第28話 登校と新たな仲間
翌日。亀北高校前に来た信二たちは頂上まで続くずらりと並んだ石階段を眺めていた。
「これが亀北高校名物、千段階段か」
「「イエ~イ」」
先輩二人はパシャリと写真を撮り、SNSにあげていた。昨日し損ねた観光分を取り戻すかのようなはしゃぎっぷりである。わずかばかり肉体強化して、階段を上っていくとトボトボとへばりながら歩いている鉢巻をつけた男の子がいた。
「大丈夫? 【回復】」
「別にケガして……あれ、ちょっと体が軽くなったッス」
「ちょっと体力を回復してあげた。この感じだとオーバーワークによる疲労じゃな~い。あたいみたいに息抜きしないとだめだよ」
「あっ、はい!ってここいらじゃあ、見かけない顔ッスね?」
「あたいたち、今日からここに短期留学することになったの」
「そういうことッスか。自分は1年の溜 守ッス!」
「俺と同じ1年か。俺は森山信二だ。信二で良い」
「自分も守で良いッス!うおおおお、この漲るパワーで一気に駆け上るッスよ」
「お、おい、そんなに走ったらまた息切れするぞ……って行っちまったか」
「元気な子だね。私たちも遅れないように急ぎ足で登ろうか」
やや駆け足気味に階段の上まで登ると、木造建築の校舎が見える。まるで昭和の世界にタイムスリップしてきたかのような感覚に囚われながらも、3階の生徒会室へと向かう。
「職員室じゃないんだな」
「亀北って強さが正義がモットーだから、教職員含めてもSランクの生徒会長さんに勝てない=一番強い権力を持っているって友達が言っていた」
「それ、色々とまずくないか?」
「良いじゃん、別に。わかりやすくて」
「いや、どう見てもいじめの温床になるだろ。極論だが、いじめている奴が教職員よりも強かったら何しても良いって論調にならないか?」
「そこは生徒会長さんがしめているんじゃない?」
「……だと良いんだがな」
生徒会室に入ると、レイとクマジロウの二人が信二たちをソファーに座らせる。歓迎するような明るい雰囲気ではない重苦しい空気の中、レイが口を開く。
「昨日はウチの生徒が粗相をしたようだな。申し訳ない」
「粗相? あれはどうみても薬物による禁断症状だ。あの手厚い歓迎のせいで、この学校はあれが普通かと思ってしまったぞ」
「森山君、ちょっと言い過ぎ」
「いや、そう言われても仕方あるまい」
「薬物について知っているなら、その経緯を聞いても? 何しろ、こちらはそちらに身を預けるのだから、知る権利があると思いますが」
「分かった。私の知る限りのことを話そう」
元々、この学校は弱肉強食をモットーとし、成績上位2割を松クラス、成績中堅5割を竹クラス、残る最底辺3割を梅クラスと振り分け、クラスごとに待遇に差をつけることで競わせていたそうだ。
そして、事の起こりはおよそ1か月前。梅クラスの一部の生徒が突如、竹や松クラスを下剋上できるほどに強くなっていたらしい。それは学校の方針的にも喜ばしいことで、そのときは静観していたそうだ。だが、この1週間、下剋上に成功した生徒たちの様子がおかしく、一部の生徒は行方をくらましているそうだ。
「なぜ、そんなことが起こっているのに公になっていないんだ? まずは警察に相談すべきでは?」
「やったが、行方不明者はただの家出。薬物中毒に関しては中毒になるような薬物の所持は無かったと言われている」
「しかし――(いや、待て。俺はあれらの資料があるから知っているわけで、表ではANG値など計りようがない上に、しかも見た目はただの金粉。違法性など疑われる理由が無いのか)」
「ああ、分かっている。怪しい物があることくらいはな。だからこそ、頭が痛い。君たちを宿舎に止まらせずに民間の宿に泊まらせたのも薬物汚染の被害を防ぐためだ」
「そこまでして俺たちを留学させるメリットが無いように見えますが?」
「君と戦いたいのは噓偽りなく本音だ。ただ、正しい手段で戦う姿を見れば、少しは態度を変えるのではと思ってな」
【戦っている姿を見せて改心。美少女ですね~】
(だが、なりふり構わん奴は何を見ようとそう簡単には変わらん)
【それは美少女じゃない答えですよ】
(仕方がない。こうなればよほどのインパクトを与えて目を覚まさせるとしよう)
「……事情は分かりました。それでは、3日後、氷堂生徒会長との親善試合をしましょう」
「本当か!」
「無理しなくても良いんだぞ」
「ただ、そちらとの戦力差を考えて俺たち3人と生徒会長1人のハンデ戦。場所はこちらで決めさせてもらう以外は公式ルールに則るということでよろしいでしょうか」
「それだけで良いのか? いや、私の代名詞である時止めを使うなとか剣戟だけにしろとかおもりをつけろとか」
「本気で戦ってもらわないと、生徒の態度を変えるなど不可能でしょう。時止め? いくらでもどうぞ」
「ちょっと、いくら何でもそれは無理じゃない!?」
「そーだって!せっかく他にもハンデつけてもらえるんだし、色々やってもらったら良いじゃん」
「そうだぞ。なんだったら、俺がお前ら側についてやっても良いんだ」
「と言っているようですが、まさか、人外とも言われているSランク様がたかがCランク3人に負けるかもしれないと思って予防線を張っているということはないでしょう?ねえ?」
「「「煽るな!」」」
「フハハハハハハハ!まさか私を挑発するような男が出てくるとは思わなかったぞ。良いだろう、一切の油断も無く、指一本触れさせることも無く瞬殺してやろう。無論、試合前の握手も含めてな」
(バレてる――!ゴンゾーさんのときの策が使えないよ)
(ちょーヤバイって!?)
「ええ、いい試合にしましょう。生徒会長の本気、真正面から破って見せましょう」
(おいおい、本気の姐さんを相手にいい試合なんて、Sランク候補の俺でもできるか分かんねえぞ)
それくらい愕然とした差があることを身をもって知っているクマジロウは信二を狂人の類ではないかと思うほどだ。それともハッタリ野郎かと。
(いや、違うな。あれは本気で勝ちに行く目だ。だが、時間に干渉できるのはSランクの中でも上澄み中の上澄みだ。俺でも打ち破るのはタイミングを合わせないといけない。一体、お前はどこに勝機を見出している?)
信二の思考が読めない中、さらに発言を続ける。
「ところで、俺たちはどのクラスに編入されるのでしょうか?」
「もちろん、松に決まっている。留学生を最底辺の待遇なんてするわけがなかろう」
「でしたら、俺だけを梅クラスに編入させてください」
「正気か?」
「薬物を手に入れるルート、それを探るためにも必要でしょう」
「いや、お前たちにそこまでのことを頼むつもりは……」
「そうだよ。カケルくんたちみたいに危ない橋を渡るのはさあ……」
「ちょっと命かけすぎだって」
女子三人が反対していると、クマジロウがため息をついてから話す。
「レイ、コイツの目を見てみろ。これは死線を掻い潜ってきた男の目だ。梅の連中が少々ドーピングしてようが、敵うことはないさ」
「クマ公がそういうなら、そうするとしよう。クマジロウ、梅クラスの校舎に連れていけ」
リカとカナエはレイの後を付いて本校舎の2階に、信二はクマジロウの後を付いて西側の校舎の1階に向かう。軋む床を歩き、松クラスの教室に入るとスキンヘッドやモヒカン等のいかにも世紀末といった顔つきの男子生徒たちが机に脚を乗せて座っている。
「これが留学生くぅ~ん?」
「森山信二と言います」
「こんな小っちゃいのが、ゴンゾーさんを瞬殺をしたなんて――」
「アアア――!お前はあのときの!」
「ん?」
「忘れたとは言わせねえぞ。ダンジョンで砂地獄に落としやがって!」
「ああ、あのときの金髪君か。というより、お前1年だったんだな」
「金髪君じゃねえ、横溝文太って名前があるんだ」
「文太か、覚えておこう。あの二人は元気にしているか。このクラスにはいないようだが。それともあいつらは上級生か?」
「下の名前できやすく呼ぶんじゃねえ。それにアイツらは……ってそんなことよりもあのときの借り、今すぐ返して――」
「むにゃ? って留学生君じゃないッスか」
「守も同じクラスだったんだな。よろしく頼む。あと、居眠りは良くないぞ」
「ごめんッス」
「なんだ、知り合いがいたのか。どうりで梅クラスに行きたいわけだ」
「知り合いじゃねえよ」
「知り合いッス!」
「まあ、後は仲良くやりな。困ったことがあったら、俺に相談してくれ」
色々と誤解を生みながらも、クマジロウは外に出ていくのであった。




