第98話 次々と
各地から、記録が届き始めた。
新しく観測を始めた星図師たちの記録。失星図の補完として送ってくれているものだった。
ロットが各地を回った後、「記録を始めた」という手紙がいくつか来ていたが、実際の記録が届いたのは初めてだった。
最初に届いたのは、南の街の若い星図師からだった。
「失星図を読んで、基準星方式で記録を始めました。三か月分の記録を同封します。確認していただければ幸いです」
記録を見た。丁寧だった。基準星の選び方が少し特殊だったが、一貫していた。
返事を書いた。
「基準星の選択は合っています。一点、この時期の大気条件については補足として残しておくことをお勧めします。続けてください」
次は北の工房から来た。
「師匠が三十年記録してきた観測帳を整理しました。失星図と照合したい。送っていいですか」
「送ってください。全部見ます」
記録が増え続けた。
処理しきれなくなってきた頃、ベルが「整理の仕方を変えましょう」と言った。
「どういうことですか」
「地域別に分けて、各地の記録をその地域の担当として整理する。最初に確認する人間を決めれば、全部を俺たちが一から見なくて済む」
「担当」
「ロットが行った工房に、それぞれ担当者がいる。その人たちに「周辺地域の記録を最初に確認する」役をお願いできないか、と思います」
「ネットワークを作るということですか」
「失星図を中心にした記録のネットワーク。各地に節があって、ファーレンがその一つになる。全部がファーレンに集まる必要はない」
俺はその提案を聞いて、少し黙った。
「これは——俺が考えなかった発想です」
「そうですか?」
「ベルが考えた」
「そうですね」
「ベルの発想を採用します。手紙を書いてください。ベルの名前で送ってください」
ベルが少し驚いた顔をした。
「俺の名前で?」
「これはベルの提案です。俺の名前で送る理由がない」
「でも、レンの名前の方が伝わりやすいかもしれない」
「最初はそうかもしれません。でも、ベルの名前で送り続ければ、ベルの名前が伝わるようになります。ネットワークが動き始めたら、ベルが各地の担当者と連絡を取ることになる。最初からベルの名前で始めた方がいい」
ベルが手紙を書いた。
各地の担当者へ。記録のネットワークの提案。自分が連絡窓口になること。
翌週から返信が来始めた。
ほとんどが「やります」だった。
記録帳に書いた。
ベルが記録ネットワークを提案した。各地に担当者を置く。ファーレンが全部を抱えなくても、記録が続く。
補足に書いた。
「ベルが俺の考えなかった仕組みを作った。継承というのは、同じことを続けることではない。次の者がより良い形を作ること。それが継承だ」




