第58話 ダンジョン崩壊part3
山道を歩いているとタロが突如走り出して、何かに向かって吠え始める。信二が探査魔法を使うも強い魔力反応が頂上付近で感じるものも、吠えている場所付近には感じられない。一体、何に反応しているのかと思いながら様子を伺うと、壊れたEXギアが転がっていた。
「誰のだろう?」
「データを吸い上げられないか確かめてくれ、エクス」
【承知しました】
エクスの振りをしているステラが壊れたEXギアからデータを吸い上げていき、破損しているデータを修復する。その中身はAランクの探索者のものであり、このダンジョンの管理会社からの依頼でこのダンジョンを潜っていたようだ。
「破損個所が大きくて詳細は分からんが、昨日の昼前を最後にデータが途切れている。そして、1日経っても回収されていないということは持ち主はおそらく……だな」
「この崖の上からEXギアを落としただけ……ってことはないよね」
「それだったら、回収するでしょう? EXギアは私たちの命綱よ。紛失したまま進むなんてありえないわ」
「それができないということは奇襲され、その拍子で紛失。そのまま……ということが考えられる。(とはいえ、奇襲を受けたくらいでベテランのパーティーが誰一人情報を持ち帰ることも無く、瓦解するだろうか? )」
何か大きな見落としがあるのではないかと、嫌な予感に頭の中で警鐘が鳴り響く。今すぐにでも撤退すべきだと。だが、メタルザウルス系のモンスターが本当にいるのか確かめておきたい気持ちはある。頭の中でのリスクとリターンを秤にかけて、信二はもう少しだけ進むことを決める。
さらに山道を進み、もうそろそろ中腹を過ぎ、ちょうどEXギアを拾った崖の上に差し掛かったとき、そこにあった光景にカケルたちは目を大きく開ける。
「これって……」
「ああ、おそらく調査隊の……なれの果てだな」
そこにあったのは血と肉になり果てた人間だったもの。軽く手を合わせて黙とうし、転がっていたEXギアからデータを吸い上げて、交戦データを修復する。
【何だあれは!?】
【機械のプテラノドン?】
【攻撃が通用しない!?】
「元凶のモンスターはメタルプテラノドンか。となると、危険だな。撤退するぞ」
「ええ、そうね。元凶のモンスターが分かったんだし、長居は無用よ」
すぐさま撤退することを決め、山下りをしていく信二たち。上空から奇襲されたたまったものではない。その間も、復元された交戦データの記録の再生は続く。初見殺し装甲の前に為すすべなくやられていく隊員たち。悲鳴が響き渡る中、隊長が遅すぎた判断を下す。
【ええい、撤退する!各自、緊急脱出装置で……使えない!?】
【隊長、後ろからもメタル恐竜が!?】
「なに、複数個体いるだと!?」
そもそもメタルザウルスはクリア後のダンジョンでエンカウントするモンスター。現時点では出会うことはまずないのである。だが、自身の手で色々と歴史の流れを変えたことで、出会うはずの無いモンスターが1体くらい紛れると言うのはおかしくない話だろうとは思っていた。だが、複数体いるとなれば話は別だ。
「一体、何体いるんだ?」
機械的な鳴き声の数からして3体以上は良そうだ。信二が交戦記録に耳を傾けているとき、タロが上空に向かって吠える。その直後、上空から銃弾の雨が降り注いでくる。それらを上空に浮かせてあったぬいぐるみによる爆風で一気に吹き飛ばす。
「みみみ、助かった」
「礼は後!どうする? 戦う? 逃げる?」
「敵に囲まれる前に1階層まで逃げることを最優先!追われたとしても、層さえ跨げばジャミングの影響は受けないはずだ」
せっかくつかんだ情報アドバンテージを利用しない手はない。撤退戦を決めたことで、みみみは上空に爆弾の傘を用意し、上空からの攻撃を防ぐ準備をする。そんなとき、上空から黒い影が信二たちを挟み撃ちするかのように落ちてくる。
「メタルステゴザウルスにメタルアンキロザウルスか!止むを得ん、正面のアンキロザウルスを突破するぞ」
上空からの攻撃はみみみ、ステゴザウルスの時間稼ぎはリョウとリカのコンビに任せ、残りのメンバーで正面のアンキロザウルスに挑む。カケルが先陣を切り、刃を振り下ろすもカキンと金属音が鳴り響き、弾かれてしまう。
「話には聞いていたけど、ヒカリちゃんでも通用しない!?」
「硬すぎます!」
(……ステラ、【浸食】を使うぞ)
【使って良いんですか?】
(うまくごまかすさ。今は出し惜しみしている場合じゃない)
信二の銃口から放たれた黒い弾丸がアンキロザウルスに弾かれてしまうも、【浸食】により脆弱なものに変貌してしまう。カケルがアンキロザウルスの尻尾による叩きつけ攻撃を躱し、すれ違いざまに斬ると、今度は深いキズができる。
「もらった!」
懐に潜り込んだアスカが傷口に向かって雷を纏った拳で殴りつける。体中に流れる電撃がアンキロザウルスの機能を一時的に麻痺させ、動きを止める。その隙にアンキロザウルスの脇を通り抜けていく一行。ステゴザウルスが背中にあるヒレを回転させ、飛ばしてくるも、信二の黒い弾丸で撃ち抜かれてしまう。
それを見たステゴザウルスが、追撃しようと追いかけるもその移動力の差は歴然。ただでさえ足の遅い恐竜が機械化して重量まで増えているのだ。信二たちに追いつけるはずがない。
「信二君、さっきの黒い弾丸って……」
「万が一にとエクステラから貰った虎の子の弾丸だ」
「そんなのがあるなら、先に言いなさいよ」
「そうだぜ」
「数も限られている。緊急時以外で使うつもりはなかったんだ」
信二が後ろを振り返ると追撃をあきらめきれていない2体の恐竜の姿が小さく映る。このまま逃げ切れればと思っている矢先、今度は上空からのビームで前方の道が消し飛ぶ。
「仕方ない。森の中に逃げ込むぞ」
上空からの攻撃に追われながら、道なき道を右へ左へ、小川を超えながら走っていく。木々で視界が遮られているせいか、当たる気配はない。そのまま走り続けて森が開けた先にあったのは、落ちたら間違いなく助からないのであろう高さの崖。登山口とは反対側に抜けてしまったようだ。引き返そうとすると、今度は3体のメタルラプトルが退路を塞ぐ。
「倒す必要はない。火力を集中し、包囲網から抜け出すぞ」
信二が下山方向にいるラプトルに向かって黒い銃弾を放ち、弱体化を狙おうも機械化されているとは思えないほどの俊敏な動きで躱す。それを見た信二がサキにアイコンタクトを取り、頷き返す。再度放たれた銃弾を同じように躱そうとしたラプトルだったが、足に絡まれたツタによってこける。
転倒したラプトルに黒い銃弾を1発叩きこみつつ、通り過ぎていく。とどめを刺さなかったことにプライドが傷つけられたのか、逆上したラプトルが突出して追いかけてくる。
「駄目だ、追いつかれる!」
「問題ない」
今度は普通の弾丸を放つも、その銃弾はラプトルに当たることなく、宙へと消えていく。それを見た信二が【接続】を使うと先ほど放たれた銃弾に引っ張られたラプトルが後続のラプトルを巻き込みながら、崖下へと落ちていく。
「えげつねえ……」
「地形を利用するのは戦術の基本だ。これで追っ手はいなくなった。森の中を通って下山するぞ。崖のそばに居たら頭上からのビームで吹き飛ばされるかもしれないからな」
再度森の中に入った信二たちはあてなき道を進んでいく。上空にいたプテラノドンにとってラプトルが早期にやられたのは想定外だったのか、どこかへと去っていく。
上空からの攻撃が止んだことに、少し警戒しつつも、走りっぱなしだった信二たちは木に背を預けて倒れこむ。
「はあ、はあ……少し休憩とるぞ」
「さんせい……」
「異議なし」
みみみが配信画面を確認するも、まだ繋がらない。まだ近くにメタルザウルスがいるのかもしれないが、今は逃げるよりかは疲れをとるのが先だ。
「スポドリうめえ……」
「生き返るわ」
「今のうちに食べておけよ。今度はいつ休めるか分からんからな」
そう言って信二はフルーツ味のカロリーバーをかじりつつ、ドリンクで流し込んでいく。先ほどから頭は目の前のことだけでなく、万が一の策『プランE』も考えてのフル回転。足はくたくた。特訓で鍛えられたとはいえ、その時とは比べ物にならないほどのプレッシャーで疲労感は倍増している。そのせいか、瞼が自然と降りてしまい、仮眠をとってしまう。
目を開けて時間を見ると、数十分ほど経過していた。少し体が軽くなった気さえする。サキに探査魔法で森の中を見てもらうと、血の気が引くように顔色が真っ青になる。
「これって……」
「囲まれているな(だが、これほどの数がなぜ山の中に集まっている? 普通のモンスターならば、縄張り争いをするはず。先の連携と言い、統率が取れるモンスターがいるのか、それとも連携は偶然でこの山岳エリア自体に何かあるのか? 情報が無さすぎる)」
山の西側を包囲するかのように20は超える赤色の光点が点在している。この光点一つ一つがメタルザウルスだとすると、生きて帰れる保証は全くないどころか万が一、地上に出てくるようなことがあれば虎西だけでなく、下手すれば学園都市そのものが地図から消えかねない数だ。
「どうする?」
「残念だが、休憩は終わりだ。まずは森の中を移動して東へ向かう」
「先に下山したほうが良いんじゃない。ここからだと密林エリアに近いし」
「それだと今度は遮蔽物の無い荒野エリアを突っ切る必要がある。もし、メタルプテラノドンが山岳エリアから出ても追撃してくるようなら、逃げ場がない」
「それなら草原エリアに言っても同じだと思うけど?」
「森の中で距離を稼いでいる分、逃げる距離は少なくて済む。みみみの爆弾も無限にあるわけじゃない。できる限り節約しないとな。包囲網が完成する前に草原エリアへと向かうぞ」
木漏れ日が差す森の中を信二たちは駆け出していくのであった。




