第74話 混迷の戦場
「みんな、大丈夫か?」
「痛たた……大丈夫って言いたいけど、力が入らない」
「私も」
「こっちはヅラを紛失した。古本さんに怒られるな」
「今はそれどころじゃないでしょう。これからどうするつもり?」
三人が見上げると、信二がとっさに網目状に張ったビーズのドームにもたれかかっている瓦礫の数々。下手に動かせば、網の中に瓦礫が流れ込みかねない。だからと言って、ティアマトをどうにかしない限りは外からの救助は望み薄だろう。
(……やるしかないか)
「その顔、何か思いついたって感じね」
「まあな。ステラ、変身するぞ」
【おや、その名で呼ぶってことは本当のことをバラすってことですか?】
「まあな。隠している状況じゃない」
「本当のことって何? ってか、変身ってなに? 光の巨人とかバッタ仮面になるわけ?」
「それと信二君のEXギアの疑似人格AIの名前ってエクスじゃなかった?」
「詳しい事情は後で話す。何があっても今は信じてくれ」
「分かったわよ。それしか無いようだし」
「うん。信二君を信じる」
【いや~、美少女との信頼。これぞアオハルって感じです】
「軽口を叩いている暇はないぞ。変身!」
髪が伸びていき、制服からメイド服へと変わっていき、顔にメイクが施されていく。その姿は虎西で披露した遠距離形態のエクステラそのものだった。
「「…………へっ?」」
「呆けている暇は無いわよ。まずは瓦礫が崩れないようにして……」
「待て待て!ちょっと、どういうこと!?」
「うん。信二君、女の子じゃなかったよね。水着みたもん」
【いや~美少女の困惑顔も良いですね~おっと、巨大な魔力反応を感知。これ、ティアマトの攻撃かもしれません。下手すれば辺り一面吹き飛ぶかも】
「なら、脱出するついでに標準を狂わせるわよ。疑似【千里眼】によるターゲット補正よし。相手が神であろうと打ち抜かせてもらうわ」
エクステラが砲撃形態のEX-08から放たれた一撃が瓦礫を吹き飛ばしながらティアマトの顎にぶち当たり、その衝撃でブレス攻撃が宙に放たれていく。不意を突かれたティアマトが足元を見ると、そこには生き埋めにしたはずのアスカたちを引き上げたエクステラの姿があった。
「パーティーの二次会にしてはずいぶんと殺風景ね」
「あの女と言い、なんだこの気持ち悪い生き物は……!?」
「あら、レディーに気持ち悪いとか主催者として失格じゃない?」
(あんた、男でしょう……散々騙されていた私たちが言えるわけないけど)
(実は目離したすきに入れ替わっているとか無いよね? 目離してないけどさあ……)
正体を知っていても騙されそうになるエクステラの演技っぷりに二人はあきれるばかりである。そんな少し緊張感が緩んでいたところに不意打ち気味に小剣が飛んでくるも、それを読んでいたかのようにガトリングに変形させていたエクステラが撃ち落としていく。
「こっちは熱烈な歓迎してくれるじゃない」
「エクステラ……」
「だけど、同じ手はサプライズが無いわね。下策ですら無いわ」
堕天使とティアマト、二人のヘイトを程よく稼いだところで、身動き取れない仲間たちが攻撃が巻き込まれないように上空へと飛びあがり、銃弾をばら撒いていく。
(砲撃のダメージはすでに修復済みか。自己再生能力が高いのか?)
【ガトリング程度だとダメージ与えられている気配はありませんね】
(ステラ、対天使と同様に【浸食】で自己再生能力を下げられるか?)
【先から試していますが生物としての格が違いすぎてデバフ効果は弾かれています。【接続】のサポートに特化してギリってところですが、それでも持続時間は数秒程度。下手したら1秒も満たない可能性も】
(なら【接続】サポートに特化してくれ。自己再生能力対策は思いつく限りのことをやってみる)
【わかりました】
(これが漫画やアニメなら、不死身系能力者は自己再生回数には限度があるとか、頭部とか心臓とか、本体とは別の場所にあるコアを吹き飛ばせば倒せるパターンが多い。ティアマトに通用するかは分からんが、やる価値はあるはず)
エクステラがガトリング砲から威力の高いライフルに切り替えてティアマトの後頭部に攻撃を集中していくが、ダメージを与えられている気配はない。背後から迫る堕天使の追尾剣を打ち落としながら、今度は目を狙おうとティアマトの正面に立つ。すると、目に魔力が集中するのを感じ、とっさに目線上から回避。一寸遅れて放たれたビームが天を焼く。体勢が崩れたところに剣が迫ってくるが、とっさにビーズをばら撒きガード。ビーズに触れた剣を地面に固定させ、身動きを取れなくさせる。
(ライフル程度ではダメージは与えられないが、堕天使が攻撃を仕掛けてくるせいで砲撃のチャージ時間が取れん。どちらか片方の動きを止めないと攻略どころじゃない)
【それに散らばっているモンスターたちもあと少しで学院外に出ますよ】
(わかっている。だが、俺がこの場を離れたら、誰がアスカたちを守る)
現状、エクステラに知ることはでき無いが、サキもシャドウもそれぞれの校舎を守るために迫りくるモンスターの迎撃でエクステラの援護に回る余裕はない。そして、民間人を守るためにアスカたちを犠牲にするのか。それとも、アスカたちを犠牲にしてでも民間人を守るのか。その猶予はもはや残されていない。
(論理的に考えれば小を見捨て大を取るのが賢明なのかもしれないが――)
そんな気の迷いを見通したのか堕天使がアスカたちに剣を差し向けるも、その間にビーズシールドを構えたエクステラが割って入りこむ。
(俺は仲間を見捨てるほど薄情でもない!)
「だが、それがお前の弱点だ。エクステラ」
アスカたちをかばったことでティアマトがフリーになり、速射できる目のビームを放とうとする。その狙いは茨のバリケード。今からでは射線軸上に飛び込むことも不可能。それでも万が一があると思っているのか堕天使の執拗な攻撃が続く。
(駄目だ。間に合わな――)
エクステラが大きく目を見開き、アスカたちが思わず目を背け、堕天使が勝ち誇ったかのようにその行く末を見ようとする。
だが、そのとき、暗雲を切り裂き、天から舞い降りた一筋の光条がそれを遮る!
「何者だ!?」
「そこの堕天使から我の名を聞いていなかったのか」
「セラフィム!」
「自然災害や『評議会』との戦いでは介入するつもりは無かったが、元身内である堕天使が絡んでいるのであれば話は別だ」
「セラフィム……今更、一人増えたところで私の復讐を止めることは出来ん!」
「見ないうちにずいぶんと人間臭くなったな、堕天使」
「なに……?」
「ゆえに残念だ。我らと相反する道をとることになるとはな」
さらに上空から2人の智天使級、13人の座天使級が地上に降臨していく。そのいずれも人間大であり、男女問わずメイド服を着ているのはセラフィムの趣味なのだろうかとエクステラは彼に疑いの目を向ける。
「何を不思議そうに見ている。我の親衛隊の識別にも使える上に、彼らにも似合っているだろう」
「……趣味と実用を兼ね備えているってわけね」
「君のその服も良く似合っている。どうだ、我が親衛隊に入隊するというのは?」
「……外宇宙に興味ないといえば嘘になるし、和平交渉が纏まったら前向きに検討するわ。そのためにも!」
「堕天使の企みを打ち砕かねばな。我が親衛隊よ、良き隣人になり得る者たちを守れ!」
智天使級の二人がアスカたちを担ぎ上げ、バリケード側へと向かっていく。残りの座天使級も学院の外へと足を踏み入れようとしているモンスターたちに攻撃を仕掛けていく。まだ多勢に無勢であり、侵攻の足を止めただけに過ぎないが、ティアマトたちを苛立たせるには十分であった。二人の攻撃がセラフィムに集中するも、背後からの追尾剣を体の周囲から発生させた雷で撃ち落とし、ビーム攻撃は盾でしっかりと受け流す。
「セラフィム、周りの戦況を確認したいわ。しばらく、一人で二人の相手できる?」
「別にあのデカブツを倒しても構わないのだろ」
手にしていた大剣を巨大化させてからの一閃がティアマトを両断するも、にゅるりと切断面から触手上の黒い液体同士が切断面を結合させて、元に戻っていく。ならば、魔法攻撃であればと考えたセラフィムが頭部に向けて、上空に描かれた魔法陣から放たれた閃光で頭部を消し飛ばすも、首元がボコボコと泡立ちながら頭部を復活させてくる。
「これ以上の攻撃となると地上にも被害がでかねん。堕天使だけでなくあのデカブツの相手もとなると、我でさえそう長くは持たん。あれは我々が出会った宇宙生物の中でも格別だ」
「時間があれば、相手が神でもその間に希望を見つけ出して見せる」
「できるのか?」
「やるのよ。《《私たち》》で」
「承知した。惑星破壊レベルの攻撃を用いないという条件下では、少なくとも我に勝機を見出すことは出来ん。この戦いの間だけ、エクステラ、君の指揮下に入ろう」
「それなら時間稼ぎのついでにさっきの頭部みたいに、胸部、そのほか人体の急所に攻撃を仕掛けてみて。もし、再生回数に限界があったり、相手に弱点とも呼べるような急所があるなら再生能力に違いがあるかもしれない」
「注文は多いが、やれるだけのことはしてみよう」
堕天使からの不意打ち攻撃に気を付けつつ、ティアマト相手に攻撃を仕掛けるセラフィムに背を向け、エクステラはステラに指示を出しながら、自分たちが居ない間に何が起こっていたのか調べるべく茨のバリケードへと向かっていくのであった




