第47話 夏休み
夏休みに入り、体育館で演劇の練習をしていた信二たち。話の流れとしては、悪者役を演じるカケルたちにみみみがさらわれる。友人役の生徒らがカケルたちを追いかけ、天使役の小型召喚獣を蹴散らしてカケルたちを追い詰めるも暴走した(ことになっている)大型召喚獣の前に敗北。みみみがやられそうになるところにエクステラが乱入し、みみみを救い出すというものになっている。
「悪はびこるところに裁きあり。エクステラ参上よ」
「カーーット!!心がこもってない。ちゃんと演技して」
「……難しいな」
台本を見ながら演技をしているが、これが中々に難しい。うまくやりすぎるとエクステラ本人になってしまう以上、少し棒読みにしているのだが、監督兼脚本家の眼鏡を掛けたいかにも文学少女と言った生徒に見抜かれてNGを出されてしまう。
「しょうがないよ。女の子の役だし」
「とりあえず通しでやるから、続きヨロ」
クラスメートが召喚したゴーレムに向かって、手にした大剣で斬り付けて消滅させる。無論、魔力をろくに通していない剣でゴーレムがやられるわけは無く、召喚士が攻撃の直前で消滅させているだけである。
「正義は勝つのよ!」
「忌々しいエクステラめえええ!」
カケルがバタンと倒れ、みみみのロープをほどいて救出。二人はどこかへと逃避行するというのが劇のストーリーだ。だが、脚本家の子はまだこの結末に納得していない。
「抱き合うだけじゃあ、インパクトが足りない!やっぱり最後はキスシーンを入れるべきよ」
「それはちょっと……ねえ?」
「俺も……困る」
「でも古本さん、さすがに主演の二人に無理強いさせるのはマズイんじゃないの?」
「だけど、ラブロマンスものにはキスシーンは欠かせないじゃない!」
「気持ちはわかるけどねえ……」
「その分、僕たちがアクションでカバーするからさ。やられ役だけど」
「最後のシーンはもうちぃっと考えてくるとして、通しで気になったところある?」
「これ、俺がモンスターを召喚することになっているんだけど、小型ゴーレム系より獣系の方があっているよな」
「ああ、確かに。僕たちが戦ったのって獣系だもんね。できる?」
「万が一、制御失敗して観客を襲うなんてあったら一大事よ。制御が利きやすいゴーレム系の方が良いんじゃない?」
「確かに俺の【召喚】と相性良いのはゴーレム系だけど、弱っちい下級でいいなら、言うこと聞かせられる。大型は無理だけど」
「それなら修正しましょう。リアリティーは重要よ」
召喚獣を使役していた生徒と一緒に、脚本に手を加えていく。それに合わせて大道具係となったリョウたちも、シーンごとに必要なパネルに必要な材料の打ち合わせをし、衣装班は役者役の人たちのスリーサイズをメモり、打ち合わせをしていく。そんなこんなしているうちに時間が過ぎ、気が付くとお昼になっていた。
「もうこんな時間か」
「今日はお疲れ。私も脚本も修正しないといけないし、自主練しつつ、1週間後にまた皆で通しの練習しましょう」
「古本さん、お疲れさま」
脚本家の生徒に声をかけて、ぞろぞろと帰っていく生徒たち。みみみはこの後、妹と一緒に配信するらしく早々に分かれて、カケルら5人で帰路に着いた。
「カケル、まだ時間早えし、昼飯でも食ったらダンジョンでも寄ろうぜ。バイト先、休園しちまって金がねえんだ」
「うん、良いよ。みんなもどう?」
「ごめんね、カケル君。健康診断の結果、まだ出てないから」
「あっ、こっちこそごめん」
「もうデリカシーが無いんだから!」
「それなら図書館で一緒に宿題でもするか? 特にリョウ、お前は手を付けてなさそうだしな」
「ギクッ。信二、なんでわかるんだよ」
「そんなの私でもわかるわよ。夏休み最終日に泣きつかれても困るし、家に戻って2時に図書館に集合ね」
「ごめんね、みんな。私のせいで……」
「良いのよ。悪いのはぜ~んぶ、『評議会』って奴の仕業なんだから!」
「そうだね……私の家、こっちだから。2時に図書館で」
サキはみんなと別れて、一人家へと帰っていく。ただ、彼女の心には重い物がずっしりとのしかかっている。それはあの事件以来、ダンジョンに立ち入れられなくなったことで、カケルたちの足を引っ張っていること。自分を慮ってくれるけど、そのせいで実力を上げられずに足踏みしていると考えると胸が苦しくなる。
「結果、良かったら良いんだけど……」
用事が立て込んでいるらしく、予定より早めに診断をすることとなり、結果が出るのは明日。良好ならよいのだが、もし悪化しているのならと考えずにはいられない。
「ううん、悪く考えたらダメ。カケルくんやエクステラさんに助けてもらったんだから、きっと良いはず。遅れた分、強くならないと!」
【……ほう、それなら童の力を使うか?】
「誰!?」
サキが謎の声の主を探そうと辺りを見渡すも、それらしき影は無い。いや、むしろ念話のような頭に響くような声。自分の見えないところから会話を飛ばしているのかもしれないと、辺りを警戒しつつ身構える。
【そんな怖い顔をするではない。可愛らしい顔が台無しではないか】
「貴女は誰?」
【識別番号:P1ANT0I0VE、お前に取り付いた天使だ】
「天使……貴女のせいで私は!どれだけ!辛い思いをしたのか分かっているの!」
【泣き言を言いたいのはこちらの方だ。識別番号:B5Y0JO3I5のせいで会話機能が修復するのに3か月近くもかかってしまったではないか】
「識別番号:B5Y……だれ?」
【お前の記憶によるとエクステラと呼ばれているらしいな】
「エクステラさんが天使!?」
そんなわけがないと思う一方で、セラフィムのように羽さえ隠せば人間と大差がない天使がいるのも事実。もしも、何かしらの方法で背中の羽を隠すことができるのであれば……
「いや、ないない。第一、エクステラさん、天使と敵対していたんだから」
【そうとは限らぬぞ。エクステラとセラフィムによるマッチポンプという線はある。天使と言う魔の手から救ったとなれば、愚かな民衆は容易にエクステラと言う英雄に縋り付き、彼女が正義であると盲信し、傀儡に成り下がる。多少の犠牲でこの星を手中に収めることができるのだ。あり得ぬ話ではない。童に知らされてなかったのは癪ではあるがな】
「そんなわけ――」
【否定できるのか? お前にエクステラの何を知っている? 童は識別番号:B5Y0JO3I5のことをよく知っているぞ】
「そ、それは……」
サキにとってエクステラは命の恩人。自分を乗っ取った天使の言うことよりも、エクステラを信じたいという気持ちの方が強い。だが、彼女のことを知らないのは事実。裏でセラフィムと繋がっているとなれば、この前の配信で発表した天使との和平は一転して取り返しのつかないことになりかねない。
「それでも、私はエクステラさんは信じる!」
【ふん、まあいい。今回は忠告だけにしてやろう。だが、くれぐれも忘れるなよ。すでにお前と童は一心同体、いや二心同体か? どちらでも構わないが、切っても切れない間になっている】
「すみません、できれば出て行ってもらいたいんですが……」
【それはできぬ相談だ。回復したと言っても、今の童はせいぜい10%程度の力しか出せぬ。回復しきれぬうちに出れば死ぬだろう】
「……あの、完全に回復したらどうなるんですか?」
【乗っ取るが?】
「出て行ってください!とにかく今日あったことは明日、エクステラさんに相談します!」
【相談したところで、童を引きはがすことは出来ぬよ】
「それでもです!」
【人間と言うのは余程無駄なことが好きなようだな。とはいえ、こちらもしゃべりすぎた。しばらく眠らせてもらうぞ】
「ずっと眠ってください!」
頭から響いてきた声が聞こえなくなり、警戒を解くも悩みの種が増えてしまい、どうしようかと思い悩む羽目となるのであった。




