第15話 下級天使
2階層。1階層よりも草木が生い茂っており、そこら中にウツボカズラのような食人植物が生えている。それらに銃弾をばら撒いていくと、響き渡る悲鳴と共に茶色く枯れていく。
「やはりというべきか……大したものが取れんな」
「この系統の植物って、近づいて蜜を取ったり、切り取って素早く回収したりしないといけないからね」
「距離を取って攻撃すれば安全に倒せる相手なのだが……」
「そう美味しい話は無いってことよ。このダンジョン内にサキをおかしくしたモンスターがいる可能性は上がったし、ここは安全に行きましょう」
「承知した。だが、弾を温存したいから多少威力と連射力は下がるが、魔力弾に切り替えても良いか?」
「良いわよ。一人にお金をかけさせるのフェアじゃないし。その分、私たちがフォローに回れば良いもの」
「承知した」
淡々とマシンガンを撃ち続けて、会敵必殺。リョウたちが戦うことなく2階層を進み、手持ち無沙汰になっていたリョウがあくびしていたところ、タロが急に吠え出し、歩みを止める。信二が精査すると、その結果に眉をひそめる。
「厄介だな。地中に敵がいる。数は1」
「トラップモンスターね。それなら私が……チェストオオオオ!!」
アスカが地面を思いっきり叩き、地中に潜む敵に衝撃を伝える。突如襲ってきたダメージに思わず暴発したハエトリソウのようなモンスターが現れ、苦しみ悶える。その茎をカケルがスパッと切って、リョウが枯れる前にハエトリソウを収納する。
「採取完了だ」
「後で分けなさいよ」
「分かっているって。そんなせこい真似するかよ」
「トラップモンスターに気を付けつつ進みましょう」
その後も何度かトラップモンスターに遭遇するも、感知能力の高いタロが先行して見つけてくれたこともあり、損耗少なく進むことができ、3階層へと続く階段を下りていく。
「最後の層は獣中心だったね。となると、ボスモンスターも獣系なのかな」
「ジャイアントコングとかドリルマントヒヒとか出てくるかもしれないわね」
「うげっ……どっちも苦手なんだよな」
「どっちもパワータイプだもんね」
苦戦の予感を感じつつもリョウが3階層の扉を開けると、1階層よりもやや開けた明るい森の中。視界はバッチリと確保でき、うす暗いせいで敵を見落とすことはほぼなさそうだ。
「上の階層とは雰囲気が違うな」
「ぐるるるる……」
「タロがすごく警戒している」
「かなり強力なボスが居るみたいね」
「そいつがサキを苦しめた元凶か!」
「まだそう決まったわけじゃない。1、2階層と同じく注意して――」
「うるせえ!今もサキが苦しんでいるなら、さっさと倒しに行った方が良いだろうが。違っていても損はない。第一、ぽっと出のお前に言われたく――」
「リョウ、言いすぎだよ」
「熱くなるのは良いけど、それで死んだら元も子もないじゃない」
「うっ……すまねえ」
「いや、こちらももう少し言葉を選ぶべきだった」
【別に謝る必要なんてないじゃないですか。こちらに落ち度はありませんし】
(たとえ非は無くとも、互いに悪かった。ノーサイドという幕引きにした方が良いときもある)
【面倒ですね】
(それで悪化するときもあるからな)
と脳内で付け加えてしばらく歩いていくと、開けた場所から腐敗臭が漂い、ヘイローのついた金色の獣が群がっている。よく見ていると、ジャイアントコングが倒れ、群がっていた金色のモンスターが振り返ると、見た目こそ狼に近いが、あるべき顔は無く血がべっとりとついているのっぺらぼう。まさに異形と呼ぶことしかできない未知のモンスターに信二以外のメンバーが固まる。
「(天使級……人型ですらない下級天使だが、今のカケルたちでは力不足だ!)逃げろ、殿は俺が務める!」
「何言っているんだ、アイツらがサキを苦しめたに違いねえ!うおおおおおお!」
「ちっ……間に合うか」
先のやり取りで少しは頭が冷えたとはいえ、血が登っているリョウは静止の声を聞かずに獣天使の群れに突っ込む。顔が無いなら武器はその爪のみと思っているリョウだったが、その思惑はあっさりと崩れる。
「なに、顔に亀裂が――」
何もなかったはずの顔が割れ、そこからのぞかせるのは巨大な口。ガブリとその自慢の鋼鉄の身体に噛みついてくる。
「こいつ……俺の鉄の身体を――」
「だから、言わんことじゃない」
他の獣天使が襲い掛かってくる前にリョウの身体に鎖が巻き付き、引っ張られる。そして、噛みついてきた獣天使はカケルがばっさりとその首を切り落とす。
「た、助かったぜ。食いちぎられるかと思った。とりあえず、緊急脱出して……できねえ!?」
「どうやらあのモンスターがジャミングしているようだな。遠距離攻撃ができる俺が殿を務める。お前たちは2階層まで戻れ。時間を稼いだら俺もすぐ戻る」
「森山君だけ残すわけにはいかないよ。僕も――」
「リョウの二の舞になりかねん。今回はたまたまうまく行っただけだと忘れるな」
「そうね。森山、いえ、信二……生きて帰りなさいよ」
「承知した。俺もここで死ぬつもりはない」
マシンガンでヘイローを狙い打ちながら、銃弾をあちらこちらにばら撒いていく。通常弾頭程度ではヘイローの回復効果で傷一つ与えることすらできないが、足止めくらいにはなるようだ。4人の姿が見えなくなったところで、信二は【浸食】を使い、ヘイローの回復効果を失わせていく。これはマズイと思ったのか、怯んでいた獣天使が一斉に走り出してくる。
【早く美少女に変身しましょう】
「する必要はない。【接続】にはこういう使い方もある」
もう片方の手で鎖をつかみ、【接続】を発動する。すると、先ほどの銃撃で当たっていた木に接続しようと鎖とそれを握っていた信二が引っ張られ、宙を舞う。そして、別の木、また別の木と接続先を変え続けることで、信二の身体は地面に接することなく宙に浮き、動き続ける。
「お前たちの弱点は射程の短さ!ならば、これで距離を取り続ければ攻撃は当たるまい。再生能力を失えば、お前たちはただの的だ!」
跳びかかろうとも届かない距離と高さをキープしつつ、こちらを見上げている獣天使に向かって銃弾を放っていく。1発1発撃ち込まれるたびに獣天使の動きは鈍く、跳びかかる気力すら失われていく。さらに銃弾を浴びさせること10分、ついに動くことができなくなった獣天使に向かってEXギアの収納機能を発動する。
「無事に収納できたということは死亡確定だな」
【ですね~でも、意外とあっさりでしたね。もう少し苦戦するかと】
「こいつらは雑兵だ。戦う回数は必然的に多くなるのだから、ここで躓くわけにはいかない。脳内でのシミュレーターは完璧。イレギュラーさえなければこんなものだろう。こいつらの素材はツトムに渡すためにも、エクステラが助けに来たとでも言い訳しておくか」
【そんなめんどくさいことするなら、自分がエクステラで~す☆とばらしちゃいましょうよ】
「エクステラには俺たちの罪を被ってもらう必要がある。俺が目指すのは永遠に輝く一番星じゃない。誰の目にも見え、されど誰の手にも届かず、消える流星。それがエクステラの役割だ」
天使が消えたことでEXギアの機能が復活したところで、信二は緊急脱出装置でダンジョンの外へと転移するのであった。
その一方で、保健室で休んだことで体調がよくなったサキはリカと一緒に下校していた。
「ごめんね、家まで送ってもらって。でも、カケル君たちが戻ってくるまで待っていなくても良かったのかな」
「別にいいじゃん。ちょいと休んだだけで顔色良くなったし~疲れとかあったんじゃない?」
「う~ん、そうかも」
「そうだ。商店街で福引やっていかない? あ~し、ちょうど5枚そろっているんだ」
「でも……」
「いいじゃん。気分ブルーな状態で帰るよりもハッピーな状態で帰った方が良いって」
「う~ん……それじゃあ、お言葉に甘えて」
夕暮れ時の商店街。子供の頃よりもシャッターで閉まっている店が多くなってきたものの、主婦や学生の姿がちらほらとみられる。その中にある福引所では福引券5枚で1回回せるようだ。サキが何か当たりますようにとガラガラを回すと、色付きの玉がでる。少なくともポケットティッシュではなさそうだ。当たった玉の色をみると、2等の学園都市内にある遊園地のペアチケットだ。
「大当たり~はい、景品のペアチケットね。彼氏さんと行ってちょうだい」
「彼氏だなんて……」
ふと頭に浮かんだのはカケルの姿。幼少期から付き合っている幼馴染がいるけど、一日くらいは夢を見居させてもらっても良いよねと心の中にいる小悪魔の誘いに乗る。
ズキン……
ちょっとした心の痛み。この感情はもしかすると恋なのかもしれない。でも、それを伝えるのははばかられる秘密の花園。きっとこの思いを伝えることは無いのだろうなと胸の痛みをこらえながらも、せめてこの日だけでも忘れられない良い日になりますようにとカバンにチケットをしまうのであった。




