第72話 ロットの旅立ち
ロットが「俺、行ってくる」と言った。
朝、荷物を持って工房の前に立っていた。
「どこへ」
「各地の星図師に声をかける。失星図の写しを持って、ぐるりと一回りしてくる」
「どの程度の範囲で考えていますか」
「俺が今まで回ったことのある工房を全部。二十か所以上ある。旅打ちで世話になった場所を全部回れば、各地に情報が届く」
「時間がかかりますか」
「半年か一年か。ぐるりと回るから」
「一人で大丈夫ですか」
「旅打ちは基本一人だから慣れてる。ていうか、最初から一人でやってたんで」
ロットが少し笑った。
「レンと旅したのは楽しかったけど。俺、ああいう旅は初めてだった。目的があって、必死で、でも誰かと一緒で」
「俺もそうでした」
「うん。また一緒に旅したい。でも今は、俺の動き方でできることをやりたい」
ガルトが外に出てきた。ロットを見た。
「旅に出るか」
「はい! 師匠も元気で!」
「師匠ではない」
「えっでも俺のこと弟子みたいに扱ってくれましたよね」
「食べさせていただけだ」
「十分です! またご飯食べさせてください!」
ガルトが少し黙って、「帰ってきたらな」と言った。
ベルも見送りに出てきた。
「ロットさん、どこか行ったら手紙を送ってください。俺が受け取ります」
「送る! ていうかベルも旅したいとか思わない?」
「思わないこともないですが、まだ工房の仕事を覚えている途中なので」
「速く覚えて旅しろ!」
「はい、そのつもりです」
ロットが出発した。
通りを歩いて、角で振り返って、大きく手を振った。
俺も手を振った。
ロットが笑って、それから角を曲がって見えなくなった。
工房に戻った。急に静かになった。
ガルトが「賑やかな子どもだった」と言った。
「子ども扱いですか。十七です」
「子どもだ。でも腕はいい」
「分かりますか」
「少し見ていれば分かる。技術の上に乗る感覚がある。あれは教えて出るものじゃない」
「自分で育てた感覚ですね」
「そうだ」
ロットがいなくなって、工房の作業がまた増えた。
ロットが手伝っていた部分を俺とベルで分けた。失星図の写しを追加で作る作業、各地からの郵便の管理。
クロウへの返信を書いた。失星図の写しを一部同封した。
記録帳に書いた。
ロットが出発した。各地の星図師への橋渡しをしてくれる。
一人で全部できることに限りがある。でも、それぞれが動ける場所で動けば、つながる。旅打ちで各地を回ってきたロットの動き方は、俺にはできない動き方だ。
補足に書いた。
「カイは一人で記録し続けた。俺はそうではない。ロット、クロウ、ヴェラ、ガルト、ベル。それぞれが動いている。これはカイの時代とは違う」




