第29話 亀北ダンジョン
【私はキレています】
(ステラ、どうした急に?)
【なんで美少女が居ないんですか!】
(亀北は元が男子校だからな。女子が圧倒的に少ないのは致し方ないだろう)
【美少女成分下さい】
(放課後になったら、カナエたちとダンジョンに潜ればいいだろう。もしくは昨日できなかった湯煙り観光しても良い)
【それ、グッドアイデアです】
(わかったら、授業中は静かにしてくれよ)
板書しながらあたりを見ると、寝ている者、授業中にもかかわらず離席して戻らない者、そもそも居ない者が半数といったところか。授業内容も基礎を教えるようなもので、正直なところ、自習でどうにかなる内容だ。
表向きの留学の収穫はなさそうだなと思いつつも、放課後になると、文太がズシズシとやってくる。
「やい、俺とバトルしやがれ!」
「今日はダンジョンでも潜ろうかと……」
「それよりも俺とタイマンだ!今度はあんな卑怯な手に引っかからねえぞ」
「ああ、分かったよ。タイマン以外は公式ルールで1戦だけな。それと輩たちに話を通してからで良いか」
「それくらいは別にいいぜ。どうせお前と同じ軟弱野郎なんだろうけどな」
「そうだ、守。一緒にダンジョンを潜らないか?」
「良いんすか?」
「こっちに来たところで人手不足なんだ。一人でも多い方が助かる」
「はん、お前らみたいな雑魚、どうせ足引っ張るだけだ」
「お前も俺たちと同じクラスだろ」
「うるせえ。第一、お前のせいで無様晒したから落第したんだよ」
「ってことはあのときは竹クラスだったか」
「そうだよ。文句あるか!」
「特にないな。待たせるわけにもいかないから、お前も来るか? 本校舎前で待ち合わせだし」
「別にいいぜ。お前の先輩のツラ拝んでも」
三人で本校舎で待っているとリカとカナエのところに言った瞬間、文太に稲妻が走る。女生徒がそもそも居ないところにゲームのメインキャラ、つまり美少女がやってきたらどうなるか。答えはすぐわかることとなる。
「やっほー、守君とその隣の子は? 」
「ああ、紹介するよ。こいつは――」
「初めまして、お嬢さん。僕は横溝文太と言います」
「おい、金ぴか丸」
「変なあだ名は良したまえ。君と僕との仲じゃないか」
「キャラがいきなり変わったッス」
「さっきまでバトレと言ってきたお前はどこへ行った」
「バトル? いやだなぁ。留学初日に勝負を仕掛けるような真似、僕がするはずないじゃないか」
「手のひらギガドリルッス」
【薬物をするようなタイプじゃなさそうですね~】
(まあ、ある意味、キマってはいるがな……)
「面白い子だね。じゃあ、一緒にダンジョン潜ろうか」
「ええ、お付き合いしますとも」
「……行く前に二人の異能を教えてくれないか?」
「なんでお前なんかに――」
「教えて欲しいな~♡」
「はい♡ 僕の異能は【凝固】。空気でも水でも固めることができる能力です」
「自分は【蓄積】。受けたダメージの一部を蓄えて放出するッス」
「【凝固】と【蓄積】、色々と応用が利きそうだ」
「そうッスか? 自分で言うのもアレッスけど、使いづらいっスよ」
「火力ねえし……」
「ならば、ダンジョン攻略でその使い方を色々と模索してみよう。行くのは有名な亀北ダンジョンだろうな」
「おいおい、あそこは下層よりもさらに下、深層もある難易度Aランクのダンジョンだ」
「確か入るのに国の許可がいるんッスよね」
「それは深層の場合だな。中層の第一階層までなら、Cランクの俺たちでも無許可で入れる。やばくなったら即撤退。それで良いか」
「それなら別に……」
「頑張るッス」
「Let's GO~!」
5人で北亀高校の裏手にある山の中腹、今は使われていない炭鉱の入り口がそのままダンジョンの入り口になっている。ライトをつけて歩いていくと、目の前にうめき声をあげながらゾンビが歩いてくる。
「死人が多い地域だとアンデッドエネミーが湧きやすいとは聞いたことあるな」
「冷静に見ている場合かよ。迎撃するぞ。喰らいやがれ、エアーハンマー!」
漁港させた空気を思いっきりぶん殴ってゾンビの頭を吹き飛ばす。それに負けじと守も突っ込んで殴り飛ばすが、別のゾンビに捕まり嚙まれてしまう。
「し、死ぬッス~!?」
「そんな雑魚に捕まっているんじゃねえよ」
「リカ、【回復】に解毒の効果は?」
「もち。あるに決まっているじゃん。麻痺でも治せるし〜はい、回復」
「毒が回らなくて助かったッス」
ちょっとしたヘマをしつつも、ゾンビを撃退した5人はさらに奥へと進む。今度はアンデッドドッグ。ゾンビ化した犬だ。ただのゾンビよりもすばしっこく、群れと遭遇した場合、並みの探索者は死を覚悟することもある。だが、犬系モンスター最大の特徴である嗅覚はゾンビ化したのと引き換えに失われており、こちらにはまだ気づかれていないようだ。
「アイツ、当てにくいから苦手なんだよな」
「なら、俺が行こう」
地面に鎖を置き、手に持ったサブマシンガンでアンデッドドッグに銃弾を放っていく。だが、アンデッドは頭を吹き飛ばさない限り、中々死なない不死性を持っている。アンデッドドッグがダメージを負いながらも、詰め寄ってきたところに鎖が飛んできて、まとめて拘束される。
「たとえ、決め手にかけて倒せなくても拘束さえすれば問題ない。文太、お前の異能でも似たことはできるんじゃないのか?」
「いや、俺の異能で拘束なんかできないぞ?」
「たとえば、モンスターの周りを空気の壁で覆うようにするとか。エアーハンマーの強さを見るに密度も高い。でなければ、アンデッドとはいえ、一撃では倒せない。そう考えるとそのまま押しつぶせそうな気もするが――」
「おい、なんで、こいつは俺よりも俺の異能のことを知っているんだ?」
「私たちに聞かれてもね~」
「小さいころに想像するだろ、漫画キャラみたいに火や雷を操る超能力者になったら、ああしたい、こうしたいとか……」
「いや、別に。生まれた時から、この異能を持っているから、別能力なんて考えることもない」
「うん。みんな、自分の能力持っているからね~」
「そうっすね。考えたことも無いっす」
「そういうものなのか」
ちょっとした世代間、いやこの場合は異世界間ギャップとでもいうのだろうかと感じつつも、再びアンデッドドッグに出くわし、今度は信二が言ったようにやってみる文太。
突如として生えた見えない壁にぶつかり、ガリガリとひっかくも、空気の壁が傷つくことは無い。じりじりと迫っていき、圧迫されていったアンデッドドッグは死肉へとかえるのであった。
「ははん、こいつは楽だ」
「みんな、すごいっす。それに引き換え、自分は……」
「中層に行けば出てくるモンスターも変わる。そのときは働いてもらうさ」
「そうだよ。私のタロなんか、トラップ出てこないせいで愛でるだけになっているもん」
「わん!」
「なんか犬に同情された気分っす……」
守がしょぼくれながらも、階段を下りて中層へ。この辺りまでは一般人が気軽に来れる場所もあって、他の探索者も見受けられるほど人気だ。中には配信者も見受けられ、その多くがピッケルを手にしてダンジョンの壁を掘っている。
「質問!なんでみんな発掘しているの?」
「中層以降のダンジョン壁には金やダイヤモンドが埋まっているから、一獲千金を狙う輩が多い」
「マジ!? あたいたち、金持ちになるじゃん」
「まあ、中層は掘りつくされてもう無いって噂だけどな。やるなら下層じゃねえと」
「確か深層にはヒヒイロカネとかミスリルがあるって聞いたことがあるッス」
「迷信だろ。俺だって聞いたことあるけど、名産になってないし」
「今日は欲をかかずに中層止まりだから、発掘は考えなくて良いだろう。と言っても、これだけ探索者が多いと狩れるモンスターが残っているのかが怪しいけどな」
「そういうところは中黄って良いよね」
「難易度は低いのに数だけはあるせいで、どのダンジョンも過疎だからね~」
「だから、遠征したんだけどな」
「で、俺に会ったと」
「運、わりぃ」
そんなことを言いながらも、彼らの前にロックアルマジロが現れ、丸くなって勢いよく突進してくる。それを前に出た守がその攻撃をわざと受ける。
「蓄積、解放っす!」
受けたダメージを乗せた拳がアルマジロの外皮にある岩を砕き、内部までそのダメージを浸透させる。衝撃で内部をめちゃくちゃにされたアルマジロはふらつき、倒れたところを信二の銃弾でとどめを刺されるのであった。
「ロックアルマジロは物理防御が高いモンスター、それを一撃で倒すとはな」
「いや~、このあたりで自分が倒せるのコイツくらいっす」
「俺たち3人は誰も真似できん。文太は?」
「……癪だが、よほど硬い物でも凝縮しないと一撃は無理だろうな」
「過信するのは良くないが、自信を持つことも重要だぞ。下卑てばかりだと成長しない」
「は、はいッス!」
「なんだか、森山君、引率の先生みたい」
「教えるのうまそうだしね~」
「そ、そうか……?」
前世含めて初めてそういうことを言われた気がして照れる。それを見た女子二人がちゃかしてくるので、さっさと他のところへと移動しようと矢先、地面が大きく揺れる。
「なんだ!?」
「地震!?」
「ダンジョンで地震なんて聞いたこと無いぜ」
元々炭鉱だったこともあって地盤が悪かったのだろうか、信二たちが居たエリアに大きな亀裂が走り、崩落するのであった。




