第59話 ダンジョン崩壊part4
「プテラノドン、攻撃してこないわね」
「おそらくだが、各地にいるメタルザウルスを空輸するために森から離れたせいで、俺たちの居場所を見失い、包囲網を敷く羽目になったんだろう」
「策士策に溺れるって奴だね」
「ああ。おかげでせっかく集めた戦力も分散し、1、2体を素早く倒すだけで振り切ることは可能だ」
上空にいるプテラノドンは例外だがなと付け加え、森の中を駆けていく。だが、仲間をむやみに不安がらせないように話さなかったことがある。畳みかけるような連携、見逃した場所を中心とする包囲網を敷くと言った高い知性を持つモンスターだ。そんな相手がメタルラプトルと同じヘマをするようなモンスターを集めるだろうか。
「進行方向に何かいます。大きさは6mほど」
「中型恐竜か。どのみち戦いは避けられん。正面から叩くぞ」
信二たちが走り出していくと、水が落ちていく音がだんだんと大きくなっていく。その先には巨大な滝があり、もし、落ちればひとたまりも無いだろう。そして、岸の向こう側には立ちふさがるように重厚な鎧を纏った恐竜がいた。
「大きなアルマジロ?」
「違う、あれはメタルエドモントニアだ!肩のスパイクは避雷針にもなっているせいで、遠距離からの電撃は無効になる。気を付けろ」
「なぐれば問題無いってことでしょう。リョウ、援護任せた」
「おう!」
リョウを盾にアスカたちは飛び出していく。川の流れは速い。足を取られれば、瞬く間に滝つぼに落ちてしまうだろう。踏ん張りながら進む彼らに対し、エドモントニアがトゲに帯電させていく。
(あれは電撃攻撃が無効になった時に起こる特殊行動!?)
今、アスカたちは水で濡れている。川に向かって電撃攻撃を放てばひとたまりも無い。倒されなくとも、体がしびれれば、滝から為すすべなく落ちる。なぜ、特殊行動をしたのかを考える暇も無く、信二はエドモントニアに向けて引き金を引くが、鎧に弾かれた銃弾が川の中へと落ちていく。
「間に合え!」
メタルラプトルに対して行った時と同様、エドモントニアを空中に向かった弾丸に引き寄せて、滝に落とそうとする。だが、エドモントニアが帯電をやめて、力強く踏ん張るだけで【接続】が切れてしまう。
(パワー差があると効かんということか。だが――)
帯電行動自体はキャンセルしている。再び電撃を仕掛けようとする前にアスカたちが向こう岸に到着し、電撃を纏った拳で殴り始める。エドモントニアにダメージが蓄積される中、上空から雷撃がエドモントニアに襲い掛かる。それを受けたエドモントニアが雷を吸収、帯電状態になる。
「あの状態ではこちらの電撃は通用しない。逃げるしかあるまい」
「くそ、運が悪すぎるぜ」
「いや、違う。恐らくは……」
信二が頭上で飛び回っているプテラノドンを仰ぎ見る。遠くからでははっきりとは見えないが、その背中にはトゲのついた恐竜を乗せているのが見える。
「メタルギガントスピノザウルス……電撃攻撃を仕掛けられる恐竜を乗せていたか」
「用意周到にも程があるわ」
「信二並みに性格悪いんじゃねえの」
「誉め言葉だと受け取っておくぞ!」
「打ち落とせないの?」
「……俺の武器の射程外だ。まず当たらん。だが、それは奴らも同じ。巨体であるエドモントニアや道を崩すくらいならともかく、俺たちには牽制程度の攻撃しかしてこなかったのが何よりの証拠だ」
前方と頭上から放電攻撃を仕掛けてくるメタルザウルスたち。みみみが爆風で弾き飛ばそうとしても、それを貫いてくる雷の矢。だからと言って足を止めれば包囲網が完成し、逃げ場を失ってしまう。前に進むも地獄、立ち止まるも地獄。後に退いても問題を先送りにするだけで解決しない。
「(このままでは全滅は免れん。となれば……分が悪すぎる賭けだが、やるしかないか) アスカ、後は頼んだぞ」
「それ、どういう……」
「策はある。全員、川から離れろ!」
命令を聞いた信二以外のメンバーが森の中へと逃げ込んでいくのとは逆に信二は川底に発砲しながら川の中へと突っ込む。それを見た陸地にいた恐竜たちが離れていく仲間よりも、居残った信二を倒そうと振り向く。
「これが生き残るための逃走経路だ!」
滝から飛び降りた信二。何らかの方法で逃げる手段を講じているのだろうと思ったのかプテラノドンがまずは残った信二を確実に始末しようと、近寄ってくる。
(そうだ。メタルラプトル3匹を纏めて倒したのは俺だ。二手に分かれたグループよりも脅威に見えてもおかしくはない。そして、周りにいないこの状況……最大の脅威を排除しようとするのはおかしな行動ではない。賢いからこそ、この手が通用する。【接続】発動)
自身を囮にし、川底に沈んだ銃弾を通じて地面と接続する。すると、滝つぼに落ちた銃弾に引っ張られた地面が崩れていき、大しぶきを上げる。水にぬれたプテラノドンの背中には帯電しているギガントスピノザウルスによって感電し、墜落する。大崩落に巻き込まれたギガントスピノザウルス、エドモントニアも自身の帯電能力が仇となり、感電死する。
「間に合うか!」
この大崩落に巻き込まれたら間違いなく死ぬしかない。逃げようと銃弾を放ち、【接続】で体を引っ張る。少しずつ体が滝つぼから離れ、落下速度を落としながらも信二は硬い水面に叩きつけられるのであった。
「信二君を助けないと!」
その様子は滝の上にいたカケルたちの目にも映る。急いで信二を捜索しようとするカケルにアスカが待ったをかける。
「駄目よ。今、私たちがやるべきことは信二の捜索じゃない。この恐竜たちの情報を持ち帰ることよ」
「でも!」
「私だって!皆も、信二を助けたいと思っている。でも、一人を助けるためにもっと多くの人を犠牲にするわけにはいかないの!これは命令よ」
「………………」
「信二君なら大丈夫だよ、きっと」
「そうそう、留学していた時なんてエクステラに助けてもらったし~なんだかんだ助かる算段あったんじゃない」
「そうだね。『俺が無策で落ちるわけないだろ』とか言ってひょっこり帰ってくるよ」
「あいつらしいな」
「エクステラに事前に連絡とっていたりして」
「有り得るな」
「……そうだね」
「意見も纏まったみたいだし、サキ、周囲にモンスターは?」
「離れたところにはいるけど、進路方向に会敵するようなモンスターはいません」
「なら、一気に駆け抜けるわよ!」
信二に後を任されたアスカたちはその場から急いで離脱していく。頭上からの監視役が居なくなったせいか、追いかけてくるメタルザウルスはおらず、先ほどまでの苦労は何なのかと思うほどにあっさりと地上に戻るのであった。
一方、その頃。川から上がった信二はびしょぬれになった服を脱ぎ、予備の服、すなわちメイド服に着替えていた。あの高さから落ちたことで、メタルザウルスたちも死んだと思ったのか追ってくる気配はない。
「まさかこの服に着替える羽目になるとはな……命があっただけでも儲けものか」
【私が居なかったら、意識を失ったまま川から上がることもできずにそのまま死んでいましたよ】
「お前がいるから、たとえ俺が感電で意識を失っても大丈夫だと考えたんだ。でなければ、あんな自殺行為するはずがないだろ」
【私込みの作戦でもこんな無茶しないでくださいね。無理やり身体を動かす必要もあったので浸食率はおよそ50%と言ったところです】
「半分か……スワンプマンやテセウスの船みたいになっていそうだが、それでも死ぬよりかはマシだ。近くにカケルたちは来ていないな」
【来てませんね~】
「カケルが反対を押し切る可能性があったのが気がかりだったが、アスカあたりが牽制してくれたのだろう。それならよし。電波状況は?」
【ジャミングの影響はありません。幸先良いですね。緊急脱出装置ですぐ帰還できますよ】
「幸先が良いか……むしろ最悪の事態になっているかもしれん」
【どういうことです?】
「ジャミングの影響が無いということは近くにメタルザウルスが居ないということだ。ならば、包囲網を敷くくらいにいたメタルザウルスはどこに行ったと思う?」
【自分たちの巣に帰ったのでは?】
「それが一番良いが、今、このダンジョンはスタンピードを起こしている」
【それはつまり……】
「ステラ、ネットですぐに地上の状況を調べろ。下手すれば、地上にメタルザウルスの群れが出現していてもおかしくはない。もし、そうでなくても、このエリアにあれだけのメタルザウルスが居た理由、この山岳エリアだけでも調査しないといけない。どちらにしても、エクステラの力は必要になる」
【待ってました!美少女タイムです】
「本当は無かった方が良かったんだがな」
自分が目を覚ますまで半日以上経過していることを確認し、ダンジョン外に恐竜たちが出ているような最悪な状況ではないことを把握した信二はメイド服姿のエクステラに変身し、皆が持ちこたえてくれることを祈りつつ、このスタンピードの原因が眠っているかもしれない山頂へと向かうのであった。




