第69話 記録の統合
一週間、工房に籠もった。
机の上に全部並べた。カイの記録帳三冊、ヨランの三世代記録の写し、ランドの老人たちの証言まとめ、ネベルの封印資料の写し、旅の途中で自分が書いた記録帳四冊。
ロットが「すごい量ですね」と言った。
「全部ここに繋がりがあります。それを一枚に整理したい」
「手伝う?」
「記録の読み上げをお願いできますか。俺が書きながら比較するので」
「やります!」
クロウも手伝った。
院で学んだ記録の分類法があるらしく、それを使って年代ごとに並べ替えてくれた。
「百五十年前から始まっている」とクロウが言った。
「星種実験が始まった頃ですね」
「そう。院の古い記録と照合したい。帰ったら確認する」
「お願いします」
整理すると、一本の線が見えてきた。
百五十年前——星種実験が始まる。院が人工の星を作ろうとした。 百三十年前——実験の失敗が増える。失敗した星が消え始める。 百年前——カイが記録を開始。記憶消失との関連を疑い始める。 九十年前——シェードがカイの記録に介入。一部が消える。 五十年前——各地で「過去の記憶が消える老人」の証言が増える。 現在——南西の星が暗くなっている。消えるまで時間が限られている。
ガルトが途中で覗きに来た。
壁に貼り出した年表を見て、少し黙った。
「これが全部繋がっているのか」
「繋がっています。百五十年分のことが、ここに全部あります」
父がしばらく壁を見ていた。
「……カイが正しかった」
「正しかった。そしてカイの記録があったから、ここまで繋がった」
「俺が若い頃、もし言っていたら」
「父さんが言っていたとしても、当時は証拠が足りなかった。今の俺があるのは、時間が経ったからでもあります。ヨランの三世代分の記録は、百年経ったから存在した」
父が「そうか」と言った。それだけだった。
ロットが「失星図ってなんですか」と聞いた。
「俺が旅の途中で思いついた言葉です。消えた星の地図」
「地図?」
「どこで消えたか、いつ消えたか。消えた星の記録を一枚にまとめると、地図になる。分布が見える」
「どういう分布なの?」
「南西に多い。星種実験が行われた場所の近くに多い。実験で作られた星が多かった地域から、先に消えている」
「それってつまり——」
「自然に消えているんじゃない。作られた星が、時間通りに終わっている」
ロットが「それ、院が知ってたってことだよね」と言った。
「少なくとも一部の人間は知っていた」
「シェードが知っていて、隠した」
「そうです」
ロットが少し黙った。珍しかった。ロットが黙ることは少ない。
「……怒っていいのかな、これ」
「怒っていいと思います」
「怒ってもいい怒り方ってどんな怒り方?」
「記録を続けることだと思います」
クロウが「失星図を院に持ち込む」と言った。
「持ち込めますか」
「俺は院の人間だ。院内に持ち込む権限はある。あとは、誰が受け取るかの問題だ」
「受け取らない可能性がありますか」
「ある。シェードと繋がっている人間が院内にいれば、握り潰そうとするかもしれない。でも——俺には同僚がいる。信頼できる人間が何人かいる」
「その人たちと協力できますか」
「やってみる。約束はできないが」
記録帳に書いた。
全記録の統合が終わった。百五十年分の線が一本になった。星種実験、失敗、記憶消失、隠蔽、カイの記録、ヨランの証言、各地の老人たち。全部が同じ話だった。
これを「失星図」と呼ぶことにした。消えた星の記録と、その影響の記録。
補足に書いた。
「失星図は完成した。でもこれは終わりではない。星はまだ消え続けている。南西の星の時間は限られている。やることがある」




