第71話 失星図の完成
失星図を正式にまとめることにした。
旅のメモや統合作業で作った中間資料を、一冊の記録帳に清書する。誰が読んでも分かるように。カイの記録の要点も含める。ヨランの証言も含める。各地の老人たちの話も含める。
ガルトが「手伝う」と言った。
「父さんが?」
「書くことはできる。清書なら速い」
二人で作業した。
俺が整理した内容を父に渡して、父が清書する。ベルも途中から手伝った。
工房の机が全部資料で埋まった。ロットが「俺どこに座れば」と言って、床に座った。
失星図の構成はこうした。
第一部:星の消失の記録(カイの記録を要約。百年分の観測データ) 第二部:記憶消失との関連(各地の証言。ランドの老人たち、ヨランの三世代記録) 第三部:星種実験との繋がり(ネベルの封印資料、ヴェラの証言) 第四部:現在の状況(南西の星の変化。基準星方式による測定) 第五部:結論と今後の観測指針
「第五部が難しい」とベルが言った。
「どういう意味ですか」
「結論を書くとき、どこまで書くのか。院が悪い、シェードが悪い、という書き方はする?」
「しない」
「なぜですか」
「俺が記録できるのは事実だけです。事実から何を判断するかは、読んだ人がする。判断を押しつける文書は、判断が変わったときに信頼を失う」
ベルが少し考えた。
「でも、事実の選び方が判断を誘導することもある」
「それは正しい。だから事実の取捨選択には注意した。俺の記録に都合のいいものだけ選んでいないか、三回確認した」
三日後に一冊が完成した。
表紙に「失星図——消えた星の記録」と書いた。副題は「百五十年分の観測と証言」。
ガルトが「いいものができた」と言った。
俺は完成した記録帳を手に持って、少し重さを感じた。内容の重さではなく、物としての重さ。
これがカイの結論の続きだ、と思った。
クロウから手紙が届いていた。院に戻ってから動いている、と書いてあった。
「院内で信頼できる人間に話した。慎重に動く必要がある。時間がかかる。でも道筋はある。完成したら送ってほしい」
写しを作った。失星図の写しを三部。一部をクロウへ。一部をロットの持っていく先々に。一部は工房に残す。
ヴェラからも短い手紙があった。
「ネベルに着いた。動いている。詳細は後で」
それだけだった。
記録帳に書いた。
失星図が完成した。カイから始まった百年分の記録が、一冊になった。
次は届けること。院へ。各地の星図師へ。記録を持っている人たちへ。
南西の星を観た。また少し暗くなった。
補足に書いた。
「カイが「記録せよ」と書いた。俺は記録した。次は渡すことだ。渡した先で、また記録する者が出れば、それでいい」




