第68話 精神崩壊
月明かりが照らす中、赤黒い刃と白銀の刃が交わる。数度打ち合ったと思いきや、互いに距離を取り、再度勢いをつけて撃ち込む。
「その太刀筋、EX-00。お主、100年前と同じく幼子を乗っ取っているな」
【はあ? あの子も今の子も同意の上ですけどお?】
(不意打ちかまそうとした奴がよく言う)
【言葉の綾じゃないですか。今は私が戦っているんですし、そこは見逃すところでは?】
(それもそうだな。後は作戦通りにだ)
今回ばかりは、信二は自身の戦闘能力よりもステラの能力に賭けた方が勝算があると考え、自身の身をステラに預けている。だが、100年のブランクがあるとはいえ、百戦錬磨のステラでさえ近接特化のサクラの前には後退りせざるを得ないくらいには圧されている。
【相変わらず厄介ですね、その完全防御は!】
「儂も年かのう。お主の【浸食】と【切断】を防ぐので一苦労するわい」
「フハハハハハ、我らの斬撃を捌ける者がいるとは!楽しいなあ、エクステラァッ!」
【昼間とずいぶんキャラが違いますね!ハンドル握ったら人が変わるタイプですか!今時、アニメでもそんな人いませんよ】
「刀を抜いたときじゃが?」
【タイミングを聞いているんじゃありません!ツッコミ、ツッコミプリーズ!】
わんわんとステラが泣き言を言いながらも、ヤクザキックをかまし、意表を突かれたサクラを吹き飛ばすもダメージを受けている様子はない。
「その程度の攻撃は効かぬぞ」
「知っているわ、だからこうするの」
人格を信二に交代したエクステラが地中に埋めておいたビーズを接続させ、即席の檻を一瞬にして形成する。サクラがビーズの檻を斬っても、斬られたビーズ同士で再接続し、ビーズの格子が復活する。
「この暗闇の浜辺でビーズを見つけることは出来ない。そして、貴女たちの弱点の一つ。いくら防御に優れていたとしても、範囲攻撃を持たない貴女にこの檻を吹き飛ばすことは不可能よ。おとなしく刀を納めなさい」
「うむ……先ほどまでとは雰囲気が違う。にわかには信じがたいが、本当にEX-00の手綱を握っておるのか? 主殿、妹君のことは気がかりなのはわかるが、勝負に負けたとなれば直ちに何かされるということは――」
「フハハハハ、何を言っている。我はまだ負けておらんぞ!我が左目に宿りし、力を開放する。領域解放!これから先の戦い、魔法と異能は許可しない!」
サクラが眼帯を外すと同時に大気が揺れる。それに伴い、接続されていたはずのビーズがパラパラと落ちていく。まるで、ビーズにかかっていた【接続】が失われたかのように。それだけではない。エクステラが握っていたEX-08の魔力刃も電源が落ちたかのように消える。
「自身にかかる魔法と異能以外封じておいた。姑息な手など使わず、正々堂々、死合いを楽しもうじゃないか!」
「はあ? 異能も魔法も封じるとか反則にもほどがあるんですけど!?」
「【浸食】に対抗しなくても良い分、防御と補助に回せるわい。エクステラに策はあるのかのう?」
「自分の手を明かすような真似はしないわよ」
エクステラがライフル銃に変更し、滑走で距離をとりながら、狙い撃つもサクラがその刃で弾丸を払いのける。刃こぼれ位しそうだが、EX-04の防御能力が刃にも適用され、この世で最も硬い刃となっているため、それを狙うのは無意味。エクステラの膨大な魔力も身体強化くらいにしか回せず、信二が得意とする搦め手を封じられたこの状況下において、間違いなくエクステラは狩られる側であった。
「逃げ回ってばかりでは勝てぬぞ!逃げるな、我と戦え!」
サクラが身体強化のギアを一つ上げ、エクステラに肉薄する。振りかざされた狂刃を払いのけようとライフル銃をを振るうが、それを見越したかのように刃の軌道が突如変わり、ライフル銃の銃身が斬られる。斬られたライフルを投げ捨て、体勢を整えようとするも、続けての斬撃が襲い、エクステラの腹部に傷を負わせる。
「どうやら策はなさそうじゃのう」
「これで終いだアアアアア!!」
サクラがさらにギアを入れ、瞬間移動でもしているかのようにエクステラの背後に回る。死角。見えなければ反応もできない。よしんば、殺気で気配を感じ取ったとしても、エクステラの速度ではサクラの斬撃を躱すことができない。エクステラの首筋を狙った死を告げる一閃は、その肌を斬り付ける数mm手前でピタリと止まる。
「な、に……」
「見る必要も無いわ。貴女たちは私の策にかかったもの」
その刃をつなぎとめているのはビーズの鎖。サクラが無力化したはずのビーズが自身の刀に絡みつき、繋ぎとめているのだ。
「私の異能は発動している。許可は出していない!なのに……!?」
「一体、何をしたのだ!?」
「答える義理はあるのかしら」
信二はこれまでの戦いで、自身の【接続】やリカの【回復】のような『自身が触れたもの』を対象とする異能、リョウの【鋼鉄】のように『自身を対象とする』異能を見てきた。そして、それらの異能は自身のDNAを衣服などに組み込めば拡張できることも虎西の強化合宿のときにわかっている。つまり、異能側において自分自身か否かの判定ではDNAによって決まっていると言えよう。
ならば、自身の血で濡れたビーズを使えば、そのビーズは自分自身と同じ判定となり、自分が触れたものとしても扱うため、サクラの異能封じの魔眼の影響下でも【接続】を使うことは可能だ。
(最初のビーズの檻を普通のビーズを使うことで、ビーズによる拘束は魔眼で封じることができると先入観を植え付けることができた。この策ができるか、確認のため数個の血染めビーズを使わせてもらったが、この暗がりなら相手が識別することは不可能だろう。あとはステラより弱い俺が戦うことで返り血を浴びてもらうだけだ)
【ひやっとしましたけどね!あのまま首が飛ぶかと!】
(あれだけやかましかったら、発動タイミングは目をつぶってもわかるさ)
最後の仕上げと言わんばかりにビーズの鎖を引っ張り、サクラの刀を取り上げる。いかに本体が硬くても、獲物が無ければ勝つことは出来ない。ましてや、自身の異能の影響で肉体強化しかできない状況なら尚更である。
「刀は奪った。これで貴方に万に一つの逆転の目はないわ。これで少しは頭が冷めたかしら」
「わ、私は負けるわけには……」
「まともに話ができそうね。とりあえず、貴女たちの身に何があったのか話してくれない?」
「それならば、儂が話そう。なーに、この老いぼれが勝手に話したこと。すべての責任は儂が持つ」
「へえ~、お姉ちゃんたち。負けたんだ」
「……つ、ツバキ」
暗闇から現れたのは闇落ちでもしているかのような黒い衣装を身に纏った魔法少女コスプレのツバキ。手にしたロッドをブラブラと退屈そうに振っている。
「早くその糞異能解除してくれな~い? 戦えないじゃない」
「相変わらずその性格がドブなところ、変わっていませんね、EX-05」
「あら、EX-00じゃない。100年前の子と言い、良い身体を手に入れているじゃない。その身体、寄越しなさいよ」
「100年前にも言いましたが、答えはNOです!」
「言の葉を紡がなくてもおおよその事情は分かったわ。それで、EX-05の指示に従うつもり? たとえ、異能を解除したとしても今の貴女は無力。2vs1にはならないわ。むしろ、私が異能と魔法が使える分、有利になれる」
「はあ? こんな奴の言うことを聞く必要ないわ。お姉ちゃん、私をまた見捨てるの?」
「この私が増援を読んでいないとでも?」
「わ、私は……」
良心の呵責と二人からのプレッシャーにひゅーひゅーと過呼吸に陥るサクラ。冷静に判断すれば、自分が戦力にならない以上、さっさと異能を解除してEX-05に戦わせればいい。だが、先ほどの戦い、ビーズの件を知らないサクラからすればエクステラがサクラの実力を測るためにわざと手を抜いて檻を解除。評価を下したと同時に刀を奪ったようにも見える。その証拠に檻を解除した後は明らかにエクステラの動きは悪くなっていた。
格の差を見せつけられたサクラにとって、異能を解除することは死地に飛び込むことに等しい。だが、EX-05の指示に従わなければ、ツバキの命が危うくなる。いや、むしろ、エクステラと戦う以上、ツバキの身がさらに危うくなるのではないかとさえ思えてくる。
「ひゅーひゅーひゅ…………」
「ああ、また壊れちゃった。治すのめんどくさいのよねっ!」
EX-05がうずくまっていたサクラを蹴り飛ばす。EX-04を着込んでいるため、肉体へのダメージは無い。だが、精神的なダメージは別だ。すでにサクラの心はぽっきりと折れていた。
「お姉ちゃんってほ~んとに役立たずだよね」
「あ……う…………」
「ってことで、手打ちにしない?」
「良いわよ。こちらの目的は達したもの」
「へ~、アンタ、話が分かるじゃん。ほんとEX-00が使うのがもったいない身体ね~」
「誉め言葉として受け取っておくわ。あと、どうせ近くに潜伏しているんでしょう、シャドウ」
「気づかれていたでござるか」
「当たり前よ」
エクステラがさも当然のように言うが、内心では冷や汗を流している。魔法主体のEX-05がサクラの手によって無力化されている戦場にノコノコ出てくるはずがない。護衛の人間が誰かいるはずだが、探査魔法には引っかからない。それは裏返せば、探査魔法に引っかからないシャドウが近くにいるという推理が成り立つ。
もし、あの場でサクラが異能を解除すれば、エクステラは2vs1の状況に持ち込まれ、圧倒的に不利な状況に追い込まれていたのだ。
(だから、ハッタリでプレッシャーをかけたのだが、色々とまずいことになった)
まさかサクラの精神があそこまで壊れていたとは想定していなかった。下手すれば、EX-05の厄介な異能の発動条件を満たす手伝いをしたかもしれない。一刻も早く救わなければならない状況。だが、今の状況では無理やりひっぺ返すこともできない。信二は壊れかけている彼女がまだ耐えてくれることを信じて、矛を収めるしかなかった。
「ってことだから、EX-03、荷物持ちよろしくね~」
「やれやれ、人使いが荒いでござるな」
「今度は私たちが歓迎してあげるわ。決戦の地たる南雀女学院でね」
「その招待、受けて立つわ」
3人げ闇の中へと消え去り、エクステラだけが取り残され、どこからか騒ぎを聞きつけたのか、鳴り響くパトカーのサイレンがこちらに近づいてくる。事情を説明する必要はないとエクステラも痕跡を残さぬよう浜辺に散らばったビーズを【接続】で回収した後、転移するのであった。




