第33話 隕石
「N兵器を使用するだと!?」
ライチョウ少佐から聞いた軍本部の命令に鷲崎が激高する。あまりにも頭に血が登って、何も悪くない少佐の胸倉を思わずつかむほどだ。
「あのハゲは頭真空管か!」
「げほげほ、真空管って……肥沼准将にそんなこと言えるのは大佐くらいですよ」
「真空管ハゲのことはどうでもいい。N兵器を使うってのは本当なんだろうな。エイプリルフールはもう過ぎているぜ」
「嘘じゃありませんよ。軍本部は30分後にN兵器を亀北地区に向けて飽和攻撃。智天使級? でしたっけ。それを退治する」
「待ってください。30分では住民の避難が……」
「全員は無理だろうな。それでも少しずつ逃がすしかねえ。しかも、ヤクの密売人を逃がさねえように検閲しながらとなると、その数はさらに限られてくる。命の選別か……俺たちらしい汚れ仕事だな、これは」
「そのことですが、情報規制は維持しつつ、住民の避難は一切認めないとのことです」
「はあ!? ちょっと待て!あの真空管ハゲ、何トチ狂ったこと言ってやがる!」
「N兵器を使えば向こう数十年は除染作業で誰も住めない土地になりますし、避難民を税金で養うくらいならってところでしょう。ついでにヤクの売人たちも消せて一石二鳥」
「あの真空管ハゲらしい皮算用だが、こいつばかりは汚れ仕事すぎるだろうがよ」
「その代わりに昇進はさせるらしいですよ」
「二階級特進ってか。冗談にもほどがあるぜ」
「……それらの命令は本当なのですか?」
「本当です。冗談を言っている場合じゃないのは分かっているでしょう」
「モンスター退治ばかりで、清く美しく生きてきた自衛隊の皆様には分からねえだろうが、理不尽な命令なんてのはごまんとある。アンタ、たしかエクステラに法と秩序がなんたらかんたらって講釈たれていたな。言っていることは間違ってないさ。だがな!それは100年以上前に終わっているんだよ、ダンジョンが世界に現れてからな!」
リョウコを含め、自衛隊員はあのエクステラショックで痛いほどわかっている。自分たちの不用意な行動と言葉がどれだけ社会影響を及ぼしたのか、複雑化し、多種多様な異能が生まれてくる中で、法の整備が追い付いていないことも、そして自分たちの甘さも。理想を追い求めるだけでは、理想は実現できないのだ。
「とはいえ、久しぶりに俺も頭にきた命令だ。真空管ハゲがその気なら、俺たちも好きにさせてもらう」
「そ、それは軍規違反では……」
「おっと、そういや言ってなかったか。横紙破りは『大鷲部隊』のモットーだぜ」
「だから、佐官多いのにいつまで経っても最前線送りなんですけどね」
「カーカッカッカッ、俺が背広着てパソコン叩いてろって言うのかよ」
「大佐が5分以上じっとしていられるわけがねえ」
「3分の間違いだろ」
「いやいや、1分できたら飴ちゃんやるよ」
「カップ麺仕上がるくらいは待てるだろ、大佐でも」
さっきまでの陰鬱な雰囲気を飛ばすかのように、あちこちが笑い声が上がる。そして、彼らは残り30分で何ができるか独自で考え、実行するのであった。
一方、エクステラは智天使級と戦っていた。鷲崎の攻撃を自分でも確かめるかのように背後、上空、実弾・魔力弾の切り替え、砲撃魔法……いくらやってもかき消されてしまう。
「相性が悪いわね、ステラ、交代よ」
【美少女パワーで押し切ってあげますよ】
エクステラがEX-08のビームソードを握り、振りかざす。その一振りは次元さえ切り裂く一閃。智天使級の纏っていたバリアが消え去り、地面に足がついて倒れる。うかつに近づかずに、信二に交代し、銃弾を放ってもらう。
「さすがに硬いわね。でも、バリアさえ切れれば、【浸食】も通る」
【浸食すれば、こっちも解析ができ……なんとお!?】
「どうしたの?」
【解析の結果から言います。無理です。私たちではあの智天使級を突破することは不可能です】
「どうして? 浸食で智天使級の装甲は弱っているはずよ。時間はかかるかもしれないけれど、倒せないことは無いはず」
【私が次元斬で破壊したのはバリアの第1層目といえば、もうわかるでしょう】
「まさか、多層バリア!?」
【YES!第1層目はミキサーのように切り刻まれる次元転移層。第2層は高い防御力を誇る物理殻。第3層は大気中と触れてこの近辺を吹き飛ばす起爆層。第4層は第3層を爆発させるために必要な熱を供給するための高熱層。第5層は第2層よりも防御力が低いものの耐熱性に優れた物理殻。これらを突破したうえで極めて高い再生力をもつコアに一撃で倒せる火力を叩きこむ必要があります】
「じゃあ、今第2層を破壊したら!?」
「亀北一体が焼け野原になります」
すぐさま攻撃を中断し、下手にい手出しできない爆弾となった智天使級を見守る羽目になる。
【しかも、これらの層はおよそ30秒で再生します】
ステラの言葉を裏付けるかのように起き上がった智天使級が宙に浮くと同時に地面が消え、侵攻を開始する。
【逃げましょう。これは無理です。命を大事にです】
「肝心な時にしり込みするわね。でも、美少女ならこういう時は逃げないものでしょう」
【ノーブレーキ!? でも、わかるから悔しい】
「私たちがやれるのは一つ。最後まで戦うのよ」
次元斬で転ばし、起き上がったところを転ばす。とにかく時間稼ぎすること10分。業を煮やした智天使級が上空に向けて吠える。
【次元湾曲反応多数。発生場所は街中上空です】
「いくらなんでもマズイ!」
上空から降り注ぐ獣天使たちの群れ、こんなものが街に現れたら、避難場所はたちまち天使たちに囲まれてしまう。そうなれば、尋常な被害を出すのは明確だ。しかも、足止めが唯一出来るエクステラが迎撃に向かうわけにもいかない。
「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」
今まで感情を出すこと無かった智天使級が、お前たちの頑張りは無駄だとあざ笑うかのように笑いだす。とにかく上空から降ってくる獣天使を迎撃しようとしたとき、公民館側から多数のミサイルが上空の天使たちを撃墜する。
【聞こえているか、エクステラ!これより、大鷲部隊並びに傘下の自衛隊はお前に協力する!この協力関係は俺の一存であり、部下に一切の責はねえ!雑魚どもは俺たちが退治するから、お前はその糞野郎を20分以内に退治しやがれ!!】
それは街中にあるスピーカーから大音量で流れる鷲崎の言葉。その言葉に嘘・偽りがないことははっきりとわかる。だとすれば、後ろを気にせず、前を向けばいい。
「余計な魔力消費をしなくても良いのは助かるけど、あと20分しかないのはきついわね」
足止めを続ければ多少は伸びそうなのになぜ『20分』なのかは分からない。だが、タイムリミットがあるのであれば、それに従うまでだ。足止めに余計な魔力を回さなくて良いなら、その分を頭に回す。
(だが、どうやればいい。第2層までならどうにでもなる。だが、問題は第3層。焼け野原になる爆発をどうやって逃がす。仮に逃したところで、第4層以降の攻略もほぼ同時に行わなければ意味がない。そして、最後の関門はコアへのトドメ。5層バリアを破っても、それまでに大火力を温存する必要がある。イレギュラーへの対処も考えると……くっ、とにかく手数が足りない)
【いくら美少女でもこれは……】
信二があらゆる手を考え、ステラがあらゆるシチュエーションを演算するも結果はオールゼロ。万に一つの可能性もない。逆転は不可能。だが、それでも考えを止まない信二を見続けるステラ。その間も智天使級はゆっくりと街に近づいてくる。
残り15分。未だに可能性も見いだせないまま時間だけが過ぎていく。ステラが内心あきらめていても、エクステラは未だに可能性を模索し続けている。まるで、逆転の一手が来るのを待つかのようにあり得ない手すらも考え始めている。
【一体、なにを待って……】
「……信じられるものは救われると言うけれど本当になるとはね」
【えっ?】
「どうやら来たみたいよ、隕石が」
エクステラの探知魔法に引っかかる転移魔法。
今、この舞台には主人公の代役を務めていた『森山信二』は居ない。
ここにいるのはあくまでも『エクステラ』だ。
主人公のいない舞台はあるだろうか。
否
――だとすれば、『彼ら』が舞台に登るのは必然といえよう。
「助けに来たよ、エクステラ」
「って、ボロボロじゃない!」
どういう経緯があったのかはエクステラに知る由もないが、新・旧「ダンジョン部」の面々、計10人がエクステラの前に降り立つのであった。




