第96話 ロットの計画
ロットが「相談がある」と言ってきた。
珍しかった。ロットが相談してくることは多くない。言う前に動いていることが多い。
「どうぞ」
「工房を作ろうと思う」
静かな宣言だった。ロットにしては静かだった。
「どこに?」
「ここではない。でも遠くでもない。エスタかネベルの間くらいかな。あそこは旅打ちが通りやすい場所で、若い星図師が一人でいるには場所が良い」
「一人でやれますか」
「一人でやったことはある。旅打ちで世話になりながら各地を回るより、場所があった方が良いことも出てきた。手紙を受け取る場所が必要だと思い始めた」
「理由があったんですね」
「失星図の件で、各地から問い合わせが来た。ロットに聞けばいい、と思われるようになってきた。でも、俺が一か所に長くいないから、手紙が追いかけてくる。これは不便だ」
「それは確かにそうです」
「拠点があれば、手紙がそこに来る。俺が旅をしながら定期的に戻ることができる。完全に定住するわけじゃない。旅打ちのスタイルは変えない。でも、戻る場所を作る」
「ガルト師匠に相談しましたか」
「した。昨日」
「何と言いましたか」
「「止める理由はない」と言われた。それだけ。ガルト師匠って肯定も否定も最小限だよね」
「そういう人です」
「でも、「止める理由はない」は肯定だよね」
「そうです。十分な肯定です」
ロットが「場所の目当てがある」と言った。
「エスタとネベルの間の街に、長年空き工房がある。コンラートという星図師が使っていたが、体を悪くして閉めた。俺がネベルに行ったとき、ヴェラさんに聞いた。コンラートさんが「使ってくれる人間がいれば」と言っているそうだ」
「コンラートさんというのは——」
「父さんが知っている人だ。ガルト師匠がネベルにいた頃、世話になった星図師」
「そうか。父さんが知っているなら、紹介してもらえるかもしれない」
「もう話してもらった。手紙が来た。「来るなら場所を準備する」って」
「先に動いていたんですね」
「うん! でも一応報告しようと思って」
「いつ行きますか」
「来月。春になる前に。春は旅しやすい季節だから、その前に落ち着きたい」
「分かりました。気をつけて」
「また帰ってくるよ! ここが一番のホームだから!」
夕飯にみんなで話した。ロットが計画を話した。テオが「じゃあ今夜はたくさん食え」と言って料理を出した。ダンが「また来いよ」と言った。
ロットが「何度でも来ます!」と大きな声で言った。
記録帳に書いた。
ロットが工房を持つことにした。エスタとネベルの間。旅打ちスタイルは変えない。でも、戻る場所ができる。
補足に書いた。
「ロットが根を張り始める。旅打ちが、場所を持つ。それぞれが自分の続け方を見つけている」




