第93話 クロウからの報告
クロウが手紙でなく、直接ファーレンに来た。
ある日の昼、工房の扉が開いて、クロウが立っていた。
「来ました」
「来た」
「手紙ではなく」
「手紙では伝わらないことがある。少し時間をくれ」
ガルトも呼んで、四人で話した。俺、ベル、ロット、クロウ。ガルトが壁際の椅子に座った。
「院の調査が終わった。報告する」
「どうなりましたか」
「シェードが全部話した。俺が院内で確認した以上の情報が出た。百年間の記録消去の記録。誰が関わったか。どこで何をしたか。シェードが持っていた帳簿には全部書いてあった」
「帳簿があったんですか」
「シェードは几帳面な人間だった。消したものを全部記録していた。逆説的だが、記録を消す人間が、消した記録の目録を持っていた」
「……そうか」とガルトが言った。
「記録する習慣が、そうさせたのかもしれない。シェード自身も元は星図師の端くれだったそうだ。記録することの意味は分かっていた」
「シェードへの処分は」
「院の内部での処置だ。俺からは言える立場にないが——シェードが自分から来て、全部話した、という事実は記録された。院はシェードの証言を保護して、シェードの言葉として記録に残すことを約束した」
「シェードは何と言いましたか」
「「これで終わりにする」と言った。それだけだ」
「院の変化について報告する」とクロウが続けた。
「院長が星種実験に関する公式謝罪文書を出した。各地の星図師ギルドと、影響を受けた地域の行政機関に送付された。失星図は院の正式資料として永久保管が決定した。レンの名前が収集者として記載された」
「永久保管」
「院の正式資料になった。消えない。シェードが消しきれなかったカイの記録も、院の資料として入った。カイの記録が百年ぶりに院に戻った」
ロットが「やったじゃないですか!!」と言った。
ベルが「よかった」と静かに言った。
俺は少し黙っていた。
カイの記録が院に戻った。カイが生きていた頃、誰にも信じてもらえなかった記録が、百年後に院に戻った。
「クロウさん、一つ聞いていいですか」
「何だ」
「クロウさんはなぜ、俺に協力してくれたんですか。旅の途中で合流したとき、俺はただの一人の星図師でした。院の人間が協力する理由がなかった」
クロウが少し考えた。
「……お前の記録帳を見たからだ。旅の途中で、お前が毎晩書いているのを見ていた。正確で、丁寧で、補足まで書いてあった。院でも、あそこまで丁寧に書く者はなかなかいない」
「記録帳を見て」
「記録帳を見て、この記録は本物だと思った。それだけだ」




