第62話 スタンピード part3
メタルクロノザウルスを倒して、掃討戦に入ったことを確認したエクステラは森林エリアに向かっていた。クロノサウルス以上の海洋生物はそうは居ない上に、残るメタルザウルスはリカの回復で復帰した社会人や学生に任せればいい。それよりも気がかりなのは空から奇襲を仕掛けたメタルザウルスの方だった。
【そこまで急ぐ必要あります? 向こうには自衛隊の皆さんにカケルさん、遠距離転移で合流した冥土隊のみなさんがいますし……】
(この同時攻撃は連絡内容からも、六花が上空戦力を発見したことに端を発している)
【あの子は戦闘力自体は皆無ですけど、探知能力は随一。上空であろうと、ステルス機能があろうと見破るでしょうね】
(だとすれば、この同時攻撃は本来、奴らが考えた策ではないはず)
【というと?】
エクステラはステラにメタルザウルスの本来の戦略を説明していく。
①ゲートとは別のエリアに少数の戦力を目立つように配置これを本命の部隊だと誤認すればなお良し。
②海洋の大部隊でゲートがあるエリアに侵攻。
①で陽動部隊を見破られても、この②が本命だと思わせる効果がある。人間側は大半の戦力を海岸エリアに投入する可能性が高い。
③守りが薄くなったゲートのあるエリアに空中から奇襲、制圧。
(ゲートが海岸エリアにあるなら航空戦力を別のエリアに配置すれば良い。どちらにしても、守りが薄くなったゲートエリアに大群の奇襲を仕掛けられるはずだった)
【なるほど。それをEX-06がご破算してしまったと。ん~これは痛快ですね】
(そいつはどうかな)
【ひょ?】
(アスカも言っていただろう。奴らは俺並みに性格が悪いと。もし、俺が相手の立場なら、うまくいかなかった場合のリカバリー手段も講じているはずだ)
【それがこの同時攻撃では?】
(さてな。だが、相手がまだ切り札を隠している可能性がある以上、こちらも切り札のプランEを切るわけにはいかない。こちらの策に穴がある以上、向こうの切り札で対応される可能性が高い。そうなれば、こちらの最後の策は一か八かでN兵器の飽和攻撃で虎西地区、いや学園都市そのものをなかったことにするしかないだろうからな)
そうなれば避難の済んでいない他の地区にどれだけの被害が出るか分からない。下手すれば1億2000万人の命のために学園都市1000万人の犠牲を強いる羽目になる。とはいえ、破れかぶれに近い同時攻撃を行う辺り、向こうの手札も少ないはず。あとは互いの切り札を先に出すか、出させるかの勝負になっている。ならば、こちらから討って出るの最良の策だとエクステラは広い大地を滑走しながら、森林エリアへと向かうのであった。
(あと一手、いや二手足りないが、そこはなるようにしかならないか)
その頃、現地ではゲートを背にしながら自衛隊たちが応戦していた。だが、その一方で冥土隊は休憩なしの連戦。さしもの彼女たちでも肩で息をするくらいには疲労を隠せずにはいられなかった。
「まだおるんかい。両手両足使っても足りんくらいには斬ったんやけどな」
「リーダーが弱音を吐くのは珍しいですね。同じSランクの伏見ダンジョン以来ですか」
「あっちはギミック解かん限り妖怪の無限湧きしとったけど、質はこっちの方がダンチやろがい!」
口喧嘩しつつも、メタルブラキオザウルスを足関節を破壊し、巨体ゆえに動きを封じる。一部の恐竜は口からビームや機銃を吐くが、避けること自体は容易。カウンター気味に炎を口の中に入れて内部の機械を破壊する。
「いくら装甲が硬かろうと内部は柔いのが救いやな」
「それができるのが何人いるかって話ですよ」
ステゴザウルスが飛ばしてきたカッターを打ち落としながらぼやく。自衛隊も複数人掛かりで1体1体着実に倒しているものの、数は多く、押し返すことができない。拮抗状態。だが、疲れの知らない機械と人間ではスタミナの差が大きく、ついにレッドの剣から炎が消える。魔力切れだ。
「師匠は休んでください。僕がその分、頑張ります」
「アホ抜かせ!今でもいっぱいいっぱいやろ!」
ポーションを一気に飲み干し、魔力を補給するも出てきた炎は弱弱しい。相性の悪い相手、極限まで高めた集中力、長時間の戦闘は彼女のスタミナを削り切ったのだ。戦前復帰しようにも時間がかかる。それはカケルの目からも明らかであった。
「でも、僕がやるしかないんだ」
心の底から覚悟を決めたとき、握っていたひかりちゃんの光の刃が青白く、強く発光する。まるで、地上に星が生まれたかのように辺り一面を光が覆いつくす。カケルがゆっくりと目を開けると、白い空間の中にうずくまるひかりちゃんの姿があった。
「ひかりちゃん、これは一体……」
「駄目。でも、この力を使ったら、あの時みたいに……怖い……」
「あの時って……」
亀北で会った魔法少女のことを思い出す。彼女もまたひかりちゃん、EX-01を持っていた。過去に何があったかは分からないが、その時に記憶喪失になるほどのトラウマになるようなことがあったかもしれない。怯える彼女をカケルはあやすかのようにそっと抱きしめる。
「お、にいちゃん?」
「大丈夫。あの魔法少女と比べたら、まだ未熟かもしれないけど、僕がいる。一緒に戦おう」
「…………はい」
光が収まると、そこには髪が青白く燃え、手には二振りの光の刃を持つ剣を持つカケルの姿があった。輪真理がカケルの変身に戸惑う中、身体中からバチバチと青白いスパークを放ちながら、一歩踏み出すだけで姿が消え、まるで【加速】が常時かかっているかの速度でメタルステゴザウルスと距離を詰める。
「秘剣・乱舞の太刀!」
無数に分裂したカケルがステゴザウルスの背中のカッターごと切り裂いていく。今まで歯が立たなかったはずの装甲がまるでバターでも斬っているかのような感覚。これが【切断】の本来の実力であるとすれば、ひかりちゃんが恐ろしく感じるのも納得する。その力を振るうカケル自身さえ。
「だけど、怖がっている場合じゃない。ひかりちゃん、行くよ」
「はい!」
左手に持っていた光の刀身を消し、その柄を右手の剣の柄と合体させると、2本の剣の力が一本に集約されたかのように強く発光する。
「星まで届け、秘剣・星薙の太刀!」
カケルが剣を振るうと同時に刀身が伸び、メタルザウルスたちを一度に薙ぎ払う。今まで苦労してきた敵が次から次へと爆散していく様子を見て、自衛隊や探索者たちも熱が入り、前線を押し上げていく。
一方で、上空にいたメタルザウルスの指揮官機は人間たちの奮戦にイラついていた。人数では劣るとはいえ、スペックでは遥かに上回る自分たちが押し切れていないのだ。それどころか、海岸エリアでは自分と同格の機体がすでに敗北し、大部隊を投入した森林エリアでもたった一人の人間の活躍で劣勢を強いられている。
(軟弱な下等生物に我が軍がここまでしてやられるとは……あの女に騙されたか?)
となれば、自身が出るしかないと、森林エリアに向かって降下し始めるのであった。
イケイケモードの探索者の頭上から、1機の大型恐竜が飛来する。その大きさはメタルクロノザウルスと同じく40m級。一見すれば、メタルT-REXとでも呼ぶべき相手だが、腕が肥大化し、背中にはプテラノドンのような翼が生えている異質のモンスターがカケルに向けて腕を飛ばし、手の甲からビームを照射していく。
「僕を狙っている? それなら!」
メタルT-REXが放った有線式クローアームを躱しながら、カケルが距離を詰め、叩き斬ろうとするも軽く傷つくだけだ。
「硬い!?」
周りのメタルザウルスとは比べ物にならない強度。その傷もたちまち治されるのを見ても、文字通りレベルが違う。メタルT-REXの胸の装甲が開き、ミサイルが2発発射される。
「飛翔斬!」
飛ぶ斬撃で叩き斬っても爆風を喰らい、吹き飛ばされるカケル。本来なら、至近距離で喰らったメタルT-REXもダメージを受けるはずだが、強固なボディと回復力で実質ノーダメージ。さらに頭部バルカンで牽制を仕掛け、先ほどのように距離を詰められないようにしてくる。
「このままだと……」
手にしている光の剣の輝きも最初の頃よりかは弱くなっている。魔力が尽きかけている証拠だ。敗北の二文字が脳裏にちらついたとき、黒い弾丸がメタルT-REXに当たる。
(ん? 視界にノイズが……)
計器の不調が一瞬起こるも、自慢の回復力ですぐさま元に戻る。だが、その原因を見ようと振り向いたとき、メイド服姿のエクステラが近づいてくる。
「その様子だとEX-01の力、少しは使いこなしているみたいね。手助けは余計なお世話だったかしら」
「そんなことないよ。エクステラ、僕と一緒に戦ってくれないかな」
「良いわよ。その様子だと魔力切れ近そうだし、魔力供給してあげるわ」
剣の輝きが元に、いや、それ以上に輝き始め、ここが正念場だと力が入る。
「私がひきつけるわ、スナイプモードから連射モードに移行」
持っていたスナイパーライフルがバルカンに変形し、滑走しながらメタルT-REXに銃弾の雨嵐を浴びさせていく。チカチカする視界をうざく思いながら、メタルT-REXがクローアームと頭部バルカンでエクステラに集中砲火を浴びさせていく。
(特訓のことを思えば、この程度の弾幕、どうにでもなる)
だが、標準の定まらない集中砲火など今のエクステラを捕らえることは出来ない。エクステラに気を取られている間に死角に入り込んだカケルが短剣に変形させたひかりちゃんでメタルT-REXに一太刀を浴びせる。
「エクステラ、今だ!」
「分かっているわ」
切り裂かれた装甲にエクステラが銃弾を立て続けに撃ち込み、傷口を広げ、内部から火を噴かせる。こうなれば、カケルの方を倒そうとするも、今度はエクステラが爆発個所に向けて、銃弾を撃ち込まれ続けられ、機能の一部が急激に低下していく。これに焦ったメタルT-REXがエクステラに攻撃を変更すれば、今度はカケルに新しい傷をつけられ、エクステラにえぐり取られる。
(馬鹿な、この吾輩が軟弱な生き物ごときに!?)
焦りの色を隠せないメタルT-REX。だが、二人の連携攻撃は着実にダメージを蓄積させていく。そして、メタルT-REXが膝をついたとき、カケルが通常サイズの刀身に戻す。
「これで終わりだ。秘剣・星霜の太刀!」
「グオオオオオオオオオ!!」
エクステラの弾丸を立て続けに食らって脆弱になったメタルT-REXの装甲はカケルの太刀を防ぎきることは出来ず、断末魔を上げながら斬られていく。そして、トドメと言わんばかりにエクステラの弾丸が裂けた胸部に炸裂、爆発する。
「もう……動けないよ」
元の姿に戻ったカケルだが、魔力はおろか体力も残っていない。指一本、動かすのでさえ重労働に思えてくるほどだ。
「どうやら覚醒したようね」
「覚醒?」
「ええ。100年前の事件でEX-01、ひかりちゃんには厳重なリミッターが掛けられている。記憶喪失なのもその影響ね」
「リミッター……」
「でも、それは今日まで。これからはカケル君が必要だと思った時に使いなさい。ただし、その力に溺れるようなら、私が貴方を討つわ」
確かにあの力はすさまじかった。もし、初めの一太刀に恐怖を抱かず、高揚感や万能感を抱いていたら、エクステラの言うように力に溺れていたかもしれない。だけど、現実は違う。
「……あの恐怖感は忘れないようにします」
「それなら良いわ。勇気は恐怖を乗り越えるもの。恐怖を抱かないのは勇気じゃなくて無謀。そこを履き違えないようにね」
「はい!」
「そこ!ボス倒したんなら、馬鹿弟子背負ってさっさと手伝わんかい!」
前線に復帰したレッドが二人に怒鳴り散らす。苦笑しながら二人が戻っていく姿を吹き飛ばされたメタルT-REXの頭部が見つめ、眼が妖しく光るのであった。




