第16話 運命への介入(前編)
GW初日。アスカが自宅で筋トレをしていたら、チャイムが鳴る。宅急便が来るような用事はないし、両親は不在。誰が来たのだろうと玄関の扉を開けて、視線を下に降ろすと子供服を着たひかりが大きく手を上げていた。
「ひかりちゃん、今日は人の姿なのね」
「はい、マス、じゃなかった。お兄ちゃんが出かけているので、遊びに来ました」
「外で話すのもあれだし、中に上がって」
アスカに誘われるままに家の中に入る。アスカの部屋に入ると、女の子らしいぬいぐるみやピンクのカーテンが張られている中、さきほどまで使っていたであろうダンベルが転がっている。興味ありげに片手で持ち上げようとするも、中々持ち上がらない。
「これ、何kgあるんですか?」
「30kgも持ち上げられないの?」
台所から持ってきたジュースを机の上に置き、ひょいと本でも拾うかのような軽い動作で持ち上げて、トレーニングするようなしぐさをする。その様子にひかりはパチパチと拍手する。
「アスカさんって力持ちなんですね」
「体が資本だもの。ひかりちゃんって人の姿しているけど、機械なんでしょう? 武器に変形するし。これくらいできないの?」
「斬る専門なので。えっへん」
胸を大きく張って威張る。威張ることではないが、どうやら斬ること以外はそこらの子供と同じ身体能力しかないらしい。ごくごくとオレンジジュースを飲む姿も、事情を知らなければただの子供だ。
「ところで、その服どうしたの?」
「これはママに買ってもらったものですよ」
「ママってカケルの?」
「はい。通販でお洋服を買ってもらったのは良かったんですけど、荷物を受け取ったママにバレちゃって事情を話してくれたら買ってくれました」
その一件以来、カケルの家の中では人の姿で暮らしているらしい。なんでも、武器の姿でいるのは疲れるとか。
「カケルったら、そういう大事なこと言わないから困るわ」
「じゃあ、サキさんと遊園地に行っていることも?」
「はあああああ!? それどういうこと!」
「デートですよ、デート。なんでも福引でペアチケットが当たったとかで。きっと今頃、お二人は観覧車の中で……きゃっ」
「さ~ぁ~き~ぃ~」
「ぴえっ。もしかして、アスカさんもお兄ちゃんのこと好きだったんですか」
「ななななんああなんななな、なわけないでしょう。私たちはただの幼馴染よ。そういう関係じゃないし。そりゃあ、小さいころから面倒見ているから気になっていないと言ったらウソにはなるけど、だからと言っててサキも中学からの友達で、でもサキなら、ってなにいっているのよ、――」
ぐだぐだと言い訳をしているが、アスカもカケルのことが好きなのだと三角関係にニヤニヤした表情で聞いているひかり。
「ともかく!カケルがサキに変なことしないか、私たちで見張るわよ!」
「面白そうですね」
と同意したひかりを連れて、竜東学園地区にある遊園地施設、竜東アミューズメントパークへと向かうのであった。
竜頭学園地区は日本でも最先端のダンジョン研究がなされている場所だ。特に20世紀半ばのダンジョン災害で朝鮮半島を手放さざるを得なかったこともあり、国土が狭い日本においてダンジョンの空間制御技術は関心の高いものであった。
ここ、竜東アミューズメントパークでは人工的に作られたダンジョンで、6階建てのビル2~4階が娯楽施設に割り当てられている。カケルたちが受付を終えて3階にいくと、そこにはおよそ100ヘクタールの面積をもつ広大な遊園地が二人を出迎えていた。
「うわ~、テレビで見る以上に広い」
「パンフレットだと千葉にある遊園地の2倍だって。こほっ、こほっ」
「大丈夫? 体調が悪いなら、別の日でも……」
「ううん、大丈夫。早く行こう」
「そうだね。まずはイーストエリアにあるジェットコースターからかな」
そんな二人の後ろに深く帽子をかぶり、サングラスをかけた女の子二人――ひかりとアスカが数人離れたところで並んでいた。
「走ってきた甲斐があったわね」
「なんだかスパイみたいです」
やっていることは確かに諜報活動だと思っている不審者ルックなアスカたちを離れたレストランでマスコットキャラクターであるドラ子が描かれたパンケーキを頼んだ色付き眼鏡を掛けた私服姿のエクステラがいた。
(サキとのデートイベントなんて無かったはずだが……)
【アオハルですね~】
(それにしても、スカートとはいえ、ゴスロリチックじゃないまともな服を持っていたな。まさかだとは思うが――)
【違いますよ。封印されている間に『封印した連中にバレずにどこまで買えるかチャレンジ』とかやっていましたから。暇なので】
(……支払いは?)
【封印した連中の末端組織ですが? 30万くらい使って裏金疑惑とかでマスコミにリークしておきましたとも】
(捏造じゃないか)
【もとからクロなのでセーフですよ】
ならば良いかと思っていると、ドラ子のパンケーキを持ってきたので、衣服を汚さないように小さく食べるのであった。
その後、カケルたちがコーヒーカップに乗ったり、お化け屋敷に行ったり、お昼のパレードを見た後はウェストエリアにあるレストランに行くと、ウェイターをしているリョウと出くわす。
「どうしたの、こんなところで?」
「見てわからねえか、バイトだよ、バイト。夏休みに免許取ったらソッコーで買いに行くから、金貯めているんだ」
「いいね。買ったら見せてよ」
「おう、いいぜ。それよりも……デートか」
リョウがからかうような口調で言うとカケルとサキの顔が赤くなる。ものすごくわかりやすい反応に笑いそうになったが、今は接客中ということもあってぐっとこらえる。
「まっ、二人とも頑張れよ」
あまり長居して店長に怒られる前に退散したリョウだが、彼の冷やかしで二人は少し気まずくなる。
「え、えっ~と、次はどこ回ろうか」
「じゃあ、ここで」
サキが恥ずかしさのあまり、カケルが広げたパンフレットをあまり見ずに指をさすと、そこはデートスポットとしては定番の巨大観覧車。
「え、えっ~と、こ、これは違うの」
「い、いいんじゃないのかな」
「「あわわわわわわ」」
テンパっている店内の二人をテラス席から眺めているアスカたち。あわあわしている二人をみていらだっているのか、食べていたホットドッグを握りつぶしてしまう。
(何やっているのよ、カケルのやつ)
「そんなに気になっているなら告りましょう。アスカさん」
「な、何言っているのよ」
嫌がるアスカの袖をぐいぐいとひっぱるもビクともしない。そうこうしているうちにカケルたちが会計を済ませて外に出たので、慌てて自分たちも会計を済ませるも人込みに紛れてしまい見失ってしまう。その様子をベンチでチュロスを食べていたエクステラは内心焦る。
(おいおい、カケルとアスカがはぐれたぞ……)
【イレギュラーですね。どうします?】
(嬉しそうに言うな。まずはカケルの身が第一優先だ。ことが起こるのは夜のパレードの時間とはいえ、EXギアが無く、無防備なカケルを俺たちも見失うわけにはいかない)
紙切れを近くにあったごみ箱に捨て、カケルたちが向かったノースエリアへと向かう。観覧車に乗ろうと列に並んでいるとき、繋いでいたサキの手が汗で濡れていることに気づく。よくみると、顔が熱っぽい気もする。
「サキちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫だから。こほっ、こほっ、こほっ」
「でも具合悪そうだし……これ乗ったら帰ろうか」
「……う、うん」
渋々、カケルの言うことを聞くサキ。そして、自分たちの番が回り観覧車がゆっくりと回りだす。二人きりの密室。互いに見つめ合う環境。『ここで行かなくてどうするイケー』という心の悪魔と『友達だよ。そんなこと』と言ってくる天使がカケルの中でせめぎ合っていた。それはサキも一緒で、二人はもじもじとしているうちに頂上を過ぎてしまう。あと数分もしないうちに降りることになるだろう。
(あっ、もう終わっちゃう……嫌だなぁ)
【ならば、終わらせぬようにしよう……永遠に】
「誰!?」
「サキちゃん!?」
突如立ち上がって後ろを振り向いたサキに驚くカケル。そこには傾き始める夕日以外、何もない。そして、急に苦しみだすサキのスカートの中から植物のツタのような延びてきて、カケルの手足を縛る。さらにサキの異変は止まることはなく、衣服が肌に同化し、髪や肌が緑色に染まっていき、頭には大きな花が1輪咲き、サキはアルラウネと呼ばれる半分植物のモンスターに変貌する。
「クヒャアアアアアアア」
「さ、サキ……サキイイイイ!!」
サキの名を呼ぶもモンスターになった彼女には届かず、カケルはツタに覆われてしまうのであった。




