第27話 異なるシナリオ
マイクロバスに揺られること2時間弱。トンネルを超えた先には小高い山々に囲まれ、温泉の湯気が立ち昇っている街並みが見えてくる。
「これが亀北地区名物」
「「温泉!」」
せっかく用意してくれたマイクロバスだが、信二の他にはカナエとリカの二人しかいない。学校側から前歴がついている者を代表として出すのはと渋り、この3人を送ることとなったのだ。そして、右のハートの8をゆっくりとずらすと、リカが自信満々に「その手には引っかからないよ」と言って、左のJOKERを勢いよく引く。
「ぐえ~」
「悪いな、心理戦は得意なんだ」
「森山君っていつもポーカーフェイスだもんね。もっと笑えば良いのに」
「分かる~カナちゃん、引いて」
「じゃあ、コレ。あがり~」
【いや~、バスの中でトランプ。美少女2人を侍らせて、このハーレム系主人公!】
(いや、ただの先輩後輩だが?)
【鈍感系主人公は美少女には必須ですからね~】
(誰が鈍感だ。それに俺は主人公じゃない。まあ、俺のせいで肝心のカケルが不在だから、こうして代役になってしまっていることを踏まえると、あながち間違ってはいないともいえるが)
【ですです。きっと竜東学園の時みたいに悪者がバンバン出て――】
(でないぞ。7章で来た時にはアジト自体壊滅していたしな)
【えっ?】
(あくまで第2章はバトルアリーナ形式のバトルがメイン回なうえに、シナリオが薄味すぎて評価が低いぞ。アリーナ解禁で金稼ぎできるようになるのが唯一の高評価ポイントだ)
【そ、そんな……エクステラの大活躍は?】
(本来あった天使の初邂逅イベントが大きく前倒しされたことで、下級天使の対処法もSNSや掲示板を通じて一般人が知っている。お前の言う軍の介入のことも考えたら、よほどのことがない限りは下手にエクステラが介入しなくとも被害は最小限に抑えられるだろう)
最終日だけ気を付ければいいとステラに言い聞かせ、バスから降りると、三人を迎えるのは硫黄交じりの新鮮な空気と心地よい風。
「あたい、温泉入りた~い」
「私も」
「おいおい、まずは宿に荷物を置いてからの方が――」
「ひひひ、ひひひ…………」
三人が話していると怪しげな声を発する男子がこちらを、焦点の合わないうつろな目で見ていた。顔色も悪く、あまり関わってはいけないタイプだというのは言わずともわかる。
「金だ……クスリだ……どっちでも良い、寄越せ」
「酔い止めくらいならあるが……まあ違うんだろうな」
「森山君、私も多分違うと思う」
「あーしも」
「わん!」
「てめえ、ふざけやがって!」
バタフライナイフを取り出し、襲い掛かろうとする男子。それを見た信二が鎖を振り回してぶつける。
「いって~」
「巻きつけ!」
意志を持ったように鎖が巻き付いて、身動きが取れなくなった男が取り捕まえる。リカが警察を呼んでいる中、信二は襲ってきた男子の服を調べる。
「駄目だよ、勝手に人の物を見たら」
「外部の俺たちを襲ってきた理由が分からん」
「単なる強盗じゃないの?」
「薬とも言っていた。だとすれば……あった」
複数のビニールの袋。隅の方に金粉らしきものが付いており、これが原因だと考えられる。さらにカバンを調べると亀北の生徒手帳も見つかる。
「入学時期からして現役生か」
「えっ、それって……」
「学校内に薬物が蔓延している可能性があるとみるか、こいつだけが特別なのかはまだ分からんが、楽しい留学というのは無くなりそうだ」
「警察の人、呼んできたよ~」
リカが連れてきた警察に事情を話すと、男子生徒を連行していく。いきなり襲われたこともあって観光気分で無くなった三人は宿へと直行するのであった。そこは日本風情を醸し出す旅館で、和服を着た女将さんが出迎え、3人が止まる部屋へと案内する。
「ずいぶんと広い和室だな。いくらオフシーズンとはいえ、安く見積もっても1泊7,8万くらいはするんじゃないか? それが30日で200万超。3人で600万……よく出せたな!?」
【わざわざ費用を計算するとか貧乏性ですね~】
「いや、驚くだろ。いくらなんでも金掛けすぎだ」
【きっとあれですよ。ここでしか取れないダンジョン素材とかで経済が潤っているとか】
「いやいや、確かにゲームだとここでしか取れない素材はあるし、周回もしたことはあるが、それはゲームに限っての話。現実だと学園都市以外のダンジョンもあるんだから、ここでしか取れないなんてことはないはず。一体、何で儲けているのか知りたいくらいだ」
自信の言葉に何か引っかかるものを感じていると、扉がノックされる。一旦、思考をやめ、扉を開けるとカナエたちが部屋に備え付けられていたタオルを持っていた。
「ここ、温泉あるんだって!」
「温泉♪温泉♪」
「ああ、俺も今行こうと思ったところだ」
その日の晩、明日の登校に向けてカナエたちが眠っている中、エクステラがツトムにくすねておいた金粉入りの袋を渡す。
「これは?」
「亀北で流行っているかもしれない薬物よ」
「ふん、また厄介ごとか。しかし、量が少ないな」
「まあ、使用済みだもの」
「……分析をするにしても何を分析するのか分からなかったら意味がない。マウスに使ってみるか。何も出ないかもしれないが」
チューチューと鳴いているマウスに金粉をえさに混ぜて食べさせてみる。もぐもぐと金粉入りの団子を食べていた時、マウスの動きがピタリと止まる。二人の間に緊張感が走る中、マウスの身体が金ぴかに光だし、頭には天使の輪っかが浮かび上がる。
「こ、これは!?」
「殺すわよ!」
ゲージをへし曲げて脱走しようとしていたマウスを撃ち抜き、最悪のケースを免れる。天使化したマウスの遺体を眺める。
「ANG値、調べる必要も無いな」
「ええ、これは天使化させる薬かしら」
「むしろ副作用じゃないか。使いすぎると天使になるみたいな」
「となると、本来の作用は?」
「見ての通りだろう。マウスが金属を曲げる程度には筋力が上がっていた。肉体強化の薬じゃないのか。天使化した影響とも言えないが」
「ドーピングみたいなものというわけね」
「そういえば、お前の押収した資料の中に……これだ」
1冊のファイルを開き、そのページを開ける。小難しいことが書かれているが、サキに使った薬では化け物を制御できない可能性もある。そこで、化け物にならない程度まで薄めた薬で肉体強化をすることを狙ったそうだ。ただ問題点は人によっては禁断症状が出るということくらいだろうか。そして、繰り返し使えば、いずれアルラウネのような化け物になる。そして、化け物になった患者からまた薬を作る。まさに永久機関だ。
「これでノーベル賞は私のものだとか言ってそうね」
「同感だ。死んだとはいえ、こいつには科学者を名乗って欲しくもない。さて、これからどうする?」
「決まっているでしょう。蔓延しているなら元締めもいるはず」
「心当たりは?」
「さあ? 私も知らないことだってあるわ。前のカメラみたいに盗聴器とか発信機とか作ってくれるかしら?」
「それくらいは容易いが、こちらの調べものを中断するんだ、見返りを要求しても構わないな」
「何が望み?」
「美海を蘇生した方法」
「……異能の寄与が大きいわよ」
「構わん。元々EXギアは異能を再現するために作られたもの。仮に最上位モデルが数百万個必要だったとしても、必ず再現してやる」
「異能で魂を肉体に結び付けた。だけど、リンネちゃんの魂は……」
「……できるできないは俺が決める。調査に必要な諸々の道具、今すぐで作ってやる。科学者としてこんなふざけた発明を俺は認めない、絶対にだ!」
「ええ、私も同じよ」
(こんなふざけたシナリオを描いた奴が誰かは分からんが、この企みは必ず食い止めて見せる!)
憤る二人を迎え、原作外のシナリオとなった第2章が始まるのであった。




