第30話 爆弾
「みんな、無事か」
「いてて、なんとかな」
「みんな、回復するから近くによってね~」
「ずいぶんと深くまで落ちたね~天井見えないや」
ライトで照らしても広がるのは闇の空間。落ちている間に全力で肉体強化をしてなかったら、今頃トマトケチャップになっていただろう。
「中層の最下層、いや、下手すれば下層に落ちているかもな」
「マジッスか!?」
「慌てる必要はない。こういうときにこそ緊急脱出装置がある」
「そうッスね。じゃあ、さっそく……あれ?」
「作動しないよ?」
「あたいのも」
「俺のもだ。落下時の衝撃で壊れたのか?」
(ステラ、俺のは?)
【故障はしていませんね。恐らくですけど、何かしらのジャミングを受けている可能性が高いかと】
(天使がいる可能性は?)
【亀北に来てから、あのへんてこ薬がノイズになっているせいで、ハッキリしないんですよ。薬物ダメ!ぜったい!】
「……壊れてはなさそうだ。もしかすると天使が近くにいるかもしれん」
「そういえば校舎裏のダンジョンに出た時も使えなかったね」
「マジ? 天使ってあれでしょう、エクステラの配信とかで出てきた金ぴか」
「ってことはアレか、そんな奴らと戦わないといけないのかよ。Bランク相当だって聞いたぜ」
「大丈夫なんすか?」
と守が問いかけた時、ドスンドスンと地響きが鳴る。出てきたのは下層クラスでは頻出するモンスター、ミノタウロスだ。武器は持っていないため、弱い個体ではあるが、サイズは通常よりも大きめ。強さ的にはC+といったところ。
「逃げるッス!」
「逃げるってどこに!唯一の出入り口はアイツの後ろだ」
「つまり、突破しないといけない」
「そんなの無理ッスよ」
「やれやれ、過小評価にもほどがある」
信二がそう言いながら、守の頭をワシ掴みにする。やられた守が?マークを浮かべながら、信二の言葉を待つことにした。
「俺の異能は攻撃した相手と誘導する能力。あとはミノタウロスに攻撃を当てればそこに誘導することができる」
「いや、ちょっと待って」
「それ、ヤバくない?」
「何言っているんッスか?」
「さあ、分からん」
「で、お前は落下時のエネルギーを蓄積している。あの高さ、蓄えられたエネルギーは相当なはず」
「それって、つまり……そういうことなのか?」
「いやいや、さすがにそんな人間爆弾みたいな非人道的なこと……」
男子二人がようやく信二の意図に気づくも、すでに銃弾はミノタウロスに放たれている。放たれた銃弾がミノタウロスの肉に食い込むも、致命傷にはならない。
「ゲームで言うところの合体技だ。行くぞ、人間キャノンボール!!」
「やっぱそういうことなんっすねええええええええええええ!!」
勢いよく飛んで行った人間砲弾、もとい守がミノタウロスに突撃すると同時に蓄えられていたエネルギーを放出、ミノタウロスの頭部を一発で吹き飛ばす。期待以上の戦果を挙げた守を今度は優しく引っ張り、キャッチする。
「言っただろう、過小評価だと。お前は頑張ればミノタウロスくら――」
「なんだか爆弾になった気分っす」
「おい、そこでなぜ落ち込む」
「森山君は人の心が分からない」
「これは信二君が悪いね~」
「俺のせい……だな、これは」
信二は反省しつつ、顔をゆっくりと出しながら、通路を進んでいく。大型モンスターが出るせいなのか上層や中層よりも天井が高く、炭鉱内であることを忘れてしまいそうだ。
「ホアチョー!」
「アチョー!アチャー!」
「アタタタタタタタ、ホアチョ!」
通路の奥からふざけたような掛け声をしながら戦闘をしている音が聞こえたので、急いで走ってみると、そこにはミノタウロスや骸骨系モンスターの上位種スケルトンキラーといったモンスターがわんさかいるモンスターハウスの中でたった3人で戦っていた。
「あの人、ミノタウロスをワンパンしたよ」
「あっちはキラーの攻撃を完全に見切っているな。かすりもしない」
「まさに一騎当千っす」
「ってか、あいつら梅クラスの連中じゃね?」
文太の言葉を聞いて改めて信二がじっくりと顔を見る。確かにあんな顔の奴がいたかもしれないが、投降して初日、はっきりとは覚えていない。
「さぼりの常連だから覚えてなくても仕方ないっす」
「ああ、授業中、空いてる席がちらほらあるくらいだからな」
「松クラスはそんなの無かったよ。設備も最新のがそろっていたし」
「梅は昭和レトロと言った感じだ。個人的にはこちらの方が肌に合う」
話がそれてしまったが、本来なら格下と思われる梅クラスの生徒たちが下層で多数のモンスターを圧倒している。これが順当に強くなったのであれば、喜ばしいことだが、よくみると彼らの動きはどこかぎこちない。意味もなく壁や敵にぶつかったり、攻撃が空振ったりと体の速さに認識が追い付いていない、強化された能力に振り回されているそんな感じだ。
そんな彼らをほっといて、タロの探知能力と信二の広範囲サーチでモンスターと出くわさないルートを選びつつ、出口を探していく一行。
「異能初心者の俺が言うのもあれだが、まずは自分の異能で何ができるかEランクのダンジョンで色々と試すべきだな。あれだとただの力押しだ。成長しない」
「お前が初心者なら、俺は自分の能力もろくに知らない子供か?」
「自分は赤ちゃんっすね」
「ところがどっこい、信二君って異能に気づいてから」
「わずか数か月のスーパールーキーだったりしま~す」
「ふっ……(プライドが粉みじんになった)」
「……受精卵からやり直すっす」
「まあ、俺の異能が汎用性に富んだものだったというのもあるが、これを機に自分の異能を見つめなおすのも良いと思うぞ」
「そうっすね。もしかすると爆弾以外の使い方もあるかもしれないっす」
「どうだろう、森山君が爆弾扱いしか思いついていないかも~」
「ち、違うっすよね。自分、爆弾じゃないっすよね」
「……考えておく」
「これ、思いついてないって顔に出てる~」
「文太君はどう思うっすか」
「なぜ、そこで俺に振る!? そもそも、下の名前で気安く呼ぶな。お前とはそんなに親しい間柄じゃないだろうが」
「えっ、自分の異能よくわかっていない同盟の一員じゃないっすか」
「なんだ、その不名誉な同盟は!? いち抜けさせてもらうぞ」
「所属はしていたんだな」
「あっ、そこは認めるんっすね」
「うるさい。ともかく、秋の大会で俺とお前、格の差を教えてやる」
「(代表に選ばれるかは分からんが)そのときを楽しみにしている」
探査魔法に出入口らしき反応がかかり、タロも近づいたのか少し小走りで歩く。しばらく道を右へ左へと曲がり、たまに守が爆発しながら、道を進んでいき、上の階層へと続く階段を見つける。そして、中層に戻ったことで、緊急脱出装置が無事作動し、地上へと戻るのであった。
「大変な目にあったな」
「本当そうっす。何回死ぬかと」
「命あっての物種だ。それと、今日のことは誰にも言うなよ!」
「えっ~、せっかくだから一緒に何か食べようよ」
「そうそう、まだ明るいし~」
「……分かりました。こんな僕でよろしければ。美味しいお好み焼きの店知っているんですよ」
「触られただけでトマトみたいに赤く……」
「ここまでわかりやすい性格だったんっすね、文太君」
「まあ、ツンケンしているよりかは良いんじゃないか」
「そうっすね」
(あとはダンジョンの床が崩壊した理由だな。元々そういう地盤なのか、俺の知らないモンスターの仕業なのか、それとも……さすがに情報が少なすぎるか)
今日の出来事を頭の片隅に入れつつ、予想もしなかった下層からの帰還を果たした5人は町にある鉄板焼きの店へと向かうのであった。




