第81話 対話の試み
クロウから手紙が来た。
「院の照合結果が外部に公示された。各地の星図師ギルドに通知が行った。これで院の公式見解として失星図の内容が認められた形になる。
院内の問題の老人は、記録整理の職を外れた。院の内部調査が始まった。ただし、これは院内の問題として処理される。外部への公表は院が判断する。
シェードへの対応について相談したい。ヴェラの報告書を読んだ。シェードが「考える」と言ったなら、次の動きが重要だ。会うつもりがあるなら、俺も同席できる。クロウ」
俺は考えた。
シェードに会うべきか。
ヴェラが会った。シェードは動揺した。「考える」と言った。でも、それが何を意味するかは分からない。
記録帳に考えを書いた。
シェードが「考える」と言ったのは、何かが変わったということかもしれない。あるいは時間を稼いでいるだけかもしれない。直接会うことで何が変わるか、分からない。
でも、会わなければ変わらないことは確かだ。
ガルトに相談した。
「シェードに会いに行こうと思います」
父が少し間を置いた。
「理由は?」
「ヴェラさんが対話を試みた。シェードが「考える」と言った。次のステップとして、院の人間であるクロウさんと俺とで会うことで、院として話を進める形になる」
「危なくないか」
「シェードは記録を消す組織を動かしていた。でも直接的な暴力は記録にない。俺を傷つけることより、記録を止めることを目的にしている」
「そうとも限らない」
「そうです。でも——会わなければ、シェードが次に何をするか分からない。動きを把握する意味でも、会う方がいいと思います」
父が黙って考えた。
「一人で行くな」
「クロウさんが同席すると言っています」
「それだけか」
「ヴェラさんも来るかもしれません」
「三人か。……それなら、行くとしても構わない」
父らしかった。認めはするが、一人でやるなという。それが父の心配の形だ、と思った。
クロウに返事を書いた。
「同席をお願いします。ヴェラさんにも声をかけてください。ネベルで会いたい」
ベルが「行くんですか」と聞いた。
「行こうと思います」
「戻ってきますよね」
「戻ります」
「……分かりました。工房は任せてください」
ベルが少し背筋を伸ばして言った。十七歳のベルが、今は頼りになる後輩だと思った。
記録帳に書いた。
シェードに会いに行くことにした。クロウとヴェラが一緒に来る。
シェードに何を伝えるか。ヴェラが「終わりにしろ」と言った。俺が言うとしたら何か。
補足に書いた。
「俺が言えることは記録のことだけだ。記録が残ることで、誰が守られるか。それだけを話す。シェードが聞くかどうかは、シェードが決める」




