第86話 シェードの手紙
ファーレンに戻って十日後、手紙が来た。
送り主はシェードだった。
「レンへ。
考えた。時間がかかった。
院の調査に協力する。ヴェラから連絡先を聞いた。院の調査担当に手紙を書いた。
俺がしてきたことを話す。どこで誰に何をしたか。消した記録は何か。指示した者は誰か。全部話す。その代わり、俺の言葉で記録してもらいたい。
なぜ今か、と聞かれれば——ネベルで十七歳の星図師の話を聞いたからだ。黙ることが怖い、と言った。俺は八十七年間、黙ることを選んでいた。怖くなかったわけではない。ただ、続けることで怖さを感じないようにしていた。
カイに会ったとき、カイが正しいと思った。でも消した。その日から、俺の記録はここで止まっていた。
記録の続きを書く気になった。それだけだ。
シェード」
俺はその手紙を三回読んだ。
「記録の続きを書く気になった」という言葉を、繰り返した。
ガルトに見せた。父が読んだ。
「……動いたか」
「動きました」
「お前の話がそうさせたのか」
「分かりません。ヴェラさんが先に会っていた。クロウさんも同席していた。俺一人の話ではない」
「でも、お前が一番最後に話した。それが残ったのかもしれない」
クロウに転送した。「シェードから院の調査に協力すると連絡が来た、と思います。確認してください」
二日後、クロウから返信が来た。
「確認した。シェードから連絡があった。院の調査担当が対応を始める。これは院の歴史上、非常に珍しいことだ。記録を消してきた者が、自ら話に来た」
ヴェラからも来た。
「シェードが動いた。驚いた。あの人が自分から話しに行くとは思っていなかった。お前がネベルで言ったことが効いたのかもしれない。俺には言えない言葉だった。内側にいた者には言えないことがある」
「何がそうさせたか分かりますか」と返信した。
ヴェラから「カイの名前を出したことだと思う。シェードはカイに会ったことがある。記憶している。その名前が出て、何かが動いたのだと思う」と返ってきた。
記録帳に書いた。
シェードが院の調査に協力すると言ってきた。手紙が来た。
「記録の続きを書く気になった」という言葉。八十七歳の人間が、記録の続きを書く気になった。
補足に書いた。
「カイが止まったところから、シェードが続ける。そういうことかもしれない。記録は消えなかったから、続けることができる。消えていたら、続けることもできなかった」




