第87話 院の決定
クロウから長い手紙が来た。
「院が正式な発表を行った。内容を報告する。
一、王立星図院は星種実験(百五十年前から百年前)において、失敗した人工星が記憶への影響を与える事象を把握していたが、それを公式記録から外した。これは当時の一部の判断によるものであり、院全体の意思決定ではなかった。
二、院は失星図(レン著、各地の星図師の記録に基づく)を参照資料として正式受理し、その内容が院の公式記録と整合していることを確認した。
三、院は忘却師組織の存在を確認した。この組織は院の一部の人間と関係を持っていたが、院全体の指示ではない。院は調査を継続し、記録として残す。
以上が今日の発表内容だ。各地の星図師ギルドに同内容の文書が届いている。クロウ」
俺はその手紙を読んで、工房の椅子に座ったままでいた。
発表された。
院が認めた。失敗があったこと。隠したこと。それが院の一部の判断であったこと。失星図が整合していること。
ベルが「院が正式に認めたということですか」と確認した。
「そうです」
「すごいことですよね」
「すごいことだと思います」
「師匠は……レンはどう感じましたか」
俺は少し考えた。
「……この知らせを、カイに伝えられたらいいと思いました」
ベルが「それを言いにミラ老師のところへ行きましたか」と聞いた。
「行けませんが、気持ちはそうです」
コルダ老人が工房に来た。
「知らせを読んだ。院が認めたそうだな」
「認めました」
「長い話だったな」
「百五十年分の話です」
コルダ老人がしばらく俺を見た。
「お前は何歳だ」
「十七です」
「十七が百五十年分を動かしたか」
「一人では動かせませんでした。多くの人が動いた結果です」
「そうだな。でもお前が動き始めなければ、他の者も動かなかっただろうな」
ロットから手紙が来た。
「院の発表聞いた!! やったー!! 俺が回った各地の工房でも話題になっています。先生たちが喜んでいた。特に七十歳のおじさん(若い頃から気になっていた人)が「やっと言えた」って言ってました。俺も泣きそうになった。
あと土産できました! もうすぐファーレン戻る! ロット」
ヴェラからも来た。
「院の発表が届いた。ネベルでも話題になっている。シェードが院に出向いたという話も広まりつつある。組織の末端は静かになった。これ以上の記録消去は起きないと思う。
俺はしばらくネベルにいる。院の調査に証人として協力する予定だ。それが終わったら、どこかへ行く」
記録帳に書いた。
院が正式発表を行った。三つの事実が公式記録になった。失星図が院の資料になった。忘却師組織が記録された。
百五十年かかった。でも、ここまで来た。
補足に書いた。
「これで終わりではない。南西の星はまだ暗くなっている。記録は続く。でも今夜だけは、窓の外を見て、少し休もうと思う」




