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星図師は空の欠けを知っている  作者: ごま
第三部:星の記録者

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第74話 追跡

 三日後、工房に客が来た。

 男だった。四十代くらい。旅人の格好で、荷物は少ない。丁寧に扉をノックした。

 ベルが対応した。俺は奥にいた。

「星図師の工房で合っていますか」

「合っています。どういったご用件でしょうか」

「記録の写しを売っているという話を聞いた。星の観測記録を」

「どなたから聞かれましたか」

「旅の途中で会った人間から」


 俺が出ていった。

 男が俺を見た。年を見て、少し表情が動いた。でも崩さなかった。

「あなたがレンさんですか」

「そうです」

「観測記録を売っているとのことで」

「売っていません。何かお間違えではないですか」

「そうでしたか。失礼しました」

 男がすぐに引こうとした。俺は話した。

「少し伺えますか。どなたから俺の名前を聞きましたか」

「旅の途中の知り合いです。名前は聞きませんでした」

「どこで会われましたか」

「南の宿で」


 男が出ていった。

 俺はすぐにベルに言った。

「腕を見ましたか」

「見ました。印はありませんでした」

「旅の格好だったが、靴が傷んでいなかった。旅慣れているが、最近は歩いていない」

 ベルが「気づいていたんですね」と言った。

「来る前から分かっていた。リナが教えてくれた情報と符合する」


 ガルトが奥から出てきた。

「行ったか」

「行きました」

「何を探していた」

「分かりません。でも、記録帳そのものを探しているなら、もっと強引に動くはずです。俺がどこにいるか、何を持っているか、今は調べている段階だと思います」

「次は?」

「もう少し強引に来るか、俺が動いたときを狙うか」


 クロウに手紙を書いた。

 シェードの人間と思われる者がファーレンに来た。直接ではなく、様子を見ている段階だ。院の状況はどうか。

 ヴェラにも書いた。

 ファーレンに来た。記録は分散済み。こちらは落ち着いている。そちらは?


 二日後、クロウから返信が来た。

 「院でも動きがあった。記録管理担当の老人が、俺が動かした資料に干渉しようとした。同僚が気づいて押さえた。院内の問題が表面化しつつある。これは院の問題として処理できる。時間をくれ。

 ファーレンの件は注意してくれ。シェードの組織は直接的な行動は避けるが、孤立させることは得意だ。周囲の信頼を崩す方法を取ってくることがある」


 孤立させる。

 それはつまり、コルダ老人やリナやテオたちに何かを言う、ということかもしれない。

 俺はコルダ老人のところへ行った。

「老人、俺のことで何か変な話が来ていませんか」

 コルダ老人が眉を上げた。

「来ている。三日前に若い男が来て、「あの工房の子どもが怪しい記録を集めて売り回っている」と言った」

「何と答えましたか」

「「お前は誰だ」と聞いたら逃げた。そういうことか」

「そういうことです。信じなかったということでよかった」

「お前を五年見ている。知らん男の話を信じるわけがない」


 夜、記録帳に書いた。

 シェードの手下が来た。記録を探すより、俺を孤立させようとしている。でも、コルダ老人に通じなかった。ファーレンに根がある。それが今は強みだ。

 補足に書いた。

 「俺がファーレンで育ってよかった、と初めて思った。信頼は記録より先に築いておくものだ」


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