第44話 堕天
「悪いが、今の俺たちだと足手まといだ。緊急脱出装置で先に地上に戻る。万が一、失敗しても俺たちが最終防衛ラインになるようにな」
「その心配は無用よ。ここで倒すんだから」
「そうかい。死ぬんじゃねえぞ」
資料を手当たり次第押収した国防軍が地上へと戻っていく中、4人だけが残り、女性智天使級の周りに異空間から取り出した大小様々な剣が浮かび上がり、ぐるりと自身を取り囲む。さらに大蛇は自身の異能で見知らぬ男性のゾンビたちを呼び出していく。感じる魔力量からして少なくともAランクはあるだろう。
「まずは敵を分断!私とミキティーで智天使級、貴方たち二人で元・爺さんと他のゾンビの相手を!」
「指図を受けるつもりはないが、その方が効率は良いか」
「ワタクシも同じく。ですが、黒幕を倒すのに邪魔な天使とやらを排除していただけるのであれば、こちらとしても願ったり叶ったりですわね」
Sランク二人に黒幕の対処を頼み、改めて智天使級の動きを見るエクステラ。宙に浮いている身の丈ほどある大剣をつかみ取り、こちらを睨め付ける。
「何かされる前に先手必勝でしょ!マーズレイ!」
必殺の極太砲撃魔法。赤き熱線が智天使級を貫こうとしたがたった一振りで叩き斬る。
(ダンジョンですら貫く砲撃だぞ!しかも、それほどの攻撃を受けてもヒビ一つ入らないとは……)
「う~ん、【切断】に近い能力で斬られたって感じ」
「それなら手数で押すだけよ」
「OK!プルータス、援護お願い!」
エクステラが地上を滑空し、ミキティーとプルータスが空中から攻撃を仕掛けていく。だが、エクステラの銃弾も、ミキティーの飛翔斬・鱗も、プルータスのサテライトキャノンも宙に浮いた剣がせわしなく動いて切り落としていく。
【はあああああああああああ!?】
【攻撃が通用しねえ】
【まるで剣の結界だ】
「だったら剣を消滅させたら良いんでしょう。アースブレイカー!」
攻撃範囲を調整し、目の前にいる智天使級ごと消滅させようとするも、手に持った大剣に空中にある剣が幾重にも折り重なっていき、一つの大剣となってアースブレイカーを斬る。
「うそ~ん!?」
「でも、今なら!」
宙に浮いている剣が見当たらないということは、結界が無いかもしれないと即座に狙い撃つ。体のどこかにでも当たれば、デバフがかかる【浸食】付きの黒き弾丸。だが、それは無情にも異空間から飛び出てきったダガーによって切られてしまう。
「下手な攻撃は予備の剣で対処できるってわけね」
「どうする? もう一発やっちゃう?」
「もう無理ね。同じ方法だとあの大剣に剣を食わせる必要もないもの」
「あっ、そうか。もっと強く撃とうとするとダンジョン崩壊しちゃうし、どうしよう?」
「それを考えるのよ。幸い、足は遅いから向こうの攻撃は避け――」
智天使級が大剣の大振りをやめ、異空間から補充した剣をビュンビュンとエクステラたちに向けて射出する。全力で逃げれば追いつかれることは無いが、少しでも速度を緩めばじわりじわりと距離を詰めてくる。背後からピタリと付いてくる剣にエクステラを嫌なプレッシャーを覚えながら、智天使級がガシャンガシャンと重そうな音を立てて、追いかけまわす。
【今は大丈夫だけど……】
【いつまでも逃げられるわけないよな】
【魔力が尽きるか体力が尽きるか、どっちが早いかの問題だろ】
【こういうときは術者を倒すの最善手だけど、向こうは向こうで手こずっているみたいだ】
【検証班によれば数年前に死んだSランクのゾンビがいるらしい】
【第一次エクステラショックによれば病院もグルだから、遺体の一部を採取とか容易だろうしな】
【これ、どうしろと!?】
「目には目を歯には歯を。【切断】には【切断】、煌・十字翔!」
「こちらも偽・十字翔!」
光の粒子を纏った十字の刃が二方向から襲い掛かるも、大剣の薙ぎ払いでかき消されてしまう。だが、そのなぎ払いの下を掻い潜ったプルータスが死神の鎌を振るい、不可視の刃による6連撃を決めようとするも、異空間から現れた剣に阻まれてしまう。周りの剣に退路を断たれたプルータスに刃が向けられ、真っ二つに斬られてしまう。
(智天使級の足は遅いから遠距離から攻撃すれば問題ないが、剣の結界で代わりにこっちの攻撃が無効。先のような大振り攻撃を誘発させて近づいても、相手は後の先を得ることも可能。やはり、一番厄介なのは【切断】よりもアイテムボックスのように異空間から剣を出す能力!となれば……)
エクステラは持っていた大型ライフル銃からマシンガンに切り替えて黒い弾丸を智天使級に向かって黒い弾丸を滑走しながらばら撒いていくが剣の結界に阻まれ、智天使級に届くことは無い。
【自棄になったか?】
【まあワンチャンかけて手数で押すってのは分からなくもない】
【でも、全て弾いているぞ】
【隙ねえ~】
実体弾を撃ち尽くしたエクステラは剣に持ち替え、智天使級に突撃すると同時に【接続】を発動。宙に浮いていた剣が一斉にダンジョンの壁にへばりつく。先ほどのマシンガンは智天使級を狙ったものではない。彼女の狙いはダンジョンの壁、そして宙に浮いている剣そのものだったのだ。
智天使級が向かってくるエクステラに剣を振るうも、躱すだけなら容易。勢いを殺さず、なお近づいてくるエクステラに異空間から剣を取り出そうとしたとき、その剣先はすでに折られている。
「次元斬・極を放っておいたよ」
相手が剣を補充するのは使える剣が手元になくなってから。そうとわかれば、次元斬・極を放つタイミングを計ることは容易い。そして、エクステラが智天使級の片腕を切り落とし、大剣による攻撃を封じる。すぐさまミキティーも残る片腕も切り落とす。
「「これで終わりよ、グランドクロス!」」
攻撃も防御も封じた智天使級を二人で縦と横、十字に斬り付け、ミキティーとエクステラの砲撃が再生中で動けない智天使級の上半身と下半身を吹き飛ばす。
「馬鹿ナ、ワシノ智天使級ガ……」
「これで終わりですわ!」
「ふう、ようやくゾンビを倒しきったか」
どうやら、向こうの大蛇の戦いも大詰め。制服も破れ、満身創痍とはいえ、エクステラが魔力の肩代わりしていることもあって大蛇を倒すくらいの余力は残しているようだ。
「貴方のゾンビは肉片と言う触媒が無ければ発動不可能。ワタクシの炎で残さず焼きましたから、復活はできませんわよ」
「観念するんだな」
「オノレ、オノレ、オノレエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
大蛇がどす黒い感情を爆発させたとき、主を失って地面に落ちていた剣がカタカタと動き、大蛇に向かって一斉に襲い掛かり、突き刺さっていく。
「なっ!?」
「えっ!?」
「ナ、ナニガオコッテ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
大蛇に手足が生え始め、その姿は徐々に人間に近づいていく。そして、顔がにょっきりと現れるが、その顔は爺さんでも若返った姿でもなく女性の顔。背中に黒い羽が生え始め、その数は2対。すなわち、智天使級だ。
(まさか、俺とステラが倒したのは智天使級ではなく仮初の身体。本体はあの剣そのもの!剣一つでも残っていれば近くの生命体に寄生し、同化する。それが女性智天使級の本来の能力!)
だが、女性智天使級の変化はとどまることを知らない。先ほどと同じ3,4mほどの巨人になったと思いきや、腹部から金色の光が漏れ出していく。そこから食い破るかのように手が飛び出し、中から引きちぎっていく。
「その姿は……!?」
黒い鎧に包まれているも、見えている肌はセラフィムと対照的で色黒。身長は170cmほど。女性としては背が高めなくらい。そして、背中には黒い羽が3対生え、赤い目がエクステラたちを射抜く。
「これガ知能、知性……そしてこれガ欲!悪く無い気分ダ」
「熾天使級!」
この騒ぎを地上から見ていたセラフィムも、予想だにしなかったイレギュラーにこちらへと転移する始末だ。
「私ト同じ熾天使級カ……」
「お前は偶然とはいえ、我と同じ力を得た。お前はその力で何を望む?」
「決まっテいる。私ハ学んダ。私ハ創造する。理想ノ世界ヲ。支配スル世界ヲ。創造ノためノ破壊。破壊ノための想像。破壊、創造、破壊、破壊……そう、破壊することが私ノ望みダ!」
「だとすれば、我と考えが合わんな。残念だが、ここで始末する!」
セラフィムが光の剣を女性熾天使級に突き刺そうとするも、異空間から現れた大剣に阻まれてしまう。セラフィムが大剣を打ち砕いたときには、女性熾天使級の姿はどこにもなかった。
「逃げられたか。遺恨は残ってしまったが、こちらは我の不手際もある。この件については我らの方でも調査・追跡することを約束しよう」
「ええ、そうね。女性型熾天使級、仮称・堕天使級で何かわかったら連絡ちょうだい」
「心得た。それと配信前に行った我との約束についてだが、この場を借りて話しても良いか」
「構わないわ」
【なんだ?】
【やべえ奴が野に放たれただけでもやべえんじゃが】
【まだ何かあるって言うのかよ】
【最後までチョコたっぷり】
【そのチョコ、トン単位やろ!】
【もうお腹いっぱいなんじゃが!?】
「配信前、我はエクステラと一つ条約を交わした。それはこの地にある黒幕、『評議会』のアジトを潰せば我が軍を半年間地上及びダンジョンに派遣しないという停戦条約だ」
「そして、半年の間に『評議会』の解体が進むのであれば条約は再度更新されるわ」
「『評議会』の権威が失墜したのを確認次第、我には地上に住む人たちと対話する用意がある」
【えっ~と、つまり……?】
【しばらくの間、天使は出てこないってこと?】
【この件で『評議会』がやべえ連中だってのは分かったしな】
【魔女狩りよろしく排斥は進むだろうよ】
【うまく行けば和平を結ぶことも?】
【和平を結ぶことができるなら、向こうの進んだ技術もゲットできるだろうからメリットもある】
【この配信で向こうの技術力の高さ教えてもらっているからな】
【今度は間違えるなよ日本政府……】
「本来の予定であれば、ここで退席するつもりだったが、先ほどの不手際もある。少しばかり借りは返させてもらおう」
セラフィムが空高く飛び上がり、大きな白い羽を広げると金色の粒子が地上に散布される。すると、アースブレイカーで消失した山が元通りになり、天使の襲撃で壊れた家屋が元に戻っていく。文字通りの奇跡を平然とやってのけるセラフィムに地上に居た国防軍たちは唖然と彼を見ていた。
「こんなのとマトモにやり合えねえな」
「ええ。本部には強く進言しましょう」
戦う気力さえぽっきりと折ってしまう再生能力を見せつけたセラフィムも姿を消す。それと同時にミキティーの手足がぽろぽろと崩れていく。
「あちゃー、リンクを断ってから魔力で無理やり繋いでいたけどこれが限度みたいだね」
「助かったわ、ミキティー。貴女が居なければ堕天使級に蹂躙されていたかもしれないもの」
「後輩君たちの力になれたみたいだし、心残りは無いかな。後は頑張ってねー」
最後まで軽い感じで話した後、ステラはエクステラの下へと帰り、もの言わぬ人形に成り下がったミキティーをエクステラの身体越しに見る。
(…………私のお星さま、ありがとう)
【えっ?】
(どうした?)
それは幻聴かもしれない。だけど、ステラはくっきりと聞こえたのだ。彼女の言葉が。
【恨んでもおかしくないはずなのに……さすがは私の見込んだ美少女ですね】
(何の話だ?)
【相手は人の悪意を学んだ天使。きっと生半可な戦力だと返り討ちにされますよ】
(わかっている。今の俺たちでは奴に勝つことはできない。強くなるぞ、俺たちも)
【それでこそ、私の見こんだ美少女です!】
かくして、二度目の大型コラボ配信は日本どころか世界を揺るがしながら、幕を下ろすのであった。




