第71話 決戦の地へ
バチバチと帯電しているアスカを見て、サクラはこちらを感電させるつもりかと思い、妖刀に魔力を込めて黒いオーラを纏わせる。あらゆるものを切り裂く妖刀、それは実体を持たぬ【接続】だろうと電気だろうと例外ではない。電気が通るよりも先に断でば良いと剣を振るおうと思った矢先、アスカの姿が消える。
「縮地!?」
「そんな高等技術持っていないわよ!ただ普通に走っただけ」
目の前に現れたのと同時に叩き込まれる拳打。しかもその一撃は先ほどよりも重い。いくら完全防御の鎧を着ているとはいえ、何発も叩きこまれたら壊れてしまうのではないかと思うほどの衝撃を受ける。
【縮地と思わせるほどの速度強化に、パワーの向上……ただの強化魔法ではないな】
「体に纏わせた電気でツボを刺激することで、肉体強化された身体をさらに強化するからオーバーブーストなのよ」
「全身キック力増強シューズってこと!?」
みみみが某眼鏡探偵の秘密道具を思い出している中、音すら置き去りにするレベルの高速移動からのラッシュをサクラに反撃の隙を与えぬほどに叩き込んでいく。常人ならば制御できないレベルの強化だろうが、今までエクステラの段違いのバフを受けてきたアスカだからこそ制御できるのだ。
(だが、肉体強化している身体をさらに強化できるほどの電気となるとそれなりの電圧が必要になるはず。いわば、スリップダメージを受けながら戦っているようなものだ。それに先のダメージを考えると……そう長続きはしない)
(練習だと3分が限界。それまでに決めないと!)
妖刀に回していた魔力をEX-04に回し、さらなる防御力の向上を謀るサクラと正面から崩すしかないアスカ。ただでさえ、崩すのが困難な防御力がさらに上がるのだから、絶望的と言っても良い。
「まだまだぁ!!」
だからそれがどうしたと言わんばかりに殴り続ける。10発で壊れないなら100発。それでも壊れないなら1000発だろうと10000発だろうと殴り続ける。その拳が止む気配はない。それは拳の暴風雨となってサクラを襲う。
「オラオラオラオラオラ!」
【い、いかん……儂の異能でも、これだけの攻撃を受け続ければ耐えることができん!】
「うそ!?」
EX-04の弱気な言葉にサクラは一瞬、頭が冷える。これまで無敵と思われていたEX-04の防御能力を真っ向から突破してくる相手などで会えたことが無かったからだ。だが、そんなEX-04の忠告を「良いこと聞いた」程度にしか思っていないアスカは更に力を籠める。
「これでぇ!」
【衝撃を流し切れん!?】
アスカの正拳突きを喰らったサクラが壁に激突し、その衝撃で妖刀を手放す。よろよろになりながらも転がった妖刀を拾おうにも、アスカに蹴り飛ばされてしまい、手にすることは出来ない。完全敗北である。
それを認めるかのように倒れたサクラを見て、アスカは肉体強化を解くとアドレナリンが切れたのか激しい痛みに襲われ、その場にうずくまる。
「いったぁ~私じゃなかったら死んでいたわよ」
「アスカ、大丈夫!? 応急処置程度の簡単な治癒魔法しか使え――」
「下手な治癒をするくらいなら、私にお任せを。傷一つ残らず治してあげますわ」
カレンの黄色い炎がアスカの身体を焼いていくが、アスカ本人はやけどのような熱さを感じるどころかぽかぽかとした温かさを感じる程度しかない。そして、炎が尽きるとそこには傷口どころか、攻撃そのものが無かったかのように切り跡一つ付いていない制服を纏ったアスカがいた。背中に手を伸ばし、斬られた箇所を抑えても全く痛みも無く、傷が治っていることを告げている。
「治っている……」
「傷そのものを燃やしただけですわ」
「さすが因果律に干渉さえできると言われているだけのことはあるわね」
「褒めても何も出てこないですわよ」
「良かった……って、サクラちゃん、大丈夫?」
「……だ、大丈夫。あばらの骨は折れたかもしれないけど」
あばらと一緒に戦意も折れたとはいえ起き上がることすらできないサクラの様子を見るに、アスカの最後の一撃は相当堪えたようだ。そして、自分たちの敵に回った以上、カレンはサクラの傷を治す気はない。
「粗方の事情は聴きましたが、改めて貴女の口からこのようなことをした理由を聞かせてもらっても?」
「わかりました」
サクラの口から1週間前の出来事について語られていく。
その日、ツバキと出かけようと妹の部屋に入ると置手紙が置かれていた。その手紙にはツバキを誘拐し、誰にも気づかれずに特定の時間・場所に来るようにと書き残されていた。しかも、EX-04によるとその筆跡からはEX-03シャドウのものと判明。その隠密性の高さから警察や親に相談しようとするところを見られるリスクが高い。
「相談できなくてもおじいちゃんから譲り受けたEX-04の異能を使えば、人質に取られていてもツバキを守ることができる。腕に自信もあったから、約束通り一人で来たんだけど……」
「その時にはEX-05によって操られていたというわけね」
「はい。さしものEX-04でも洗脳を解くことはできず、ツバキに刃を向けることができなかった私は彼女たちの言うことを聞いていたんですが、まあ、エクステラにボコられた後、見放されたみたいで……ここに置いてけぼりくらいました」
(立ち直ったとはいえ、あれだけ精神的に弱い所を見せられたら、そうもなるか)
「……私って駄目な人間ですよね。妹一人守れないどころか、他の人を傷つけようとしちゃって……」
「傷つけるどころか殺そうとしていたじゃない」
「あぅ……それは、その……私、昔から剣を抜くとハイテンションになっちゃって」
「サクラちゃんの悪癖だよね~バーサーカーになるの」
「そのせいで、Sランクの中でも弱く見られているわけですもの」
「あぅ、あぅ、私も抑えようとはしているんですよ」
「で、何フェムト秒もつの?」
「ふぇ、フェム? 麻衣ちゃん、知らない人にまで馬鹿にされた~」
「あらあら、ずいぶんと仲良しになったのね」
サクラをいじり倒していると、突如、背後からEX-05が話しかけてくる。それを聞いたエミたちが臨戦態勢を取り、身動きが取れないサクラを守るように前に出る。
「時間切れまで待ったけど、ずいぶんと嫌われたみたいね」
「あたりまえでしょう!さっさとツバキちゃんを返しなさいよ!」
「いやよ。私と波長の合う人間、滅多と出会えないもの」
「何しに来たのかしら?」
「聞くまでもないでしょう。そこの死にぞこないのお姉ちゃんを回収しに来たの」
「気持ちわるぅ。いい年こいたオバサンの猫なで声とか」
「誰がオバサンですって!」
「聞こえなかったの、オ・バ・サ・ン。ああ、製造されたの100年前だからおばあちゃんの間違いだったかしら」
「このガキァ!」
EX-05が放った光弾をアスカが魔力を込めた拳ではじき返す。攻撃を受けて他のメンバーもEX-05に意識を向けた瞬間、不意を突くかのようにサクラの身体が地面にずぶずぶと埋もれていく。近くにいたみみみが慌ててサクラの身体を引っ張っても、埋もれていくサクラを引っ張り上げることができない。そして、サクラの身体が地面の中に入っていっても、みみみの手は地面に弾かれるかのように一緒に中に入ることができない。
「油断大敵でござるよ」
「シャドウ!」
「サクラ殿は邪神の贄としていただくでござる」
「ちょっと待ちなさいよ!」
アスカが飛び出てシャドウを捕まえようと手を伸ばすが、EX-05のプロテクションに阻まれてしまう。再度、オーバーブーストを決めてプロテクションを破壊しようと魔力を込めている溜めの間に二人は影の中へと消えていくのであった。
「間に合わなかった……」
「いえ、とっさに動けなかった私の責任ですわ」
「今は悔やんでいる場合じゃないわ」
「そうだね。サクラちゃんをなんか生贄にするみたいなこと言っていたし、助けないと」
「ええ、そうね。だから私たちは二つの班に分かれるわ。生徒会長さんは時間差で学園内に忍び込んだカケルたちと合流し、生徒たちの洗脳を解いて避難誘導。私たち三人は引き続き、サクラとEX-05の行方を追う」
「分かりましたわ。では早速――」
「そのまえに生徒会長さんから、校内放送で無事な生徒たちに洗脳を解いた生徒たちを連れて外に出るように指示してくれないかしら。私たちがやるよりかは安心感が生まれるはずだし、これから起こるであろう戦いに巻き込まれないようにするためにも」
「それもそうですわね」
「そっちは監視カメラの映像を見ればカケルたちの居場所が分かるから良いけど、私たちはどうやってEX-05の行方を追うわけ?」
「影の中にいるときは分からないけど、四六時中いるわけじゃない。サクラを贄にすると明言している以上、どこかのタイミングで地上に出すしかない。そのタイミングになれば私のビーズがいるべき方角を指し示す。秘密の地下室でも指し示すようなら、みみみの爆弾で吹き飛ばせばいいわ」
「任せて。更地にするくらい吹き飛ばすから」
「それだと、どっちがテロリストか分かりませんわね」
「人質がいるんだからほどほどにね」
「分かっているって。サクラちゃんを生贄になんかさせないんだから!」
校内放送を終え、北館から出たエミたちはカレンと別れて決戦の地へと向かうべく、西館を目指すのであった。




