第34話 30秒に賭けた勝機
時は遡り、街中で住民の避難誘導を始める直前、リカがEXギアの通話機能でアスカと連絡する。自分たちだけでは手が明らかに足りない。放課後ということもあって、すぐに出てくれた。
【どうしたの? ホームシックには早いんじゃない?】
「そうじゃなくてニュースとかやってない? こっち、天使の集団に襲われていて、信二がエクステラを呼びに行くくらいヤバイんだって。だから――って切れたし」
「混線しているのかな。とにかく私たちでやらないと」
リカとカナエ、後ろからすぐ合流してきた亀北生徒と一緒に大声で避難誘導を始めるのであった。
「いったい、なんだったのよ」
「誰からの電話?」
「リカだけど、天使に襲われていてヤバイんだって」
「えっ、そんなこと掲示板で……ってこれは!?」
掲示板に貼られた画像。それは天より湧いてくる天使の姿。最新情報を見ようと更新ボタンを連打するも、該当レスが削除されており、周りの反応もデマかどうか分からずにいる。
「でもよ、Sランクがいるんだろ。そう簡単にやられないって」
「あと、信二がエクステラを呼びに行ったらしいわ」
「でも、こっちからの連絡はつながらないって言っていたよね」
「それだけ切羽詰まっているってことでしょうか?」
「かもしれないわね。SNSみても亀北で何か異変が起こっているのは分かるけど、詳細が全然送られてこないのよ」
「駄目だ。俺の亀北の友達にもつながらねえ」
「大分やばそうだよね。皆で亀北に行かない?」
「でも、どうやっていくんだ。あそこ、大分遠いぜ。着いたころにはもう戦闘も終わっているだろ」
「そうね。転移魔法使えたら良いけど、私、遠距離は苦手なんだよね~」
「僕は短距離もあまり……」
「俺もカケルと同じ」
「えっ~と、私は飛べますけど、一人分しか……」
「しょうがない。こういう時のナルシスト先輩頼みよ」
「だね。先輩なら、僕たち全員を送るくらい余裕だよ」
「ああ、きっと先輩なら『後輩の頼みを聞かないなんて美しくないね』とか言いそうだ」
「リョウくんったら、先輩の物まね似てませんよ」
「別に良いじゃんか、そんなの」
ナルシーがいるであろう生徒会室の扉を開けると、そこではバトルアリーナで戦った元・ダンジョン部5人がナルシーと話をしていた。
「あれえ? ダンジョン部の人もいたんだ」
「ダンジョン部はお前たちになるんだろうが。俺たちはその手続きに来たんだよ」
「美しくないネームに勝手に変えられないように、部長と副部長含めて最低5名の署名がいるからね。それで、今日はどうしたんだい? 急ぎじゃないなら、これの処理を終えてから話聞くけど」
「すごく急ぎです!」
「そうよ、亀北が天使に襲われたって!」
「本当か? 俺のダチからそんなはな……あっ、着信来てた。って、繋がらねえ!?」
「こっちもだ!?」
「う~ん、どうやら、ただごとじゃないことが起こっているみたいだね。どうする、月影生徒会長さん」
生徒会長がうむと低く唸り、閉じていた目をゆっくりと開いてカケルたちを見る。そして、数秒後、再びその眼を閉じて、静かに言葉を発する。
「私の異能【予知】の魔眼で貴方達の未来を見させてもらいました。その結果、真っ暗な闇にあまりにも弱弱しい光。ここで私をNOと答えば光は潰え、YESと答えれば光は強く発する」
「闇ってかなりやばい予言だって聞いたけど? 副生徒会長の僕としては反対せざるを得ないよ」
「貴方個人としては?」
「もちろん、後輩の頼み事、しかも人助けとなれば、僕は彼らに美しく協力するよ」
「ではそのように。どうやら数十分後には軍から協力要請も来ますしね。その時に動けば、クレームは来ないでしょう」
「軍から? 学徒動員は美しくないよ。それに、あのSランクの生徒会長様がそこまで追い詰められるとは思えないけど?」
「どうやら事態は一人の力では治められる範疇を超えているようです。確か、10人程度を転移可能でしたね」
「そうだね。安定してと言われると10人が定員かな」
「ではそこの5人とみみみも連れていくと良いでしょう。彼、または彼女が必要としているようですから」
「それ、誰かと言わない?」
「さあ、どうでしょう。私は見えていることを話しているだけですから。久しぶりに力を使いましたし、しばらく休ませてもらいますよ」
「わかったよ。こっちで美しく対応するさ。というわけで、各自準備して軍からの要請が来しだい、亀北へ転移させる。いいね」
「はい!」
そして、エクステラへの協力宣言後、鷲崎からの要請により隕石は落ちた。
「って、あれ、あヤバくねえか!周りのもん無くなっているぜ!」
「ええ、だから、残り15分でアレを倒すわ」
「作戦は?」
「細部はまだ詰めるけど、作戦を伝える時間も考慮して、少なくとも大場リカ、氷堂生徒会長、森野副会長、溜守、横溝文太の5人を10分以内に連れてきて欲しいところね」
「リカと亀北の生徒会長、副生徒会長は分かるけど、後ろ2人が誰か分からないんだけど」
「佐門カナエ、大場リカの二人が知っているわ。特にカナエなら、二人を見つけるも容易。二人は公民館か小中学校のどちらかにいるはず。あと、次にあげるメンバーは必ず戻ってくること。天地カケル、……」
「――わかった。必ず戻ってくる。僕は一番遠い公民館に行くよ」
「よし、赤羽!お前も空をカッとんで行ってこい!」
「ああ、任せな!一人くらいなら運んでやるよ」
「私は短距離転移で亀北高校に行くわ」
「私も行きます。短距離なら一人くらい運べるかも」
各自、自分たちの強みを生かしながら、人探しと護送の任務にあたる。10分というあまりにも短いタイムリミット。もう少し余裕があればと思うが、作戦を聞いて覚悟を決めてもらうまでそれ相応の時間は要するのだ。彼らが戻ってくるまでにエクステラは少しでも成功率を上げるために、没にした案を詰めていくのであった。
それから10分後、エクステラが要請した5人とカナエを引き連れて戻ってくる。姿が見えない赤羽たちは抜けた穴を埋めるべく、向こうに残ったようだ。そして、エクステラが作戦を伝えると、それを聞いていくうちに作戦参加メンバーの顔色がみるみる青くなっていく。
「おい、待てよ。もし、その30秒以内に倒せなかったらどうするんだよ」
「成功させるのよ」
「だから失敗した時の……」
「失敗した時のことは考えなくても良い。成功するしかないもの」
エクステラの作戦。それは少しのミスが死につながるもの。リョウのように二の足を踏むのは内心では分かってしまう。
「でも、それしかないんだよね」
「ええ、それしかないわ」
「やろう」
「ちょっと、カケル正気!?」
「あと2分も無いんだ。一か八かやるしかないよ」
カケルの迷いのない言葉に皆、覚悟を決めたのか頷き、互いの武器を構える。そんな彼らの肩にエクステラが手を置き、全員と【接続】する。これだけの大人数の接続は初めてだが、これで彼らの力は大幅に強化される。
「うお!?すげー、力がみなぎってきやがる」
「ゴンゾーさん、これなら無茶な作戦もできそうじゃね」
「ああ、こんなちっこいのに凄いのう」
「ちっこいは余計よ。残り時間1分になると同時に作戦開始。私が第1層を斬るのと同時に全員突撃!みみみ、アスカ頼んだわよ」
時報が鳴り、ステラに交代したエクステラが次元斬を放ち、次元転移バリアを消失。それと同時に再び地にひれ伏す智天使級。すぐさまステラが信二と交代する中、みみみのぬいぐるみとアスカが前に躍り出る。
「マキシマムクラスター!」
「消し飛べええええ!」
浸食で弱っていた第2層にみみみの爆弾でひびが入ったところにアスカの自慢の拳が突き刺さり、粉砕する。
「第2層突破!衝撃を文太と音石の二人で上空に逃がしつつ、守を盾にしてIの字で突入!」
「いくらパワーアップしたからって、【凝固】で大きな壁を作れってめちゃくちゃだ!」
「無茶だろうがやるしかねえだろうがよ。1Lの特製ドリンクは補充済み。俺の【変声】フルパワー!デストラクション・ハウリング!!」
音による衝撃波で爆発をある程度そらしつつ、凝固で作った空気の壁が衝撃を斜め上にそらしながら発散していく。突入用にその壁の一部だけ開けられた穴から、漏れる衝撃もあるが、それは守が受け止め、後ろのリカが随時回復させている。
「いたたたたた、日焼け跡に海水を塗りたくられている気分ッス!」
「あたしのたまご肌に傷つけないように頑張って」
「頑張るけど、痛いっす!」
「第3層突破!守を後列に変更、水原、氷堂生徒会長で冷却開始!」
「まさか原点に立ち返る日が来るとはな」
「ビビっているのかよ、Sランクの生徒会長さんよお!」
「まさか、いくぞ!」
リカが後方にいるカケルに守を手渡している中、氷と水、二人の異能でギリギリ人間が通れる温度まで冷却していく。
「第4層突破!リョウ、堅井、森野副生徒会長、着弾後の攻撃頼んだわよ!」
エクステラが放った黒い弾丸が着弾し、浸食が開始される。それと同時に三人が一斉に突撃する。
「アイアンフィスト!」
「【突進】発動!どんなものでも轢いてやるぜ!ライノ・ハイパー・チャージ!」
「【権能】発動。これより、1分間、俺の拳はダイヤをも砕く拳になる!」
脆弱になった装甲に3人のパワー系アタッカーの攻撃がぶち当たり、粉々に砕く。そして現れたのは幼稚園児くらい幼い姿をしたコアだけだ。
「第5層突破!これで――」
コアがニチャリと笑う。それは今までの苦労が水の泡になるところを喜んでいるようにも見える。
【エネルギー反応増大!? カケルさんの速度でも攻撃が届く前にすべての層が展開されます】
「イレギュラー発生!」「時を凍れ!」
事前の打ち合わせ通りとはいえ、氷堂生徒会長はなぜ時止め能力を使わせるのかは分からなかった。動けるのは自分だけ。数秒の時止めが限界の自分にコアを破壊するだけの魔法は使えない。意味のない発動だ。
(いや、違う。今、私はエクステラから魔力供給をしてもらっている。つまり、私と他のメンバーはエクステラを介して繋がっている!)
『つまり、俺も生徒会長の一部として扱われ、止まった時の中を自由に動ける』
それは時の止まった世界で放った彼の言葉。異能を極めたことで孤独に追いやった能力が、今度は味方の窮地を救い、支援することになるとはなんと皮肉なのだろうか。
「《《第6層》》、コアがとっさに第1層と同じ次元転移層を張っている。私に剥がす余裕はない。カケル、貴方が剝がすしかないわ」
「分かった。やってみる。いくよ、ひかりちゃん」
「はい!」
「次元斬!」
エクステラの見よう見まねで放った斬撃でコアの膜が剝がれ、彼を阻むものはもういない。時は止まっている。コアは対応できない。
「自分が亀北を守るっす!!」
守の爆発的な一撃がコアを貫いた瞬間、時は動き出し、断末魔を上げながら、智天使級は消滅していく。それと同時に街中で応戦していた天使級たちは上空へと消え去っていくのであった。
「マジかよ、あいつら勝ちやがった……! ライチョウ少佐、軍本部に伝達しろ!我々は智天使級に勝利した。N兵器の使用をやめろってな!」
天使からの攻撃でボロボロになった街中からも湧き上がる歓声。事情を知らなくても、あの天使がやばいことは傍目からでもわかっていた。
到底不可能なことを成し遂げた十数人の子供たちは、魔力も体力も使い果たし、その場で大の字で倒れる。
「もうムリ。動けない」
「次元斬1回で魔力を大分消費しましたね」
「それを涼しげに使っているもの、エクステラはすごいよ」
「当然よ」
と強がってみたが、エクステラ自身も大人数への魔力供給で今にも倒れそうになっていた。ここにきて、ようやく無限と思っていた魔力の底が見えた形となる。今はかえって休みたい。その気持ちでいっぱいだ。
「とはいえ、ようやく戦いもおわ――」
「見事な戦いだったぞ、人間よ」
「誰?」
「この声、まさか――!?」
その場に居た全員が上空を仰ぎ見る。そこにあったのは黄金色に輝く鎧を着た男性の姿。頭にはヘイローが浮かび、彼の種族が天使であることを示す。そして、背中には3対の羽が生えており、彼の大きさこそ人並みだが、智天使級より一つ上の階級であることを告げていた。すなわち――
(なぜ、このタイミングで熾天使級、ラスボスが出るんだ!?)




