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ゲーム世界へ転生したモブ♂、死ぬ未来を回避するために美少女(偽)になる  作者: ゼクスユイ


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第70話 オーバーブースト

 北館の中へ突入したエミたちに立ちふさがるのは洗脳された生徒たち。同じ顔の生徒がいる辺り、双子でもなければ何人かは影山が作った影人形なのだろう。ここまで戦ってきた感じでは、洗脳された生徒は単純な攻撃しかできず、スタンピードの激戦を潜り抜けてきた3人の敵ではなかった。つまるところ、烏合の衆を率いているに過ぎない。


『にひひ、よく来たね。肝心のエクステラは来てないようだけど、1wave目は雑魚ってのはゲームのお約束だからね。君たちの相手くらいしてあげるよ』


「相変わらずゲーム脳のようね、影山アキラ。でも、ゲームのようにうまくいくかしら」


『ひひひ、エクステラを真似ても無駄だよ。人形越しとはいえ、君から感じられる魔力量は桁違いに低い。本物が実力を隠すために抑えているとしてもね』


 影山からの放送に気を取られているのを好機と見たシャドウがにゅるりと現れて、背後からエミの背中を突き刺そうとするも、カキンと何かに阻まれる。


「これはビーズの鎖帷子……!?」


「奇襲を防ぐ手段が無いなら、それ相応の対策はするのは当然。先手は譲ったのだから、覚悟はできているでしょうね」


「お主、まさか……」


 振り返ったエミからわずかに漏れるプレッシャーを感じたのか、思考よりも先に忍者刀を手放し、飛び退くシャドウ。反射に近い反応をしたせいか、【浸食】の影響を受けずにすんだ。


「直接触れなければ問題の無いこと。朧手裏剣!」


 エミに向かって飛来する身の丈はありそうな巨大な手裏剣。下手に衝撃を与えれば内部に仕込んだクナイが四方八方に飛び出してくる。仮にプロテクションを張ったとしても、自分たちは無事でも周りにいる生徒たちが無事ではいられない。洗脳された生徒たちは敵ではあるが、同時に人質でもあるのだ。


(やむを得ん。飛散したクナイが変なところに当たらないことを祈るしかない)


 初級のプロテクションを張ろうとしたとき、エミの背後から飛び出てきた赤い炎が手裏剣を跡形も無く燃やし尽くす。これほどの火力、出せるとしたらただ一人しかいない。


「貴方たち、ここで何をしていますの!」


「にひひ、生徒会長さんか。ちょうど良いところに来たね。EX-05出番だよ。シャドウゲート」


「「「「はいは~い」」」」


 影山の足元から4人のツバキが現れると同時に廊下を埋め尽くさんとするばかりの水流を放つ。壁と呼ぶべき水の奔流に向けて、カレンが足元から発生させた炎を差し向ける。火と水の激突。答えは見るまでも無く明らかだと影山が気味悪く笑う。


「その程度の相性の差、覆せぬのであればSランクを名乗りませんわ」


 カレンが手にしている扇子を振り下ろすと、水が一瞬にして霧散する。それどころか、術者であるツバキや影山を飲み込み、消し去っていく。


「この手ごたえ、偽物ですわね」


 カレンが合流したことで不利な状況に陥ったシャドウがすぐさま影に潜ってどこかへと去っていく。恐らくは影山本体がいるところだろうが、追跡は不可能だ。


「あとはこの者たちへの対処ですわね。浄化の炎で解き放ってあげますわ」


 今度は青い炎が洗脳された生徒たちを包み込んでいくと、糸が切れたかのようにバタリと倒れる。しかも、炎で焼かれたはずにも関わらず、着ていた制服には焦げ跡の一つもない。洗脳(デバフ)だけを焼いたといった感じだ。そして、未だに立っている者は偽物と判断したカレンは再び赤い炎で焼却していく。


「さてと、どうして転校した方や他校の方が我が校の制服を着て、ここにいるのか教えていただけるかしら?」


「いや~、これには深いわけが……」


「ごまかしは無用!私は短気でしてよ」


「は、はい!」


 カレンに睨まれたみみみがこれまでの経緯――ツバキが洗脳系異能を持つEX-05に操られていること、エクステラからこの学院内に潜伏していることを聞き、友達と一緒に潜入したことを話していく。


「事情は分かりました。本来ならば、しかるべきところに貴方たちを出さなければなりませんが、緊急事態ゆえに私が要請しておいたことにしておきましょう。不審者の根城にされていたこちらの落ち度もありますし」


「さすが生徒会長、話わかる~」


「で・す・が!元とはいえ、学院一の問題児であった貴女は反省しなさい!」


「は~い」


「本当にわかっていますの!在校している間、週3くらいこうして説教した覚えがありますわよ!」


「はいはい、口喧嘩はそこまでして。生徒会長さんも私たちと一緒に管理室に向かうんでしょう」


「言うまでもありませんわ。本校の問題は本校の者で片づけるもの。他校の人間に任されっぱなしでは外聞に傷が付きますわ」


「話は纏まったようね。急ぎましょう」


「……見知らぬ貴女に指図されたくありませんわ」


「それもそうね。でも、社会に出たらそう言っていられる場合じゃないでしょう。これも社会勉強の一つよ」


「……一理ありますわね」


 釈然としないような様子でエミたちと一緒に付いてくるカレン。青い炎と赤い炎を使い分けながら、北館の中を歩いているとき、アスカが疑問に思っていたことを話しだす。


「それにしても、洗脳できるのは2、3人だけって話だったでしょう。なんでこんなにも洗脳された人がいっぱいいるのよ」


「簡単な話よ。ツバキの【複製】でEX-05をコピー。影山がツバキの影人形を量産し、コピー品を持たせれば洗脳できる影人形の大量生産が可能になるわ」


「うげ、カードゲームじゃないんだからそんなシナジー、ナーフしなさいよ」


「これまでの様子を見るに異能による複製は劣化コピー。もしくは数を増やしすぎたことで、簡単な命令しか下せないデメリットが生まれているかもしれないわ」


「単に洗脳能力の限界って線もあるけど、それでもヤバいわよ。下手すれば私たちも洗脳されるってことでしょう」


「有り得る話ね。とにかく自分を下だと思うような真似はしないこと」


「ですが、これだけの人数……誰にも気づかれずに洗脳することができますの?」


「例えば、夜道に人通りの無いところで教員の一人を洗脳したとするわ。その教員が陸上部のコーチなら、指導している生徒は洗脳された教員よりも立場上『下』だと思っているでしょう。つまり、この時点で陸上部全員がEX-05の洗脳の対象内に入る。あとは親しい間柄とはいえ、先輩後輩の上下関係もあるだろうし、洗脳の連鎖が起これば誰にも気づかれずに多くの人を洗脳することができる」


「うわ~、厄介。ってことは紫苑ちゃんが洗脳されなかったのって、自宅通いの帰宅部だったからか~」


「さすがに網目を掻い潜るような生徒一人一人に洗脳をかけるのは時間が足りなくなるわ。それにコピー品の数も限りがある。それなら教員や上級生を狙ったほうが戦力の増強になる……地下への扉はここね。エクス、解除お願い」


【了解しました】


 ステラが【浸食】を使い、カードリーダーの制御システムに侵入し、クラックすることでその扉を開けさせる。4人が扉の中へと入り、後続の追撃を防ぐために再度扉が固く閉じられる。ドンドンと音が鳴るも、操られた生徒たちの攻撃では壊れる気配はない。


「帰る時が大変そうだね」


「……この先にサクラがいるようだから、彼女に洗脳を解いてもらえば良いわ」


「どうしてわかるの?」


「私は昨日、土産を渡すときに触れていたでしょう。だから、私の異能を使えば……」


 手の中で握っていたビーズがプルプルと震え、何かに引っ張られるかのように地下へと向かっていく。つまり、彼女がこの階にいる何よりの証拠だ。そのビーズが向かう先は目的の警備室。その警備室の前でプランAとエミが指示し、そっと扉を開けると同時にみみみの爆弾が中に入り込み、爆発させようとするも不発。

 予定通りの結果に終わったところで、アスカが先行して中に飛び込み、その拳をサクラに叩き込もうとするも、とっさに鞘で防がれてしまう。だが、手にしていた眼帯は地面に落ち、それを見たアスカがすかさず拾い上げる。


(原作設定どおりなら、眼帯を掛けない限り異能無効状態は続き、連続稼働時間は最大10分まで。そして今、異能を解除する方法を失った以上、インターバルまでの10分間、シャドウの横やりの可能性は残るが、影山やEX-05の増援はない。さらにこちらのマッチアップは無効効果が効かない身体ゴリラのアスカ。最良のカードは切らせてもらった。後は相手がどう出るかだ)


「お、お前たち、ここの機材を壊すつもり!?」


「(あまり壊す気はないけど)そのつもりよ!」


 内心はともかく建前的には周りを気にしなくても良いアスカと周りの機材を守りながら戦わざるを得ないサクラ。動きのキレがまるで違う。だが、サクラは完全防御の鎧を着ているため、アスカが押しているように見えても、実際のところはノーダメージに近い。奇襲による混乱と動揺も徐々に収まり、意を決して鞘から剣を抜く。


「我が妖刀の養分となれ!」


 アスカはサクラの纏っているオーラ的なものに変化を感じたのか、直感的に回避に専念する。畳みかけるような連撃。守るべき機材を盾にしようとアスカがコンソールパネルの近くに立つも、それを気にしないかのように斬撃が振るわれ、スパッと機械を両断。スパークが発生する。


「ちょっと、あんたがそれを守る気あるの!?」


「ヒャッハー、機械なんて後で修理すれば良いだけ!今は死合いを楽しもうぞ!」


「話には聞いたけど、頭のネジぶっ壊れているわね」


 こうなればこちらも周りの機材を気にする必要はないとサクラと正面切ってのインファイトに持ち込む。だが、相手は刀、こちらは拳。リーチが違う。攻撃を届かせるには相手の攻撃を掻い潜る必要がある。


「エアロブースト!」


 風の力を足に込めて、一瞬だけの超加速。振るった左拳がサクラの胸元を捕らえるも、絶対防御の鎧に阻まれる。ならばとパンチのラッシュを叩きこむも通用しない。それどころか、攻撃に専念している隙を突かれ、ケリを入れられてしまい、詰めた距離を離されてしまう。


(アスカの馬鹿力でも通用しないのか……)


【あたりまえです。EX-04の完全防御はナパーム弾の直撃でも耐えますよ。いくら美少女(アスカ)だとしても……】


 とはいえ、こちらからすることはほぼ無い。今までやられたことのうっ憤を晴らすかのように切り付けていくサクラに対し、防戦に回って隙を伺うアスカ。

 異能の制限時間が刻々と迫る中、その均衡を崩したのはサクラの縮地!一瞬にして姿が消え、背後に回られたアスカに凶刃が迫る。サクラの姿が消えたことに驚いたことで反応が遅れ、アスカの回避が間に合わない。鮮血が舞う。


「アスカ!」


 エミが思わず叫ぶ。深夜の戦いでビーズによる防刃が成功していたことから、事前に防刃ベストを着込みさえすれば、少なくとも千日手には持ち込めると高を括っていた。だが、その予想は外れ、相手は対抗できる手段を用意していたのだ。自分のミスに悔やみながらも、【接続】による最終防御を破られた今、アスカを見守ることしかできなかった。


「だい、じょうぶよ。これくらい……」


「ビーズの鎧を着こんでいたようだが、対エクステラ用に選んだ我が妖刀は鋼鉄でさえ豆腐のように切れる故、その程度の小細工は通用せん」


「……さすがは副会長、Sランク級は伊達じゃないわね」


「お主も強いが、良くてAランク止まり。AとSには超えられぬ壁があるのだ。我の狙いはエクステラの首1つ。今なら見逃しても良いが、まだ反抗するようなら、お主の首も斬り落とそうぞ」


「そうね……まだ練習中だったけど、使わないわけにはいかないか」


 アスカは背中の痛みをこらえながら、魔力を練り始める。魔法は使えないと聞いていたが、それは他者に対してのもの。実際、自己バフのエアロブーストは有効であったのが何よりの証拠だ。だったら、練習中のコレは自分への攻撃だから使えるはずだと確信していた。


「いくわよ、オーバーブースト!」


 まばゆいばかりの閃光が辺りを包み込み、目をくらませる。そして、光が収まるとそこにはバチバチと電撃を纏ったアスカが仁王立ちしていた。

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