第48話 自分たちのシナリオ
「――それでこのANG値の高さか」
前回の測定よりも1.2倍の数値を叩き出したことに疑問を持ったツトムがサキに話を聞いてみると、切除されたはずの天使が自分に話しかけてきたと言う。
(浸食率10%というと、初期の俺くらいか……)
それくらいならば命にかかわることは無いと言えるも、中にいる天使は未だにサキの身体を乗っ取るつもりでいる。これが30%、50%……と上昇していくのであれば話は深刻だ。
「回復しきっていないのであれば、自分から主導権を渡さない限り、乗っ取られることは無いけど、それを超えられると厄介ね」
「3か月弱の時間をかけて回復したのが10%。50%が分水嶺とするなら1年ほどの猶予はあるが、逆に言えば1年以内に解決策を見つけないと再び乗っ取られるというわけか」
「悠長にしている時間無いわね」
「あの~、エクステラさんが天使というのは本当なんですか? いや、悪い人ではないとは思ってはいるんですけど……」
「……天使の力を使ってはいるけど、天使じゃないわ。れっきとした人間よ」
「ほっ……でも、天使の力を使うってどうやって?」
「裁定者たる私に乗っ取りは通用しないわ」
「凄いですね。エクステラさんって……」
「それでどうするんだ。その天使とやらをひっぺがす手段でもあるのか?」
(どうだ、ステラ? 魂関連なら【浸食】と【接続】を使えばひっぺがすことができるんじゃないか)
【いくらなんでも無理では? カフェオレからミルクだけを分離させるようなものですよ?】
(逆に言えば、コーヒーに含まれていない成分、例えば牛乳由来の脂質だけを抽出するくらいはできるか?)
【そういわれると可能かもしれませんが……失敗を恐れるのは美少女らしくありませんね。やってみましょう】
「……やってみるけど、失敗するかもしれないわよ」
「お願いします!みんなの足を引っ張りたくないんです」
「分かったわ。貴女のEXギアを貸してもらえるかしら」
サキのEXギアを受け取り、サキの肩に触れてEXギアと彼女の魂に潜んでいる天使と接続する。抵抗され、弾かれるような感覚を覚えつつも、その一部だけでもEXギアの中に接続する。
【なんだい、妾を起こしてからに……】
「EXギアの音声機能を使って会話をしているのか」
【本体はそこの小娘の中だがな】
「早速だけど、サキから出て行ってもらえないかしら」
【それはできない相談だな。B5Y0JO3I5、いやエクステラと呼んだほうが良いか?】
「私はステラの力を借りているだけよ」
【下等な知的生命体ですら支配できぬようになったか。衰えたな】
【はあ? それはそっちの話では?】
「エクステラさんのEXギアからも声が……」
【そう、私こそが美少女のステラちゃんでーす☆】
「えっ~と、初めまして? で良いんだよね」
【私から見る分には何度も会っていますけど、会話するのは初めてなので初めてで良いのでは? それにしてもサキちゃんって美少女度が高いですよね。どうです、私と契約して魔法少女になりませんか? 今なら二人でキュアキュアな感じでコンビユニットが組めますよ!いえ、むしろここは追加戦士枠的なノリでも――】
「無視しても良いわよ。普段からこんなのだから」
「えっ~と、ごめんなさい」
【なんで、振られたんです? メリットしか話して無いのにおかしいですね~】
【妾を無視するではない】
【そうでした。私たちの美少女パワーでやられたんでしたね。識別番号:P……名無しさんで十分ですね】
【言わせておけば……おい、お前!童に名を付けろ。名無しとかではなく高貴な感じでじゃ】
「えっ、私? えっ~と……ピーちゃんで」
【小鳥か!? 妾はインコではないぞ!ネーミングセンスゼロどころか、マイナスなのだが!】
【美少女を歩く18禁みたいな恰好にさせたピーちゃんにはお似合いですよ】
【貴様……】
「盛り上がっているところ、悪いけど、彼女から出ていけない理由があるのかしら」
【他の生物に寄生できるほど回復しきっていない】
「じゃあ、回復を待てば外に出て行ってもらえるのかしら?」
【無論、乗っ取るに決まっておろう。こやつの素質は悪くない。童に乗っ取られるために生まれてきたかのようじゃ】
「お断りです!」
「なぜ、乗っ取ろうとするのかしら。私とステラみたいに共存する道もあるはずよ」
【下等生物と共存だと? 笑わせる。貴様らは虫けらと仲良くできるのか?】
「受粉を促すミツバチみたいに生活に欠かせない虫はいるが……」
「アブラムシを食べるテントウムシみたいな益虫をあげろとか、そういうことじゃないわよね」
【ピーちゃん、この二人は屁理屈が得意なんですよ。具体的に言わないと】
「誰が屁理屈だ」
「ひどい言われようね」
【妾が悪いのか!? ええい、貴様たちは虫けらに身を守ってもらおうとするのか】
「さすがにそれは無理だな」
「つまり、サキの実力が怪しいから、自分の身は自分で守るしかないと考えている。そういうことで良いのかしら?」
【そういうことだ】
「なら、話は簡単ね。サキ、貴女がピーちゃんに認められるほど強くなればいい」
「はい、頑張ります!」
「と言っても、どれだけ強く成れば良いのか具体的な目標が欲しいところね。ピーちゃん、私から提案があるんだけどいいかしら?」
【なんじゃ?】
「これから10日後、虎西にあるAランクのダンジョンにサキが挑戦する。パーティーメンバーは6人程度。多くても10人未満。深層ボスモンスターを討伐することで、その力を認めてもらうというのはどう?」
【一人でその力を示してほしいところだが?】
「あら? 貴女、アルラウネだったとき取り巻きの天使を大量に出していたわよね。その取り巻きの強さも評価項目にすべきじゃなくて?」
【うむ、そういわれると……よかろう。パーティーを組むことを許可する】
「今の私に深層ボスなんて……」
ナルシーと一緒に下層のクリスタルドラゴンにアシストを決めたとはいえ、下層と深層では文字通りレベルが違う。これが何年もかけて到達しろと言われるのであればまだ納得できたが、たった10日でとなると圧倒的に時間が足りない。
「当然、今の貴女では無謀も良いところ。だけど、虎西の最先端技術があればショートカットくらい余裕よね、生徒会長さん」
「そういうことか」
ツトムはエクステラの提案に一人納得する。これは自身が改心したことで立ち消えした第三章の代わりをやれということ。事件を起こさなければ、カケルたちのレベリングの場を設けるだけの話。きわめて平和的に終わる。彼女からしても、前半の話だけならば立ち消えしなくても良い話なのだ。
「良いだろう、恩義があったとはいえ『評議会』の一人を見逃した負い目もある。罪滅ぼし程度には付き合うさ」
「えっ、『評議会』の人と!?」
「そういえば話していなかったな」
「彼が元『評議会』の協力者だとか、そんな些細なことはどうでもいいのよ」
「些細なんですか!? 世間を騒がしているのに!」
「安心しろ、もう奴らとは協力しない」
「それ、安心して良いんですか」
「良いのよ」
「は、はあ……」
「生徒会長さんには一筆書いてもらって、サキには信用できる人と一緒に虎西に来て特訓。その後、ダンジョンに潜って深層ボスを討伐し、サキの中にいる天使に認めてもらう」
「良いだろう、適当な理由でもつけて招待するさ。都合よく、お前たちは亀北の事件で活躍している。その件と絡ませておけば校長たちも納得するだろうよ。あとは俺のコネでOB・OGを呼んで……まあ、1日あれば余裕だな」
「エクステラさんも来てくれるんですか?」
「堕天使や『評議会』の次の動きに対して動かないといけないから連絡員を通じて話を聞く程度ね。何かあったときのバックアップくらいはしてあげるけど、基本的には貴女が選んだ人たちでなんとかしなさい」
「連絡員……信二君とはどういう関係なんですか?」
「ちょっと頭が切れる子ね。ともに肩を並べて戦う分には不十分だけど、サポート要員として十分よ。彼からの連絡で最悪の事態は防げているし、感謝しているくらいよ」
「そのことを信二君は……」
「知らないわよ。伝えたところで、『そうか』とか『そうだな』とかのつまらないことくらいしか言わなさそうじゃない」
「そんなに冷たい感じかなぁ。ああ、でも、一歩引いているというか距離を取っている感はあるかも」
「でしょう。そういうの好きになれないのよね~」
(コイツ、二枚舌どころか何枚舌あるんだ……舌がミルフィーユだろ!)
ツトムは信二の演技力の高さに舌を巻く。正体を知らなければ、ただのキャキャウフフしている女子同士の会話にしか聞こえず、よもやこれが男女の会話、しかも自分自身を貶めている内容だとは思えないだろう。
「……色々と大変だな、アイツ」
自身の態度で正体ばれしないようにと彼女?たちに背を向けて、適当な文言で取り繕った招待状の作成に取り掛かることにするのであった。




