第80話 ヴェラの報告
ヴェラからまた手紙が来た。
「シェードに会った。報告する。
ネベルの旧市街で会った。シェードは一人だった。俺も一人で行った。
シェードは変わっていなかった。老いているが、目が変わっていない。
俺が「記録を消すことをやめろ」と言った。シェードは「なぜ」と聞いた。俺が「記録は残る必要がある。消すことで守られるものより、失われるものの方が大きい」と言った。シェードが「失われるものとは何か」と聞いた。俺が「次に来る者が分かるために必要なものだ」と言った。
シェードが「それは誰の言葉か」と言った。俺が「カイの言葉だ」と言った。
シェードが少し黙った。
続きは長い。また報告する。ヴェラ」
俺は手紙を読んで、続きを待った。
三日後、また手紙が来た。
「続き。
シェードが「カイの記録を読んだのか」と言った。俺が「レンが読んだ。カイの最後のページを」と言った。シェードが「どこで保管されていたか」と聞いた。俺が「ミラ老師が封印していた。老師はレンに渡した」と言った。
シェードが「ミラが渡したか」と言った。その言い方に何かがあった。軽蔑でも怒りでもなく、何か別のものだった。
俺が「シェードはカイを知っていたか」と聞いた。シェードが「知っていた」と言った。「カイの記録は正しかったかもしれない、だから消した」という話を俺は聞いていたので、その言葉を出した。
シェードが「そうだ」と言った。「正しかったかもしれない。でも、正しければ院が終わると思った。だから消した」」
院が終わる。
俺はその言葉を読んで、少し考えた。
シェードの論理は、院を守るためだったのか。
「続き。
俺が「院は終わらない」と言った。シェードが「なぜそう言えるか」と聞いた。俺が「院が失敗を認めても、観測の仕事は続く。星は続く。星図師は続く。失敗を隠すより、失敗を認めて次に続く方が院は強くなる」と言った。
シェードが「それを信じているのか」と聞いた。俺が「信じている。レンを見ていて、そう思うようになった」と言った。
シェードが「レンという子どもが、そこまでしたか」と言った。俺が「一人でしたのではない。ロット、クロウ、ヴェラ、ガルト、各地の星図師たちが一緒に動いている」と言った。
シェードがまた黙った。長い沈黙だった。
「考える」と言って、立ち去った。
以上が報告だ。結論は出ていない。でも、シェードが動揺したのは分かった。ヴェラ」
ガルトが「どういう状況だ」と聞いたので、手紙を渡した。父が読んだ。
「シェードが動揺した、か」
「そうです」
「百年動いてきた人間が動揺するということは、何かが変わったということだ」
「記録が院に受理されたことが届いたかもしれません」
「そうかもしれない」
記録帳に書いた。
ヴェラがシェードと会った。シェードの論理は「院を守るため」だった。院が終わると思って、記録を消した。
でも院は終わらない。シェードが思った通りにはならなかった。
補足に書いた。
「シェードが「カイの記録は正しかったかもしれない、だから消した」と言った。正しいから消した。それが百年続いた。でも、正しいことは消えなかった」




