第17話 運命への介入(後編)
サキがアルラウネになったのと同時に遊園地内では、あちこちで植物が異常発達し、アトラクションに絡みつき、人々を襲っていた。その異常に気付いた運営が警察や救急に呼び掛ける一方、出入り口はびっしりと敷き詰められた茨のトゲでおおわれ、客が逃げ出すことも応援を中に入れることもできなくなっていた。
そして、今、観覧車はカケルの乗っていたゴンドラから突如生えてきたツタによって、一面覆われてしまい、その姿を見ることすらできなくなっている。
「まだ夕方よ。いくらなんでも早すぎる」
【どうします?】
「当然、行くしかないわ」
【では、いつもの服に着替えましょう】
黒のゴスロリ服に着替えたエクステラがカケルが乗っていたゴンドラ付近に銃弾を放ち、【浸食】によって着弾したツタを枯らしていく。だが、枯れていく傍から新しいツタが延びていき、元の茨の塊になってしまう。
【砲撃魔法でも使います?】
(いや、砲撃魔法だと貫通力が高すぎる。カケルたちを巻き込みかねない。こういうときにアスカのパワーがあれば突破口を開けるかもしれないが……)
【どこにいるんでしょうね?】
(エクステラの姿で電話をするわけにもいかない。となれば、アスカに連絡が取れる人物のところに行くしかないだろ。まだウェストエリアに居れば良いが……)
近くに居た人食い植物にある程度掃討した後、茨のボールのようになっている巨大観覧車を背にし、ウェストエリアへと向かうことにした。その道中、地面から鋭いトゲのように尖ったツタがエクステラを襲うが、すんでのところで躱す。
【トラップモンスターの1種ですね】
「サーチしてなかったらやられていたわね」
【私の方でサーチはしておくので、ご安心を】
「頼んだわよ。レストランは……見えた!」
エクステラの目の前には全身鋼鉄になったリョウが、パニックになってその場から動けない客を人食い植物から守っていた。そこに打ち込まれる銃撃によって人食い植物が倒れ、食われそうになっていた客を飛び込んでキャッチする。
「ふう、セーフ。誰変わらねえけどってエクステラ!? なんでこんなところに」
「私が居て悪い?」
「悪くねえけどよぉ。一体、どうなっているんだ、これ?」
「詳しい話はあと。このままだとお友達も死ぬわよ」
「マジか!? お前が冗談言うようなタイプじゃないのは分かるけど。よし、俺にやれることがあるならなんでも言ってくれ」
「アスカがこの遊園地内にいるはずだから連絡。人手が欲しいから、観覧車に向かうように言って」
「分かった。電波は……あるな。聞こえるようにスピーカーONにしておくぜ。つながった」
【こっち忙しいから電話かけないでくれる!】
「忙しいのはこっちもだよ。ってか、お前らどこにいるんだ?」
【サウスエリア!イーストエリアから避難してきた人たちを守っているとこ。出口は塞がっているわ、あんたの腕を食いちぎりかけた金ぴか獣もいるわ、めんどくさいからきる!】
「あいつ、きりやがった」
「サウスエリアね」
「そうみたいだ。ここで隠れている人も連れて俺たちもサウスエリアに行くぜ」
「そうね。避難民も1か所に集まってくれた方が守りやすいわ」
レストランに隠れていた店員と客、数十人を連れてこの場から去る。彼らを守っていたリョウが誘導し、エクステラが前面でマシンガンで魔力弾で襲い掛かる植物たちを打ち落としていく。
【右前方にトラップモンスター!】
「そこ踏まないように。死ぬわ」
空いている手で拳銃を握り、ペイント弾を放ってわかるようにし、リョウが誤っていかないように着弾位置の前に出て誘導する。そんなとき、茂みから獣天使が飛び出してくる。
「天使の相手は私が!」
マシンガンを実体弾に切り替え、ドカドカと獣天使に撃ち込まれていく。このダンジョン内において、ヘイローをわざわざ破壊しなくても、天使を倒せるのは自分とカケルだけ。ならば、自分たちが対処したほうが早い。
「掃討完了」
「よし、みんなこっちだ。俺たちが守るから、慌てるなよ」
リョウの誘導に従い、避難民と一緒にサウスエリア内に入る。ショッピングエリアでにぎわっていたはずの場所ではすでにことが切れている人たちがあちらこちらに倒れており、一歩間違えていたらこうなっていたのだとその末路を見せられた避難民たちの足が止まる。
「止まるんじゃねえ!」
「そうよ、出口はもうすぐそこよ」
「でも出口は塞がっているのでしょ。聞こえていたわよ。もうおわりよ!」
「誰も助けに来ないんだ。俺たちはここで死ぬんだあああ」
(まずい。集団ヒステリーを起こしかけている。このままでは……)
「そうかよ。だったらてめえらはここで死んでやがれ!生き残りたい奴だけ付いてこい!」
怒りながらズンズン歩くと大半の人が申し訳そうについていき、ヒステリーになった二人も死にたくないのか遅れて付いてくる。
「やるわね。荒治療とはいえ――」
「そんな難しいこと考えてねえよ。俺、馬鹿だからな。あいつらがあの場で立ち止まるつもりだったら、本気で見捨てるつもりだったぜ」
「えっ?」
「だってそうだろ。あいつらに構って全滅するよりかは一人でも多く助けたほうが良いだろ。俺たちも含めてな。まあ、あんたや先輩みたいに強かったら全員助けることもできるんだろうけどな」
(それができたら苦労はしないがな……)
こちらに気づいた獣天使を蹴散らし、サウスエリアの出入り口に到達する。数多くの避難民が殺到している中、同業であろう男性や女性たちがアスカたちと一緒に襲い掛かる植物たちから人々を守っていた。
「アスカ、大丈夫か!」
「リョウ!それにエクステラも!? カケルとサキは? 一緒じゃなかったの?」
「話はあとよ。その二人を助けるためにもついて来て」
「分かった。リョウ、後は頼んだわよ」
「おう!まかせろ!!」
リョウを残し、アスカたちがエクステラと共にノースエリアまで転移する。巨大な茨の球体に唖然としている二人をよそにペイント弾でカケルたちが居たゴンドラ付近を着色する。
「私の魔法だと中の人の安全が保障できないから、代わりにあのあたりの茨を取り除いてほしいの」
「それはいいけど、いくら私が怪力でも時間かかるわよ」
「問題無いわ。ちょっと肩を貸してもらうわよ」
エクステラが肩に手を乗せて自身の魔力と接続する。以前と同じく力が湧いたアスカが高く跳び、右手にその膨大な魔力を込めながら殴りつけると、絡まっていた茨が爆ぜてゴンドラがあらわになる。
「お望み通り吹き飛ばしたわよ」
「ええ。思ったとおりね。扉も開けて頂戴」
「分かっている」
千切れたツタがすぐに回復しないようにエクステラがマシンガンで弾をばら撒いて、アスカのじゃまにならないようにする。ゴンドラの扉が地上へと放り投げられると同時に、周りの人食い植物を手刀で切っていたひかりを抱きかかえて跳ぶ。二人がゴンドラの中へと入ると、そこはただ広い謎の空間。
「ここ、ゴンドラの中よね」
「ゴンドラの中がダンジョン化、いえ、この場合はボス部屋と言ったほうが正確かも」
「だったらボスモンスターを倒せば、遊園地は元通りね。さあ、かかってらっしゃい」
「駄目だ!」
声がした方に振り向くと、植物のツタにつるし上げられているカケルとその頬にブチューとキスしているアルラウネの姿があった。
「カケル、その淫乱モンスターぶっ飛ばしてあげるわ」
「待って、話聞いて!」
「なによ!あと、サキはどこに行ったの!」
「今、キスしているのがサキなんだって」
アスカに見せつけるかのようにペロリとカケルをなめ始める。イラっとしながらも、アルラウネの顔をじっくりとみると確かにサキによく似ている。
「どういうことよ」
「僕にもわかんないって。なんか急にサキがモンスターになったんだよ」
「はあ、何言っているの? 人がモンスターになるなんてファンタジーじゃあるまいし」
「(俺から見たら、この世界そのものが十分ファンタジーなんだが)信じられないとは思うけど、あり得るわ」
「あんたまで何言っているの!?」
「私がこの学園都市に来たのはとある組織が違法な人体実験をしているという噂を聞いたからよ」
「人体実験なんて合法も違法も無いでしょ!じゃあ、サキは……」
「ええ、その通りよ。天使と呼ばれる高次元生命体との融合実験、その被検体が彼女のようね」
「…………一つだけ教えてもらっても良い? サキを助ける方法は?」
「……私だけなら0ね」
「……ッ!?」
「だけど、この場にいる全員の力を合わせれば限りなく0だけど、助ける術はあるわ。だけど、失敗した場合は貴方たち自身の手でサキを殺すことになる」
「そ、そんな……私たちの手でサキを殺せって言うの……」
「やるよ」
「えっ?」
「サキを殺すなら僕がやる」
「待って、カケ――」
「分かったわ」
「エクステラ!」
「彼がやるのが一番成功確率が高いのよ」
「うっ…………わかったわよ」
「まずはカケルを救出。その後、サキを救出するわ」
「分かっている」
アスカが弾丸のように飛び出し、アルラウネの下半身、球根部へと殴りつける。だが、地に根を張っているアルラウネを吹き飛ばすことができない。そこに壁から植物のツタがムチのようにふるまわれるが、それらを両手でがっちりとつかんで、握りつぶす。
「……サキ、今、モンスターなんだから全力でぶんなぐって良いってことよね」
「くひゃ?」
「これはあんたが抜け駆けした分!」
アスカが跳びあがり、アルラウネの顎にアッパーがきれいに決まる。そのお返しと言わんばかりに下半身の球根が口のように裂け、種マシンガンを放つ。それを拳のラッシュで跳ね除け、今度は跳びあがって裏拳を決める。
「これはカケルがサキのことがす……好意を持っているって知った時の分!」
「くひゃ!?」
「えっと、それはその……」
カケルが恥ずかしくなってうつむいているとエクステラとひかりがそろ~りと近づいているのが見える。口元に指を立てているあたり、騒がず気づかなかった振りをしろということなのだろう。横目でアルラウネを見ると、回し蹴りがきれいに決まっており、女の醜いキャットファイトに目をそらす。
「そして、これは私の前でキスした分!」
「ひゃ!?」
「今から斬りますね~」
特に理由のある暴力がアルラウネが襲う中、ツタによじ登っていたひかりが腕を刃に変えて、スパッスパッとつるし上げていたツタを斬って、カケルを救出する。
「えっ~と、二人を止め……じゃなかったサキを助けないと」
「ええ、分かっている。でないと死ぬわ、サキが」
一方的に殴られ続けられているアルラウネをみてそう思うのかうんうんと頷くカケルたち。人から急にモンスターになった上に本能的に動いているせいで、動きもぎこちない。そんな状態でAランクに近い実力を持つアスカと戦っているのだから一方的になるのは仕方ないのだ。
「僕はどうすればいいの?」
「EX-01……ひかりちゃんで斬りなさい」
「でも、そんなことしたら――」
「大丈夫よ。貴方たちのもつ【切断】はどんなものでも斬ることができる能力。ならば、サキをモンスターに変えている元凶、天使の力だけを斬ることができるはずよ」
「できるの、ひかりちゃん?」
「わかりません、記憶がないんで」
「でも、それしかないんだよね」
「ええ」
「信じるよ。ひかりちゃん、やろう!」
「はい!」
ひかりが光に包まれると、青白い光を放つビームソードが現れ、カケルが手に取る。そして、カケルにも【接続】したエクステラが彼を見送る。ヒロインを救うのは主人公の役目。そんな大舞台なら端役はただ立ち尽くすしだけだ。
「【加速】!」
カケルが異能を使い、止まった時の時間を駆け抜ける。アスカが鬼のような形相で殴っているが、カケルの視界には1mmも入っていない。今、目の前にあるアルラウネ、いやサキしか入っていない。自分の息遣いも、心臓の鼓動もクリアに聞こえる世界でカケルはサキとの出会いを思い出す。
(最初にあった時、中学で一緒のクラスできれいな子がいるなと思ったけど……)
その後、一緒にチームを組んだり、勉強を教えてもらったり、遊びに行ったりといつしか自分たちには欠かせない存在になっていた。
(サキ、必ず助ける)
それが友情からくるものなのか愛からくるものなのかはまだ分からない。だけど、その思いに迷いはない。その一閃は太刀筋すら残さず、サキの中で育っていたダンジョンコアだけを切断、否、消滅させていた。
カケルが加速を解くと、アルラウネの球根が消失し、二本の足に。肌の色も緑色から元の色に。頭に咲いてあった花は散って、消失する。
「サキ!」
「大丈夫。意識はないけど、脈と呼吸はあるわ」
「よ、よかったあ~」
観覧車の外を見ると遊園地中に広がっていた植物が消え去り、殺戮を繰り返していた獣天使もどこかへと消えていく。戦いは終わったのだとリョウを始め、避難民を守っていた人たちはどっと倒れる。
「あとはサキを病院に――」
「それはできないわね」
サキを片手で抱きかかえたエクステラがもう片方の手で二人に向かって拳銃を突き付ける。
「どういうつもり?」
「話してなかったわね。彼女を改造したのは竜東学園よ」
「「えっ?」」
「だから、渡すわけにはいかない。でも、安心して無事なのを確認したら、貴方たちのところに返すわ」
「……わかった。信じるよ」
「良いの、カケル?」
「うん。だって、エクステラって悪い人じゃないし」
「はあ~、あんたのそういうところが甘いのよ。でも、その情報が正しいなら、あんたに渡したほうがマシかもね」
カケルたちを残し、エクステラは秘密研究所に転移する。そこでは、直で来たエクステラに不満げを持ちながら振り向くツトムがいた。
「その女は誰だ? ここは保健室じゃないぞ」
「竜東学園が密かに行っていた天使と人との融合実験。その被検体。助けた後だから、後遺症が無いか見て欲しいわ。支払いは最下級天使の死骸山盛りね」
「待て。お前は何を言っている? いや、単語は分かる。その意味もだ。お前は何をしたい?」
「したいこと? 決まっているわ」
サキを仮眠用のベッドに寝かせた後、エクステラは長い髪をかき上げて、はっきりと言う。
「竜東の、いえ、学園都市の闇をぶっ潰す!」




