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ゲーム世界へ転生したモブ♂、死ぬ未来を回避するために美少女(偽)になる  作者: ゼクスユイ


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第31話 奇襲

 レイとの対戦の日。この日の放課後、体育館横にあるバトルアリーナでは生徒たちがその対戦を見ようと詰め寄っていた。この3日間で、彼らの間ではカナエとリカは数少ない可愛い女子ということでアイドル的存在になっている一方で、信二は一緒に同行した文太と守の言伝からか、「自分の異能を教えたら活用法を考えてくれる」奇人、よく言えばコンサルタントになっていた。


「どっちが勝つと思う?」


「ウチの生徒会長がCランク3人に負けるわけないだろ」


「だよな。俺なら、10倍居ても勝てる気がしねえ」


「リカちゃんたちに勝ってほしいんだけどな~」


「無理無理、柴犬とヒーラーが何ができるんだよ」


「でもよ、梅クラスの連中が言っていたぜ。頭のおかしい留学生がいるって」


「梅クラスの話だろ。松だと凡人だよ、そいつも」


「だよな~」


 レイの勝利。3人の評判を知っているはずのクラスの人たちでさえ、本気で勝てるなどと思っていない。ただ二人を除いては。


「勝てるんっすかね」


「さあな。だが、アイツがむざむざ負けるとは思えん。仮に負けたとしても、一矢くらいは報いるんじゃないか」


「文太君って、信二君のこと大分買っているっすよね」


「あたりまえだ。奴を俺に泥を付けた男だ。ならば、アイツに最初に泥をつけるのはこの俺だ!」


 問題を起こしがちだった文太も、ダンジョンから帰ってからは信二に追いつこうと真面目に授業に取り組んでいる。それを悪友に茶化されることもあるが、明確な目標ができた今となっては雑音にしか聞こえない。


(俺には皆目見当もつかんが、どうやって勝つつもりなんだ?)


 皆が注目される中、バトルアリーナのステージが発表される。それは挑戦者側である信二が選んだ廃墟ステージ。住宅地ステージとよく似た構成だが、廃墟だけあって逃げ隠れするスペースが多いため、死角が生まれやすい。スナイパーにとっては有利に働くだろう。


「信二君は銃使いだから、こういうステージは得意だろうけど……」


「ああ、これくらいの相性差、Sランクにとって無意味に等しい」


 そして、4人が飛ばされ、バトルが開始される。

 まずはレイが辺りを熱源感知すると同時に地面や建物を凍らせていく。周囲の気温差が違うほど、それが人体なのか発熱するダミーなのか判別は容易。下手な囮戦術をまずは封じる。


「少し距離があるな」


 サーチした結果、3人が近くに集まっている。一人は建物の3階。もう二人は地上。建物の中にいるのは隠れ潜んでいる状況や使う獲物も考えると、信二で間違いないだろう。


(こちらを迎え撃つ算段か?)


 下手に戦力を分散しても各個撃破されるだけ。ならば、分散せずに固まって迎撃するという戦略は間違っていない。


(考えられる戦術は2人を囮に不意打ちのワンショットキル。となれば、時止めを行い、急接近で二人を排除。時止めが解除される前に建物に侵入。後は実力差を突き付けて勝ちだ)


 とるべき戦術が決まったのであれば、後は実行するだけ。自身の有効射程を念頭に入れながら、1歩1歩、距離を測るように歩き、人影を確認する。


「時よ、凍れ!」


 世界が反転し、時が止まる。あらゆるものが制止した中をレイが走り抜ける。急接近するレイを感知することさえできないリカとカナエ。二人の弱点部位に攻撃しようとしたとき、二人が何かを持っていることに気づく。


「ビーズ? なぜ、そんなものを?」


 殺傷性の高いものでなければ基本的には持ち込みは可能。さらに地面をよく見ると、凍った地面の上にはビーズが散らばっている。よくわからない行動に戸惑いながらも、手にしている剣で二人の弱点部位を突く。そして、信二が潜んでいる廃墟に足を踏み入れるとまたしてもビーズが散らばっている。


 そして、時は動き出す。


 それと同時に地面に散らばったビーズが宙に浮き、レイを鎖のように縛り付ける。


「なに!?」


「二人がやられたということはこの建物内、もしくはその付近に侵入しているということ。ならば、異能の発動タイミングを掴むのは容易い。あとは俺の異能で踏みつけた氷堂生徒会長とビーズ同士をつなぎ合わせれば、即席の鎖とそれによる束縛が完成する」


 3階から降りてきた信二が手に巻き付けたビーズの鎖を見せながら、話しかける。

 普段は銃弾に魔力を込めてモンスターに攻撃して【接続】しているが、それは銃弾でなくても良いのではないかと考えた。つまり、ビーズを銃弾とみなし、リカやカナエを銃とみなせば、彼女たちが撒いたビーズは銃から放たれた銃弾と概念上は同一である。

 そして、ビーズを踏んだレイは銃弾に撃たれたのと同一と言っても差支えはない。それが時止め中の出来事であろうと。


「俺の魔力で練り上げたビーズの鎖はそう簡単には切れない。時止めは連続で撃てない。これで俺の勝ちだ」


 身動きができないレイに向けられる銃身。このまま頭を撃ち抜かれたのであれば、間違いなく致命傷判定。一発退場だ。


「甘いな。私の時止めのクールタイムはお前が考えているより短いぞ。そして、時を止めれば、お前の魔力供給も止まる。つまり、ただのビーズに成り下がる。これが正真正銘、最後の時間停止だ。時よ、凍れ!」


 信二が銃弾を放つと同時に世界が反転する。放たれた銃弾は空中でピタリと止まり、動かない。あとは信二にとどめを刺すだけだと体を動かそうとしたとき、未だに拘束されていることに気づく。


「馬鹿な、なぜ……まさか!」


 止まっているはずの信二を見る。そして、彼女の戸惑いに応えるかのように彼の口が動く。


「やれやれ、言ったはずだ。俺の勝ちだとな」


「なぜ、止まった時の中を動ける」


「漫画の話になるが、俺は時止め能力者がなぜ動けるのか考えていた時があったんだ。いわゆる高2病ってやつだ。だって、そうだろう。時が止まっているなら、自分の靴も動かないし、空気も止まっているなら呼吸もできない。だけど、漫画のキャラはたちはそういったことに陥ることはない」


「何を言っている?」


「それで、俺が出した結論ってのが自分の周囲のものは動くと言うものだ。じゃあ、この周囲ってのはなんだって考えると、一番わかりやすいのは自分の触れているものってのがしっくりくる。自分が触れている空気は動くから呼吸もできる。着ている服や靴が拘束具になることもない」


「それがどうした?」


「氷堂生徒会長、貴女の時止めはこの屁理屈と同じで触れているものは例外として動くことができる。そして、俺と生徒会長はこのビーズの鎖でつながっている。つまり、俺も生徒会長の一部として扱われ、止まった時の中を自由に動ける」


「し、知らない……そんな、制約」


 レイの目におびえの色が見える。これが自分の知っているデメリットであるならば、まだ受け入れたかもしれない。だが、目の前の男は自分の知らない情報を見抜いてきたのだ。それはまるで、化け物でも見るような目であった。


「まあ、仮定が多すぎて、通用するかどうかも分からないこの策は本当に最後の策。できれば時止めのクールダウン中にとどめを刺すつもりでした。そろそろ時止めも解除される頃合いでしょう。そして、時は動き出す」


 放たれていた銃弾がレイを貫き、リタイアになる。傍からすれば、ビーズの鎖で雁字搦めになった後、抵抗できないまま撃たれたように見えるだろう。だが、その内容は彼女の心をぽっきりと折るのには十分だった。


「わ、私が負けた……」


「……………………………」


 魂が抜けたかのようにつぶやくレイと静まり返った会場。何が起こったのか理解できない。いや、理解したくない。Sランクとは人の域を超えた者に与えられるもので、最強の称号と言える。それが一般人レベルのCランクに負けるはずがない。

 だが、目の前で起こっているのはなんだ。最強であるはずの生徒会長が敗者のように横たわり、格下の留学生が勝者のように見下している光景は!?


「手を抜いたつもりはなかった。なぜ……」


「貴方の敗因はたった一つ。シンプルな答えだ。仲間が居なかった」


「仲間?」


「もし、横に並びたてることができるような仲間が居れば、時を止めてでも守りたい仲間が居れば、時止め中にその手を握るようなことがあったかもしれない。そうなれば、この隙を突かれることは無かった」


 レイは時止め能力習得まで自身の異能を極めた後のことを思い出す。確かに、慕ってくれたクマジロウをはじめ、パーティーを組んでダンジョンに潜ることはあった。だが、自分が時を止めて攻撃すれば仲間を危険にさらすようなことは無いと考え、次第に自分一人きりで戦っていたのではないかと思い始める。


「この戦いを見た人たちにも聞いてほしい。確かに強い異能を持つ、強力な力を持つ。確かにそれは重要なことだ。否定はしない」


 信二は思い返す。ステラと会う前、無能力者だと思い、笑われながらも修練を積んでいた日々を。そして、力を得ようとしてステラと会ったことも。


「だが、自分一人で出来ることには限界がある。だが、仲間が一人、二人といれば出来ないこともできるようになる」


 エクステラになった後も、一人で天使を倒すことができても、サキを救出することなんてできないし、ましてやドクターとの決戦をほぼ最良の結果で終えるなんてことはできない。それは信二が経験した真実なのだ。だから伝わってほしい。


「だから、薬物なんて手を出す前に自分を、そして隣にいる仲間を見て欲しい。自分が何ができて、その人と手を組めば何ができるか、考えて欲しい。自分ができることが分からないなら、俺が相談に乗ってやる」


 薬物依存なんて一朝一夕で解決できる問題じゃない。エクステラになって薬物の供給源を断ったとしても、レイの言う通り彼らの意識を変えなければ、いつか同じ目に会うだろう。このスピーチが彼らの心にどこまで届くか分からない。もしかすると、この後すぐに手を出すかもしれない。だが、一人でも心に響く者がいるなら、それは意味のあったことだろうと信じたい。


 パチ……パチパチ……パチパチパチ


 まばらな拍手がどんどん大きくなっていく。

 それは信二のスピーチが彼らに何かしらの影響を与えた何よりの証拠だ。


(あとは薬物の供給源を断つだけ。となれば、怪しいところは……)


【大変です!】


(どうした?)


【次元湾曲反応多数。天使の大群、来ます!】


(馬鹿な!? 天使の襲撃はまだ当分――まさか)


 原作ゲームでカケルがレイと戦うのは天使の大群と戦う直前。そして、主人公の代役である信二がレイが戦ったということは天使の襲撃イベントが起こるフラグを成立させたということになる。


(残りの期間をみんなの強化とエクステラによる襲撃作戦をする予定が……イレギュラーにもほどがある!)


 だが、嘆いている暇はない。信二は会場を抜け出し、外を見る。そこには空を埋め尽くさんとする多数の天使。これから先、振り返ったとしても信二にとってあまりにも長い放課後が始まるのであった。

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