第72話 降臨する神
「生徒会長が居た手前、ああは言ったけど、エクステラから祭壇の場所は聞いているからまっすぐ向かうわよ」
「どおりでビーズを見てないわけね」
「で、どこに向かうの?」
「理事長室の場所は分かるわよね」
「うん。西館の1階」
三人が襲い掛かってくる生徒たちを蹴散らしながら進み、鍵のかかっている理事長室のドアをアスカが蹴り飛ばして中へと進む。いかにも高そうな来客用のソファや机、棚には数多くのトロフィーが置かれており、この女学院の優秀さを誇示しているようだ。
「ここにはいるの転校前に挨拶回りしたときくらいだけど、怪しい場所なんてなかったような……」
「ええ。本当は中庭のギミックを解く必要があるんだけど、爆破して進むわ」
「まさかのごり押し!?」
「あんた、綿密な計画立てる割にはパワープレイ好きよね」
「仕方ないでしょう。時間が無いんだから。というわけで歴代理事長の写真が飾られている壁、特に右から3つ目の写真あたり、爆破してちょうだい」
「任された。えいっ」
ドカーンと思いっきり爆発させると壁が崩れ、中から地下に繋がる梯子が出てきた。それを使って下に降りていくと古びた大きな石の扉がある。扉には怪しげな文様が描かれており、床には古びたお札のようなものが散乱している。
「いかにも何か封印していました的なアレよね」
「そうそう、映画冒頭でチャラ男が中に入って食われるか祟られるタイプ」
「まさにそういうタイプの邪神様がいるわ。ギミックを解いていないから、開いてないようだけど」
「そうならないためにも早く助けないとね。じゃあ行くよ」
みみみの言葉に合わせて二人は頷き、その扉を爆破させる。中に入ってみると大きな石像の前にある祭壇の上に寝かされたサクラ、その前には黒いローブを着た人物と両脇にいるEX-04とシャドウと影山たち。
「足止めにもなりませんでしたか。まあいいでしょう。あと少しで我が一族の悲願は成就するのです。お前たち、侵入者どもを排除しろ!」
「言われなくてもやるつもりよ」
「……任務でござるからな」
後方からで複数の分身体と共に弾幕を張るEX-04と先陣を切るシャドウに対して立ち向かうのはアスカとみみみの爆弾、エミの銃弾。両者の攻撃が激突し、爆音を鳴り響きかせ、大気が揺れる。その中でのアスカの拳とシャドウのクナイが幾度となく交わる。
「くっ、足元を照らされているせいで影に入り込めぬ」
「残念だったわね!」
「せめてまともな獲物があれば……」
シャドウの強みは影からの奇襲による一撃離脱。決して正面戦闘ではない。だが、邪神復活までの時間稼ぎという任務に加え、アスカが足元をチカチカと照らし続けているせいで、影の形が変わり続け、影に潜り込むことができない。よしんば、それが無くとも、これだけの激しいラッシュではその隙も無い。しかも愛刀はエミへの奇襲の際に失っている。二重三重のデバフが掛かっていると言って差し支えない状況だ。
「ライトニングブロー!」
「うぐっ……」
絶不調の隙を見逃さず、アスカの雷を纏った拳がシャドウに突き刺さり、くの字に折れる。悶絶しているシャドウをしり目にEX-05がみみみのしつこい爆弾に向けて弾幕を張り、爆風の華を咲かせる。
「さすがに飽きてきたわね。くらいなさい、メテオ」
「なんか強そうな魔法来たんだけど!?」
「慌てないで。見た目に惑わされず、直撃コースに来ているのは数個だけよ!」
味方さえも巻き込みかねない隕石群が降り注ぐも、自分たちに当たる隕石だけを爆破させていく。だが、そのせいで、アスカはシャドウと距離を取らざるを得なくなった。となれば、影に潜り込めるチャンスは生まれる。すかさず、影の中へと飛び込んだシャドウはアスカの背後に回り込み、その刃を背中に突き刺そうとするも、跳んできた裏拳にひっぱたかれてしまう。
「なぜ気づいた」
「勘よ、勘」
「なんと……人間ではなく野生のゴリラでごじゃったか」
「だれがゴリラよ!エアロブースト」
さらに速度を上げて、シャドウに逃げ道を与えないようにする。それを見たEX-05もそろそろ真面目にシャドウの援護をしないとマズイと思ったのか、お遊びに付き合っていた多数の光弾ではなく貫通力のあるビームに切り替えて、みみみとエミを狙っていく。
「プロテクション」
「そんな低級なプロテクションで私の攻撃は防げないわよ」
エミが薄い障壁を張るも、やすやすと貫かれてしまい、直撃だけは避けれたものの、足元に着弾したビームは爆風を引き起こし、彼女たちを吹き飛ばしてしまう。それでも、逃げ回りながらもみみみが爆弾を飛ばしてくるが、分身体のビームで丁寧に貫いていく。
「逃げ回っていたら勝てないわよ」
「おとなしく負けを認めなさい」
(攻撃方法を切り替えてきたということは、奴らも焦りを感じてきたという証拠。ならば、仕込みは十分か)
EX-05に向かって反撃するも、分身体だったらしく、影となって消えるだけであった。影山のそれを補うように再び増え続ける分身体。それに追われるかのようにみみみとエミはアスカから離れていくように逃げる。
「残念でした~」
「ほらほらどうしたの?」
「本物はこっちよ」
「こっちかもしれないわよ」
EX-05が煽るような口調で話すのを無視して、アスカたちが巻き込まれない位置関係に陣取ったたエミはアイコンタクトでみみみに指示を出す。それを受けたみみみが小さく頷き、再度爆弾をけしかける。また性懲りもなくとEX-05が攻撃を仕掛けた瞬間、ビームで貫かれた爆弾からビーズが爆風の勢いそのままに弾丸のように降りそそぐ。
「これが正真正銘のクラスター爆弾よ!」
広範囲にばら撒かれたビーズの銃弾は本体には通用しないものの、耐久力の無い分身体を貫くには十分な威力を誇り、消滅させる。
「それがどうしたの!」
「にひひひ、いくらゴーレムを倒したところで、作り直せば良いだけだよ」
「だけど分身を新たに作り出すには若干のタイムラグがあるわ!」
エミがすかさず【接続】を使い、ビーズを鎖状に変形させる。その先は祭壇に寝かされているサクラ。彼女の体に巻き付いたビーズを引っ張っての1本釣り。彼女の体が宙に浮き、奪われまいとEX-05がインターセプトしようも爆風の壁に阻まれる。
「邪魔はさせない!」
「このガキが!」
「あらあら、醜い本性が出てきたわね」
エミが煽り返しながらも、その手にサクラを抱きかかえる。呼吸は正常、苦しんでいる様子はない。ただ眠らされているという感じだ。
「お前たち、何をしている!早く贄を取り戻すんだ!」
「言われなくても!」
「分かっているよ。ちょっと精度は落ちたけど、10体くらい作っておいたよ」
精度を落としたと言っても、よく見れば髪の毛の色が少し暗かったり、短かったりする程度の間違い探し。動き回る戦場でそれらを見破るのは困難であろう出来だ。再び分身体に紛れてEX-05が攻撃を仕掛けようとしたとき、みみみにサクラのことを任せたエミがやれやれと言った様子で向き合う。
「同じ戦術が何度も通用するなんて下策にもほどがあるわよ」
ビーズの鎖をほどき、再び【接続】する。新たに作られた分身体はまだ触れていない。つまり、接続することは出来ない。だが、逆に言えば、接続できるものはすなわち、攻撃を受けても消滅しない本体そのものであることの証明。分身に紛れていたEX-05にビーズが絡んでいき、その動きを封じていく。
「あとは任せたわよ、みみみ」
「うん、みんなの分の爆弾は残してあるから」
巻き付いたビーズをこちら側へと引っ張る。分身体を追い越し、矢面に立ったEX-05の前にあるのはストックしていたぬいぐるみが全部あろうかと思われるほどの爆弾の壁。プロテクションを張ろうにも手は後ろに拘束され、前面に出すことができない。
「いやいや、この子の身体がどうなっても良いの!?」
「ツバキちゃんには後で謝るから!私の全力全開の――!」
「喰らうわけにはいかないわよ!」
握っていた杖、EX-05本体を手放し、本体だけ襲い掛かる爆風と爆炎から逃げようとする。相性の良い身体は惜しいが、何より大切なのは自分の身体だ。爆炎に飲み込まれたツバキを見捨てて逃げようとするEX-05の背後から見知っている魔力反応を感じる。
「それは読んでいましたよ」
「お前、まさかEX-0――」
ステラに人格を譲ったエミがサクラから奪った刃を振るう。真っ二つに切り裂かれたEX-05はエミの正体を伝える暇もなく、その機能を完全に停止するのであった。土煙で見えていない内に元の人格に戻ったエミは二つに分かれたEX-05の拾い上げ、みみみの元に戻る。
「作戦通りうまくいったね」
「ええ、諸悪の根源は倒したわ。ツバキちゃんは大丈夫?」
「もちろん。爆風の方向を制御したからダメージは無いと思う」
はじめから狂言の爆発だったのだ。ツバキの身体を使っている以上、それを盾にするのは容易に想像できる。ならば、盾にできないとなれば、EX-05はどう行動するのか。おとなしくその攻撃を受けるような性格でないとステラから聞かされていた信二は一計を案じた。
みみみの爆弾の威力を頭に植え付け、逃げ場を一つだけ残した状態で大量のぬいぐるみの壁に突っ込ませればどうなるか。あとはご覧のとおりである。
「これでトドメよ!」
「うぐっ……」
その一方でアスカのフィニッシュブローで床に転がるシャドウにファイティングポーズを崩さないアスカ。どちらが勝っているか一目瞭然だ。
「馬鹿な、EXナンバーがやられたとでも言うのか……」
「えっ、理事長先生!?」
「この学院の? なんで、そんなお偉いさんがこんなことをしているのよ」
爆風の影響でフードが外れたのだろうか、ローブの男性の正体があらわとなる。ここまで来たら逃げるつもりは無いのか、それとも追い詰められて壊れたのか、高笑いをし始める。
「なぜ? 愚問ですね。ダンジョンが数多くある日本でダンジョンから採れる鉱物を使った研究は他国より進んでいる。だが、そのアドバンテージも今やグローバル化という愚民どもの失策で失われようとしている」
「それは政治の問題よ。政治家にでもなれば良かったじゃない」
「そうよ。なんで学院の理事なんかやっているのよ」
「黙りなさい。今から100年前の暴走事件が無ければ、こんなことをしなくても良かったのです。恨むのであればあの少女を恨みなさい」
【………………】
(ステラ、言いたいことがあるのは分かるが、今は――)
【わかっていますよ。ここで暴れたら、あの日の二の舞じゃないですか】
「あの事件の人材損失は余りにも大きかった。アレが無ければ、日本の地位は揺るがないものになっていたでしょう。だが、老人たちは世界トップの地位にあぐらをかき、くだらないところにお金をつぎ込み、挙句の果てには自分たちの地位が脅かされそうになってようやく『Sランク量産計画』に着手し始めた」
「そのくだらない計画のせいで……」
「みみみ、落ち着きなさい」
「くだらない計画、私もそう思います。100年前の事件の数少ない生き残りであったドクターも当時の主任と比べれば遥かに劣る。何しろ、あれだけの時間と金をつぎ込んでも、出てくるのはEXナンバー以下のもの。ですから、私の祖父は早々に別の計画を企てていました。それが『天魔計画』。太古の昔、我が一族が遠方の地にて封印し、この地で監視していた邪神を復活させ、その威光をもって世界を支配する計画です」
「天魔計画、エクステラから話は聞いたわ。その計画を実行するために建てられたのが、ここ――南雀女学院ってことを」
「どういうこと?」
「邪神を復活させるには大量の穢れ無き乙女の血と依り代となる強き身体が必要。一人二人ならともかく、何十人、何百人の人間が行方不明になったら怪しまれるわ。でも、育成機関を建てれば、授業中に怪我をしたとしても、怪しまれることは無い。そうやって、100年という長い年月をかけてこの地に乙女の血をしみこませていったの」
「いやはや、そこまで調べつくされていたとは驚きです」
「だけど、依り代となるサクラはこちらの手にあるわ。そして、貴方には切れるカードは存在しない。貴方の負けよ、おとなしく――」
「フハハハハ、なぜ、私がこうもペラペラと話しているかまだ分かりませんか。切り札は最後までとっておくものですよ。私にはもう一人パートナーがいるのです」
空間が斬り裂かれ、ワープホールから出てきたのは堕天使の女。このタイミングでイレギュラー要素が出てきたことにエミたちは警戒心を上げる。
「堕天使と繋がっていたのね」
「あたりまえです。生まれた星が違えど、邪神がどれだけ偉大なものか分かってくれましたからね。さあ、堕天使殿、あの者たちをとっ捕まえなさい」
「ク、クク、クククククク……」
「何を笑っているのです」
「余りにも滑稽すぎて笑ってしまっただけだ」
「何を言って……」
「道化が私に指図するな!」
宙から飛び出してきた剣が理事長に突き刺さって、ずぶずぶと中へと入っていく。堕天使の突如の裏切り宣言に困惑しているのはエミだけではなく、シャドウたちも同じであった。
すべての剣が体内へと入っていくと、理事長の身体が粘土でもこねられているかのようにボコボコと波打ちながら変質していく。髪は伸び、肌は黒くなり、その姿はまるで――
「ずいぶんとかわいらしくなったじゃないか」
「堕天使がもう一人?」
変貌した理事長は目の前にいる堕天使と瓜二つの姿。ただ違うのは元理事長の堕天使は目が虚ろで、本人の意思があるのか疑わしいところだ。そして、元理事長の堕天使がペタペタと祭壇に向かって歩いていく。
「マズイ!!」
堕天使の狙いが分かったエミが素早く銃弾を放つも、堕天使の操る剣に防がれてしまう。まだ切羽詰まった状況であることを飲み切れていないみみみは思わずどういうことかと聞き返してしまう。
「今の理事長は女になった。つまり、穢れ無き乙女よ。しかも、堕天使と同等の力をもっているのであれば、その強さは十分に生贄にするには十分すぎる」
「!? ってことは!」
「邪神が復活するじゃない!」
ただ、みみみの爆弾は使い果たし、アスカも連戦に次ぐ連戦で魔力も体力も使い果たしている。唯一、戦えるエミも堕天使をタイマンで突破できるほどの実力は持ち合わせていない。
そして、元理事長の身体に黒い靄が纏わりつき始め、黒い球体となって石像の中へと吸収されていく。
「目覚めよ、地母神ティアマト!」
「サタンじゃない!?」
石像がビシビシと割れ、出てきたのは下半身が蛇のラミア、あるいはエキドナと呼ばれるモンスターによく似た女性の姿。だが、頭部に生えている大きな角が示しているような威圧感はそれらのモンスターの比ではない。
「封印を解いたのはお前か? 我が子ではならぬ者よ」
「その通りだ。子が悪行をするのであれば、それを正すのは母の役目ではないかと思い、復活させた」
「依り代の醜い心を見る限りそのようだな。よかろう。罪に塗れた子たちを叱るのも母の役目。心苦しいが、その願い、しかと受け取った」
ティアマトがエミたちと向き合った瞬間、アスカ、みみみがバタリと倒れる。しかも、味方であるはずの影山すら倒れ、それをみたシャドウが力を振り絞りながら駆け寄る。
「ち、力が入らない……」
「私もよ……」
(一体、何が起こっている……?)
原作とは異なる神の復活に困惑しつつも、まずは倒れているアスカをビーズの鎖で引き寄せ、相手の出方を伺う。
「なぜ、貴様は動ける」
「どういう意味かしら?」
「……まあいい、我が子たちから力は吸収した。少しは本気を出せそうだ」
ティアマトの身体が少しずつ大きくなっていき、天井を突き破り、校舎と同程度の大きさになるまで巨大化していくのであった。




