第73話 決意の戦火
EX-05を倒したことで洗脳が解けた生徒たちの避難誘導していたカケルたちだったが、突如の脱力感に襲われ、学院の生徒もろとも地に伏してしまう。
「な、なんだよ、これ……」
「力が……入らない…………」
「カケルお兄ちゃん、みんな大丈夫ですか!」
人型形態になったひかりちゃんがあたふたしながらも、ひとまず燦燦と輝く太陽のもとから校舎の日陰に入れようとしていたとき、地響きが鳴り響く。
「地震!?」
「違う。あれは……」
「な、なんだよ、あれ……」
地面から突如生えてきたラミアのようなモンスター、ティアマトが顕現する。その威光の前には天すらも伏したのか、快晴の空が一転し、暗雲が立ち込めていく。雷鳴が鳴り響く中、地面から上位のキメラ、ミノタウロス、オーガ……多種多様のモンスターがボコボコと湧いてきて、逃げ遅れた女生徒の頭を踏みつぶしながら蹂躙していく。
「きゃあああああああああああああ!!」
「誰か、たす――」
パニックになり、助けを求めるも、まともに動ける人間はいない。もはや自分の死を待つしかない状況。学院の外へと向かおうとする処刑人たちの足音が近づいていく中、カケルたちを守ろうと唯一動けるひかりちゃんが飛び出し、刀身に変えた右腕でキメラの首を切り落とす。
「私がお兄ちゃんやお姉ちゃんたちを守ります」
その決意は無意味だと言わんばかりにミノタウロスが自慢の斧を振り下ろし、ひかりちゃんの刀身とぶつかる。力ではこちらの上だとニチャリと笑うミノタウロスだったが、斧がバターのように裂けたことに驚く暇も無く、腕ごと斬られていく。
「子供だからって甘く見ないでください。飛翔斬」
カケルたちと比べると小さいが、ミノタウロスの首を切り落とすには十分な飛ぶ斬撃が放たれる。瞬く間に2体のモンスターを倒したひかりちゃんを脅威と思ったのか、周りのモンスターの足が止まり、排除しようと襲い掛かる。だが、ティアマトが生み出したモンスターは上位種のせいか、通常種と比べて体躯が一回り大きいのが仇となり、小柄ですばしっこいひかりちゃんをとらえきれずにいた。
「こういうのを蜂のように舞い、蝶のように刺すというんです!」
「逆!ひかりちゃん、逆!」
「蜜でも吸うのかよ!」
「ごめんなさ~い」
男子二人がツッコミを入れている中、カレンが炎を出して援護しようとするも、すぐにかき消えてしまう。
「駄目ですわね。今のワタクシの魔力量では数十センチ程度しか炎を保つことができませんわ」
「デバフ解除の炎で動けたりはしませんか」
「さきほど自分で試しましたが、これは封印やスタンといった状態異常ではなく吸収。相手の攻撃である以上、ワタクシの炎で焼き尽くすことは不可能ですわね」
「そんな……」
あちらこちらで聞こえる悲鳴。だが、その数は聞こえる限り減ってきている。それは誰かに助けられたからではなく、その分、亡くなったことを意味している。
【う~む、あのティアマトの隣で飛んでいる堕天使とやらを見る限り、エナジードレインの対象は地球人に限定されているようじゃな】
「ピーちゃん、今、しゃべったらダメだって」
【まあ聞け。となれば、異星人である妾をお主が受け入れれば、浸食率に応じてその負担は小さくなるはずじゃ】
「でも、それって、もう一度化け物に……」
【そんなことすれば、今度こそ殺されてしまうじゃろうって。妾も命は惜しい。浸食率40%、意思決定権はサキ、お主にある。妾の言葉を信用しないというのであれば、それもよかろう。じゃが、ひかりとやらが時間を稼いだとしても限界は来る。お主が死を受け入れるのは好きにしろと言いたいところじゃが、妾は死にたくないのでな。無理やりにでもその身体を奪い取って生き延びるぞ】
「そんなの選択の余地ないじゃないですか!」
【引っ込み思案のお主にはちょうどいい薬じゃろうって。さあ、お主の返答を聞かせてもらうぞ】
「そんなの決まっています。私だってまだ死にたくない!ピーちゃん、力を貸して!」
【抵抗が弱まったな。これなら……おっと言い忘れていたが、裸は嫌だと抜かしておったから適当に服を身繕っておいたぞ】
「えっ、そういうのは先にそうだ――」
有無を言わさずサキの身体が光り出し、突如起こった出来事にモンスターたちの手が一時的に止まる。そして、光が収まるとそこには戦隊モノのようなぴっちりとした紫色のスーツにフルフェイスのヘルメットをかぶったサキの姿があった。
「な、なななんんですか、コレえええ!」
【ほれ、お望み通り露出ゼロじゃぞ】
「体型が隠されていないじゃないですかあああああ!!妙にスースーするし、全裸と変わりません!」
【ワガママじゃのう。通気性が良いのは当たり前じゃよ。妾の異能は植物を操ること……生成した細いツタを編み込んでスーツみたくしとるだけじゃ】
「つまり、どういうことです?」
【簡単に言えば、すっぽんぽんなところに色のついたツタが巻き付いているだけじゃな】
「結局、痴女じゃないですかああああああああああ!」
【ちなみに色はお主の名からとった。オオ『ムラサキ』じゃろ】
「オオムラ/サキです。紫じゃありません!」
【それだけツッコミを入れる元気があるなら大丈夫じゃろ。ぐずぐずしておると助けられる命も助からんぞ】
「ええい、こうなったらやりますとも!」
天使であるピーちゃんと融合したことで、魔力量が一気に増大。ティアマトがエナジードレインをしても、今のサキは純粋な地球人ではないため、軽い疲労感は有れど先ほどまでの動けないほどの虚脱感は無い。
やや投げやりになりながらも、スーツになっている素材になっているツタを自身の異能で操作し、指先からツタを槍状に変化させ、オーガの目に突き刺す。痛がったオーガがツタの槍をへし折ろうと力を入れるも、ビクともしない。それどころか、傷口から根を張ったツタがオーガの脳内に侵入し、がっちりと捕まえる。
「ブレインクラッシュ!」
手足の延長線上かのように動くツタの根がオーガの脳を握りつぶし、絶命させる。だが、ひかりちゃんのように1体ずつ倒していっても、きりがない。となれば、今、求められるのは面制圧できるだけの火力。
「シードバルカン!」
10本の指先から放たれた植物の種がキメラやミノタウロスたちに植え付けられ、心臓などの臓器に向かって根を張り、握りつぶされていく。瞬く間に複数のモンスターを倒していくサキだが、それでも数がダンチだ。
【仕える天使はおらぬが、眷属であれば操れるぞ】
「分かりました。パペットプラント」
自身の足先から切り離された自身と同じ大きさまで成長させた数体の木偶人形をピーちゃんが操り、ミノタウロスを蹴り飛ばし、周りのモンスターを巻き込ませる。数体のモンスターが倒れたところを、槍状に伸ばした腕で一刺しする。
【この程度の敵であれば、遠隔操作でも楽勝じゃな。さすが妾じゃ】
「外にいる救助者を助けます。時間稼ぎお願いします」
もしもの場合に備え、カケルたちを囲むように茨のバリケードを作り出してからサキは神経を集中させる。だが、救助を求めるその数は……
(私がもう少し早くピーちゃんを受け入れたら……ううん。今はそんなこと考えている場合じゃない。今は一人でも多く助けないと)
サキが持ち前の植物を利用した広範囲サーチで動けない女生徒たちを地下から這わせたツタで巻き上げ、攻撃の届かない空中まで持ち上げる。運よく生き延びていた十数人程度の生徒たちをバリケードの奥から伸ばしたツタたちにバトンタッチして、避難させる。
「校内に逃げ遅れた人がいないか探します」
【こういうときはこういうのじゃろ。ここは妾に任せて先に行け。なーに、あれらを倒しても構わないのじゃろ】
「そうです。この戦いが終わったら、みんなで美味しいご飯を食べるんです」
「そう言われるとちょっと不安なんだけど……」
【何故じゃ!?】「なんでですか!?」
「それはフラグというものでござるよ」
影の中からにょきっと主人である影山を背負ったシャドウがツッコミを入れながら現れる。彼らが『評議会』所属なのは周知の事実。いくらティアマトのエナジードレインで弱っているとはいえ、おいそれとはバリケード内に入れるわけにはいかない。
「敵対するのは分かるでござるよ。奴を復活させたのは拙者らでござるからな」
「なら、なぜ私たちの前に現れたの? 貴方の能力なら、逃げられたはずなのに」
「……汚い仕事を任され、約束は反故にされ、大義は失い、招いた結果がコレでござる。今更、『評議会』に尽くす忠義は無いでござるよ」
「ぼ、僕たちは……まだ負けてなんか……」
「ゲームオーバーでござるよ、主殿。ただ、コンティニューできる道は切り開くつもりでござる」
明らかに反省の色が伺えるシャドウを信じて、影山をバリケードの内側に入れようとツタで掴もうとすると、するっと通り抜けてしまう。
「えっ?」
「主殿はとある事故の影響で魂と肉体が分かれておるゆえ、普段はゴーレムを外殻として暮らしているのでござるよ」
「それは言わない約束って言ったじゃないか」
「事情を知ってもらうのが先でござる。とはいえ、それが出来たのは事故からそれなりの年月が経ち、両親たちは事故を忘れたいのか引っ越した後。戻るべき肉体は燃やされたそうでござる」
「あんな奴らの話なんていいよ……あの神様のせいで僕の外殻用ゴーレムが維持しにくくなっているんだ」
本当は両親が息子を目覚めるまで大病院に転院させ、その目が覚めるを待っているのだが、『評議会』によってゆがめられた情報しか知らない影山は醜態をつきながらも、バリケード内に寝かされることになった。
「拙者らと同じくティアマトの巨大化に巻き込まれて生き埋めになった者たちもいるでござるが、そちらはお主らの友人と一緒にいたエクステラが何かしてくれることを期待するしかないござるよ」
「エクステラさんと合流していたんですか!?」
「うまく魔力を隠していたようではあったが、手合わせしたから間違いないでござるよ。こんな任務、失敗したほうが良いゆえ、報告しなかったでござるが。拙者らはここから遠い北館を探すでござる。影で輸送すれば安全でござろう」
「わかりました。私は中央館を探します」
二人は別れ、それぞれ逃げ遅れた人が居ないか探しに行く。そんな彼女たちの活躍を苦々しく思う者が居た。堕天使だ。
「地母神ティアマトよ、まさか子供相手だからと手を抜いているわけではあるまいな」
「天罰を乗り越えるのであればそれはそれで……とは思うが、容易に超えられた挙句、異星の者に侮られるのは気に食わん。少しばかり本気を出すとしよう」
ティアマトがさらに100体以上のモンスターを召喚し、バリケード方面だけでなく四方へと散らしながら侵攻させていく。たった二人で散らばるモンスターに対処することは不可能。さらに、二人の心をへし折ろうと救助者が集まっている茨のバリケード内に向けて、巨大なブレスを放とうとティアマトの口内に莫大な魔力が集まり、止める術を持たない致命的な一撃が放たれようとしていた。




