表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星図師は空の欠けを知っている  作者: ごま
第三部:星の記録者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
94/101

第94話 ベルの成長

 ある朝、ベルが記録帳を持ってきた。

「見てもらえますか」

 自分の記録帳だった。俺が旅に出ている間、ベルが工房でつけていたものだ。

「読んでいいですか」

「読んでください」


 最初の方は、日付と観測値だけだった。簡潔で正確だった。

 途中から、補足欄が増えていた。「今夜の観測中に気づいたこと」「前回との比較で変化があった点」「父さん(ガルトのこと)に確認した事項」。

 終盤には「レンの記録帳を読んで、補足の書き方を変えた」という一行があった。


「これは」と俺は言った。

「師匠がいない間に、どう記録すればいいか考えながら書いていました。最初は師匠みたいに書こうとして、うまくいきませんでした」

「うまくいかなかった部分は」

「師匠は観測値の次に「なぜそう思うか」を書く。俺はなぜそう思うかを言語化するのが遅かった。だから最初はぼんやりした補足しか書けませんでした」

「今は?」

「少し速くなりました。慣れた」


「ベルの記録は、俺の記録と違います」と俺は言った。

「違いますか」

「書き方が俺より整然としている。俺は感覚から入って後で整理する。ベルは最初から整理されている」

「それはまずいですか」

「まずくない。違う、というだけです。記録の仕方は一つじゃない」

「師匠の書き方が正しい形だと思っていました」

「俺の書き方が一つの形で、ベルの書き方も一つの形です。どちらの形でも、毎日書き続ければ積み上がる」


 ガルトが後ろから「俺にも見せろ」と言った。

 ベルが少し緊張した顔をして、記録帳を渡した。ガルトがしばらく読んだ。

「……このページのこれ、何だ」

 ある日の観測結果の補足を指した。

「その日、北側の星の輝度が前回より低かったんですが、気象条件かもしれないと思って保留にしました」

「確認したか」

「翌日また観測して、気象条件が変わっても同じ輝度だったので、変化として記録しました。その次のページに書いてあります」

 ガルトが次のページを読んだ。

「……いい判断だ」

 ベルの顔が少し変わった。驚きと、喜びの入った顔だった。


「ベルはこれからも記録しますか」と俺は聞いた。

「続けます。師匠が旅に出ても、ここで続けます」

「俺がいなくてもですか」

「師匠がいなくても。ガルト師匠がいなくても。俺が続けます。これは俺の記録でもあるので」


 その夜、記録帳に書いた。

 ベルの記録帳を読んだ。俺が旅に出ている間、一日も欠かさず書いていた。書き方は俺と違う。でも、続けていた。

 補足に書いた。

 「記録は続けることで積み上がる。ベルが続けたから、工房の記録は止まらなかった。俺が旅をしている間も、ファーレンの空は記録されていた」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ