしれない。




