第46話 新たな問題
第2次エクステラショックから1か月が過ぎたある日、リョウコが宿舎から出ると、鷲崎が一緒にドライブでもしないかと声をかけてくる。久しぶりの休暇ではあったが、この1か月の間、上への報告やら次から次へとくる抗議文書やメディアへの対処等に追われ、彼とまともに話す機会は無かったことを思い出し、少しの間ならと彼が運転する車へと乗りこむ。
「聞いたか。俺のところの真空管ハゲ、少将に昇進だとよ」
「えっ、未遂とはいえ、N兵器を使おうとしたのだから下手すれば……」
「そこは真空管らしくオールドメディアの操作がうまかった。世間一般じゃあ、N兵器のことは知らされてねえし、真空管ハゲが超法的手段で軍を動かし、『評議会』を摘発したことになっているらしい。さすがに天使云々は印象操作できなかったみたいで、そこはエクステラに手柄を譲ったようだがな」
「それならこちらも情報を伝えないとね。EX-03のパートナーの居場所が分かったわ」
「ほう。じゃあ、そこに乗り込むか。で、場所は?」
「……S県にある病院よ」
「病院? ケガでもしたのか?そんなふうには見えなかったが……」
「今から4年前、影山アキラは交通事故に遭い、今も意識が戻らずにいるわ。いわゆる植物状態ってやつね」
「おい、待てよ。俺たちがあった影山はピンピンしていたぜ!それとも何か、一瞬だけ気を取り戻してゴーレムを作ったとかか?」
「ええ、担当医にも聞いたけど彼が意識を取り戻した様子は無し」
「同姓同名の可能性は? 2000人くらい集めれば同姓同名は出てくるって聞いたことあるぜ」
「知り合いに調べさせてもらったけど、異能まで一致。それに、その影山の子供の写真を送ってもらったけど、私たちの知る影山本人だったわ」
「それを先に言え。じゃあ、何か、俺たちの前に現れた影山は異能までコピーできるドッペルゲンガーみたいな異能持ちの『誰かさん』ってことか」
「偽物かどうかはまだ分からないわ。一応、『影山アキラ』が両親、あるいは本物に接触する可能性もあるから護衛もかねて実家と病院を見張らせているけど、成果はゼロってところね」
先ほどまでスイスイと進んでいたはずが、渋滞につかまり、身動きが取れなくなる。車内にジャズが流れる中、リョウコが口を開ける。
「話は変わるけど、エクステラ、貴方から見てどうだった?」
「まあ、戦闘力は大したことは無い。俺のナイチンゲールを使っての消耗戦に持ち込めば勝てるだろうよ。実際、亀北の山中で出来ていたわけだしな。だが、一番厄介なのは奴の観察眼だ」
「観察眼?」
「石破影山ペア、ミキティーに2体の智天使級……どいつもこいつも常識の範疇から外れた強さを持った奴らが相手だったわけだが、少なくとも俺の指揮で勝つことはできなかった。仮に事前情報を掴んで、万全の態勢で迎えるにしても同じ結果だろうよ」
「でも、彼女はやり遂げた」
「ああ、完全初見の戦闘でな。相手の行動を観察し、弱点を見抜き、それをもとに戦略を構築する能力。【観察眼】、それがエクステラの本当の異能なのかもな」
「観察眼……それがエクステラの強さを支える柱というわけね」
「あの頭おかしい恰好も本質から目を背けさせるカモフラージュと考えれば説明はつく。カオスに見えて、本質は合理的。まるで人格が2つあるみたいだぜ」
「EX-00の影響なのかしら?」
「かもしれねえな。俺たちが持つ資料とエクステラの能力に齟齬がありすぎる」
「そうね。私たちの資料によると、機械に浸食して自由自在に操る能力と書いてある。それだけでも、100年前よりも機械があふれている現代社会においては脅威なんだけど、そうなると、エクステラ本人の異能は活性化・回復系の異能になるわ」
「だが、死者蘇生できるほどの異能は本当に存在しているのかってなる。ナイチンゲールですら、手足の欠損を治す程度だぜ」
「そこよね。【憑依】みたいに表沙汰にされていない異能というのは考えられるけど……」
「未成年のガキにそんな権力はねえよ」
「つまり、WW2を引き起こさせる能力というのに偽りはないけど、まだ何か隠された能力がEX-00もしくはエクステラにはある」
「同じEXナンバーなら何か知っているんじゃねえのか、ナイチンゲール」
「残念ですが、私にその質問に答えることはできません」
「ってな感じで、こっちの調査も難航中だ。わかったら、そっちにも情報は伝える」
「こっちもそうするわ。今の社会情勢、私たちがいがみ合っているわけにはいかないもの」
相次ぐ大臣の辞任により、秋の衆参W選挙に向けて政治家たちが民衆に語り掛けている姿を車内から見ながら、二人を乗せた車は都内を走っていく。
その一方で、亀北の留学期間が終わり、信二たちはここで出会った仲間たちと最後の放課後を楽しんでいた。手には出来立ての亀北名物『亀北まんじゅう』が握られており、一口大のそれを頬張る。
「明日には帰るなんて、時間が経つの早いよね~」
「最初の1週間が濃厚すぎたな」
「分かる~」
「そんな軽いノリで済ませる事件じゃなかったっすよ!?」
「まったくだ。こっちは智天使級に頭のおかしい女と戦ったんだぞ」
【頭がおかしいとは何ですか!?美少女ですよ!】
(お前は黙ってろ)
「俺はその時、魔力切れでエクステラの隠れ家で寝込んでいたわけだが……」
「情けない」
「でも、呼んでくれなかったらあたしたち死んでいたかもしれないし~」
「よくやった。褒めて遣わす」
「手のひらクルクルにもほどがあるっすよ!?」
「元からこういう奴だろ」
「聞こえているぞ、お前ら!」
カケルたちに何か良い土産物が無いかと近くの土産物屋に入ってみると、亀北サイダー、亀北せんべえ。亀北手ぬぐいと温泉街ならありがちな土産物がずらりと並んでいる中、ひときわ目立つものがあった。
「エクステラグッズコーナー……」
「ぬいぐるみにストラップ、缶クッキーもあるっすね」
「こっちには温泉のもとまであるぞ」
「肖像権とかどうなっているんだろうな」
「許可貰っているんじゃない。1個買お~う」
(出してないが!? 犯罪者のはずだが!?)
「じゃあ、私も」
「…………せっかくだ、ストラップ買っておくか」
(何がうれしくて自分のストラップを買わないといけないんだ!?)
【あっ、隣のミキティーストラップとマグカップもお願いします】
(……まあ、良いだろう。それだけの活躍はしたしな)
【あらやだ優しい?】
(なぜ、そこで疑問符が出る……)
「ダンジョンと温泉以外に名物なかったっすからね~おかげで探索者以外の観光客も増えて、自分ちも儲かっているっす」
「……儲かっているなら何よりだな(釈然としないが)」
会計を済ませ、転校初日に教えてもらった鉄板焼きの店に入る。ジュウジュウと豚玉ととん平焼きを焼いているとき、文太が信二の耳元で小さくつぶやく。
「で、お前はどっちを狙っているんだ?」
「ただの先輩・後輩だ」
「なら、好きな子はいるのか?」
【私、気になります。 ゲームでも推しキャラくらいいるでしょう】
(確かにいるにはいるが……)
【誰です? 誰です? そこの二人じゃないとするとやはり本命はアスカちゃんですか? それとも生徒会長さんですか? それともワ・タ・シ? さあさあ、白状してください】
(断る)
【ええーっ!それは美少女じゃありませんよ。美少女と言えば恋!恋愛!男をめぐってライバルキャラとの熾烈な争い!そういう展開を読者は望んでいるんですよ】
(エクステラにそういう要素は必要ない。余計なトラブルの火種など抱え込みたくないからな)
【つ・ま・ら・な・い。だからモテないんですよ】
(悪かったな、モテなくて)
「……特にいない」
「特にってことは気になる奴はいるのか?」
「誰っすか、誰っすか?」
「何の話~?」
「聞かせて~」
「こいつが誰が好きなのか聞いているところだ」
「気になる~」
「誰かな?かな?」
皆から言い寄られた時、信二の携帯が鳴り、これ幸いとカケルからの電話に出る。
「いいタイミングで電話してくれて助かった。それで何の話だ?」
『うん。今日、文化祭の出し物の話し合いをして演劇をすることになったんだ』
「演劇か……演技には自信が無いから照明や大道具とかの裏方に回りたいところだな」
【ダウトオオオオオ!何言っているんですか!? 初めてエクステラを演じた時に完璧な立ち回りして自信がないと!? 大ぼらにもほどがありますよ】
(あれくらいの演技、大学生ならだれでもできる!)
【ダウトにもほどがあるでしょう!あれですか、金田〇少年の犯人みたいに自分の演技力に驚くタイプですか!】
『ああ、ごめん。役も一緒に決めたんだ。でも良い役だから許して。プフッ』
(なんだ、笑い声が漏れているような……)
「ところで何を演じるんだ? シンデレラとかオズのなんとかか?」
『さすがに人余るんじゃないかな、それ……』
「わからんぞ。シンデレラを8人くらいにし、王子様が武勲を上げたものを妃にするとか言って、舞踏会を天下一武闘会に変更するとかな」
『なにそれ、面白そう。でも、それシンデレラじゃないよね。森山くんが居て、そういう案出してくれていたらこの劇をしなくても良かったのかも?』
「嫌なら嫌と伝えるのは大事だぞ。あと、信二でいい。それで、肝心のテーマは?」
『エクステラ』
「ん?」
『僕たちのクラスってエクステラ関係者多いし、何より世間を賑わせたエクステラをテーマにしたオリジナル演劇をしようって……』
「発案者は誰だ? エクステラを劇にするのは構わないが、事件の被害者がいるのによく提案できるな」
『みみみちゃん。被害者からの案となると、皆否定しづらくて……』
「まあ、それはそうだが……それにしても、ひんしゅくを買わなかったな。第一次をネタにするなら、それこそみみみをヒロインに置かざるを得なくなる。女子からの反対が多そうだが……」
「どっちかというと、対抗戦の方がメインだから、演劇とか出し物に力を入れようとする人は少ないんだと思う。対抗戦なら活躍して目立てばスカウトが来るかもしれないし……」
「そういうことか。で、俺の役はなんだ? 連絡役なんて表に出ていないはずだが……ドクター役か?」
『エクステラ』
「………………すまない。雑音で聞き取れなかったみたいだ。もう一度、言ってくれ」
『エクステラ役』
「…………………男だぞ。アスカあたりにやらせたら良いんじゃないか? 背格好も近いだろ」
『いや~本当は女子がやるつもりだったんだけど、みみみもアスカもサキも役あるし、他の子はあまり目立ちたくないというより、夏休みの間に演劇の練習よりも対抗戦に向けて実力を付けたいって言うから、それならいっそのこと男が演じればって話になって……』
「不在の俺に押し付けたってことか……」
『でも、こういったら悪いけど信二君なら似合うと思うよ』
(似合うも何も御本人だがな! なぜ、こうなった!?)
【完璧に演じましょう!美少女を!!】
(バレたらどうする!)
【でも、ツトムさんにはバラしましたよね】
(信頼のおける協力者と一般人だと話が違う。それに万が一に備え、通常時でも使用する武器も作ってもらう必要もあった)
【でも、普段の演技力の高さなら余裕です】
(上手に演技するならわかる。下手な演技をしろと言うのであればできる。俺がエクステラだとバレない程度に下手な演技をするとかどうすればいいんだ!?)
堕天使や邪神への対抗策を考えるのと同じくらい頭を抱え始める信二であった。




